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どうぜ死ぬ身のひと踊りを訪ねて

友人と改札で待ち合わせて
念願の信濃路に向かう
お店は駅の斜向かい
徒歩一分もないのだけど
階段を上がってくる友人は痛みに顔を歪めていた

最近さーあちこち痛いとこばっかりでさー

ジョギングの途中段差で足をクキッて少し躓いてから
最初は直接痛めた右の土踏まずが傷んで
次第にそこを庇って左側に痛みが移って
やっとその痛みを修正したところなんだけど
やっぱり歩くのがパタパタ左右に揺れてビッコタんになっちゃうんだよねえ

ふうん
お年頃アルアルだよねと
相槌を打つけど

私の心はもう店内へと
西村賢太さんがどこに座ったのだろうとか
何を頼んだんだろうかとか
定席があったんじゃないかな
絶対隅だよなとか
飛んでいたんだと思う

友人が足が痛いことは聴力検査としては聞こえていたけど
やっぱり聞いていなかったんだと思う

左河岸はカウンター
右岸のテーブル席に案内されるけど
いつかは左岸にひとりで座るぞと誓いつつ
ここは生だよなと思ったけど
いや瓶ビール派かもしれんと思ったり
いやホッピーかな
赤玉パンチかもしれないと
友達が呑兵衛だったので頼んでもらって
一口だけご相伴に預かる
赤毛は1杯飲んだらもう十杯飲んだみたいに赤鼻のトナカイみたいに真っ赤っ赤ーだ

冷奴は150円
セロリ漬は300円
チャンジャは350円
回鍋肉はキャベツと豚肉だけでピーマンがないとブーたれたら
元中華料理の料理人の友人がクックドウのサブリミナルでキャベツと豚肉とピーマンの炒め物を回鍋肉と認知しているけどキャベツがなくてもピーマンがなくても回鍋肉と言うんだと教えてくれた
豚肉と野菜のそういう味付けの炒め物くらいのイメージだそうな

ポテトフライをケチャップビッタビタに浸して食べる
友人は男のくせに箸でつまんでポテトをケチャップにディップしてる
あたしが手づかみなのもホントは嫌かもしれないなと思ったけど

二十年来の友人で今更カッコつけることもない

ちょっとおトイレと席を立つと
おおおっと予想だにしない展開で

席に戻って一言
何も聞かないでおトイレ行って

へ?と
訝しげな表情を浮かべたけど
まあそろそろ行きたかったのかもしれない
黙ってうんと席を立って奥のトイレに消えていく

暫くしてニタリと満面の笑顔で戻って来る

あれメタルだよね?笑

うん
音的にはメタルだな
ハードロック寄りのメタルだな

トイレに入るとグワングワン
ギターとドラムスのでかい音でトイレの壁が震えてんじゃねというくらいの生音で


有線でもここだけ入ってるのかしらと
上下左右訝しげに探すけど
あるのは換気扇くらいで笑
おそらく隣家のスタジオかライブハウスの音が換気扇を伝わって漏れてスピーカー?拡散されてるみたいだった

彼は中華料理屋の前はヘビメタのバンドマンでやっぱり赤毛の周りには音の関係者が多い笑

その彼の懐かしい音が思いもかけずトイレで再現されて
オシッコも止まっちゃったかしらん笑

暫くメタルとは云々と蘊蓄をブチかます友人のドヤ顔を見ながら
心は西村さんのどうで死ぬ身のひと踊りをぼんやりと思い出していた

隣の席はノンアルコールでナポリタン、親子丼にカレーライスをもそもそ食べるキャリーケース引いた3人の若者で
信濃路でノンアルもありなんだなあと
夜行で東京来てドミに泊まって激安料理ってネットで調べて食べに来たのかなあと思ったり思わなかったり

日中は春の気配だったけれど夜半にはまだひんやり冷たくて
せっかくだからってラブホ街を通り抜けて駅まで歩いたけど

足が痛いって聞いてたのに
スタスタ自分のペースで歩いちゃって
頑張ってもそんなに早く歩けないって懇願されて
やっともっとゆっくり歩いてって言われてることに気づいて

もう長くやってるから仕事では無意識に人に合わせてると思ってたけど
無意識じゃあ合わせないんだと気付かされて
普段如何に意識して人に合わせているのか
自分を殺しているのかと思って
意識しないとこんなに自分は身勝手で我儘なんだなあと
さっきからサンザ聞いてたのに足が痛いってと

足が痛いと ゆっくり歩いてねの回路が繋がらない
仕事じゃ絶対ありえないけど
普段の私はその配慮をしないもありなんだと思うと

自分だけがなんだか弱い立場の人に気のつく人みたいに思ってんだよな
だめじゃんアタシと
小っ恥ずかしくなる
鶯谷の夜に




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