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旅を補充する

旅の相棒は小さい黒いリュックサック一つ
進行方向とは反対側に流れる景色を車窓からぼんやり眺める

車の運転が壊滅的に下手糞なので
列車の旅が多い



旅の良いところは
その時の自分に役割はないというか
居場所がないというか

そこに向かうという目的はあるけれど

着いたところで
そこには家はないし
職場もないし
迎えてくれる友がいればそれは幸運だけれど

そこではパッセンジャー
ただ手持ち無沙汰に
通り過ぎて
眺めるだけ

京都なんか学生と観光客には優しい街って苦笑
観光で食ってく街の究極の進化系だと思うけど
アリッタケの金を落としてネと
世界中から観光客というなの旅行者を
おいでやすと営業スマイルで饗す

行き交う人と景色を眺める旅人の私には
普段の暮らしには付き物の責任がなくて

外国人観光客に交じってひとりお城の天守閣を登っても
牛に引かれて寺に参詣しても
兵どもが夢の跡と古戦場の青草を踏んで歩いても
その場所でしか味わえないと名物や地酒に舌鼓を打っても

何をするにしても
街に足跡を残すことはない

だけど
ケーナを吹いて日銭を稼ぎ
同じく旅をするチャリダーオジサンに出逢えば
自分の来し方と
浅黒く日焼けした少年の笑顔のオジサンの旅路が
一瞬短くクロスしたのを感じて
ああこの瞬間のために
自分はビクトル・ハラを民衆の歌を
元夫に教えてもらったのかもしれないと
奇遇ですねと
そうとしか言いようのない
ライブに耳を傾ける

通り過ぎながら
自分が引き出しに詰めてきたものと
照合作業をするというか
何故後生大事にこのボロボロの切れ端を
持ち続けているのか
ああ、ここでこう結びつくやつなのかと
旅の空の下なら合点がいくことがある

だから
思いついたみたいに
そうだ旅に出ようと

仕事や家庭では徹底的に当事者になろうと
自分で手を伸ばして掴んだものを
その持ち場を守らんと吉田麻也さんを降臨させているから

関わらないというスタンスで
半分透明人間になったみたいに
誰も自分のことを知らない街に
足を踏み入れるときを
時々自分に補充している

ああ旅が足りなくなってきたみたい
ベランダで洗濯物を干して
風が頬を撫でるとき
目を瞑ってここはカオサンロード
脳みそだけは先に旅立たせる







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