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一周年を前に

2022年2月21日(月)
もし職場に同僚が残業していなくて
1人だったら

もし業務で脳梗塞や心筋梗塞を起こしたその瞬間に居合わせて
なんども救急対応したことが自分になかったら

もし今自分に起こっていることを
正常性バイアスが働いて
そのサイズより小さく認知していたら

救急車を自分で要請して
救急搬送してもらうことはできなかったと思う

結局その時の検査では異常は見つけられなかったけれど

ああ、これは異常がなかったからって
明日出勤できるヤツじゃないのは自分でもわかったから
尋常ならざるってわかったから

暫く安静にさせてくださいと
様子を見て専門医を受診して検査しますのでと
翌日から仕事はスッパリ休んだ

コメカミが脈打つような頭痛は
点滴の痛み止めで治まっだけど
鉛のように頭が重くて鈍い頭痛が前頭葉を覆う
家で安静にしている分には何とかやり過ごせて
薄皮をはぐようには症状は和らぐけれど
どうなっちゃったんだろうアタシの頭

疲れてんだろうな
走り続けてきたし
無理しなきゃできないことばっかりだし
少し休もう

そう思いながら

2022年2月24日(木)
この日もシコシコとnoteを書いている笑
なんという執念だ

夕方五時に次女が高校受験からお世話になっていた
少人数制の塾から
動画視聴サテライト式の大手予備校に鞍替えするので
今までのお礼と最後のご挨拶に塾に伺う約束になっていたので

それは外せないと出かけて行った
その帰り道

橋の向こうに沈む橙色の夕日を写真に収めて
友人にBumpを知らないくせにBumpみたいにLINEを送った
その直後に
前回とほぼ同規模の頭痛に見舞われる


アア、キタ
コレハダメナヤツダ

どこをどう帰ったのか全く覚えていないけれど
歩いて五分ほどの道を
必死の思いで家に帰った

家にいた長女に
また頭が痛くなったから
薬を出してと頓服の鎮痛剤を口に含むが
全然そんなんじゃ効きやしない
痛みに震えていると
長女が実家の父に、実家の父から救急に連絡してくれ
祈りのリレー

救急隊と父がほぼ同時に家に到着した

救急隊員に事情を説明して搬送先を探してもらうけど
意識はあるし、
バイタルも血圧はメチャンコ高いけど
既往もないし、年齢も若くはないが決して高齢者でもないからか
前回搬送された病院が受けてくれるが、
治療は痛み止めを点滴するしか
コロナもあってできない状況だという
それでも良ければ、来てくれと

このコロナの間は、実はこういう限定的な受け入れが実に多かった
限定的な医療しか施せない

それでも納得してくれるのなら
搬送は受け入れる

でも手術もできないし
入院する病室も空いていないので
もし検査で治療やオペが必要だと判明しても
そこから搬送先をを探すことになりますと

それでもいいですかと

利用者さんの体調急変で救急を要請すると
こんなやり取りを何度もしたし
その内容を家族に伝えて
家族の了解を得て搬送先を決定して
病院で落ちあい家族にその後のバトンを繋いだ

それじゃあ、よくありません
父は言い切って
二回も同じような頭痛に見舞われて
何でもないわけがありませんから
他の病院を当たってください

父の希望を受けて隊員の方が
新たな搬送先を探してくれた
その病院は地域では中規模の二次救急医療機関で
第一希望の三次救急病院ではなかったけど
そこに賭けてみたという感じだった

ストレッチャーに寝かされて
今週二回目の救急車だなって
妙に冷静に思いながら

もう俎板の鯉ってこういうことねと
横になって痛みに耐える以外のことは何もできない状態で
だれか助けてくれと心の中で叫びながら
点滴入れられて
PCR検査やら
CT検査を受けると

担当医師が、血相を抱えて
それまでとは明らかに異なるテンションで

赤毛さん、くも膜下出血を起こしています

と私に告知した

えええええ?くも膜下出血って死ぬやつじゃん
あたし、これから死ぬの???

看護師さんの顔が緊張でピキッと張って
医療者のガチの本気を見ているような気がした
さっきと全然違うやんみんな私に全力で係ってる
部屋全体に意思があって、
この患者の命を救うんだという命題に向かって
見えざる手も含めて動き出している感じ

でも翻せば
それは自分の置かれている状況が深刻であることの証左だと
左脳が呟いた

ふらあっともう一人の年配の医師が姿を現す

赤毛さん、見てください、レントゲンに映るこの箇所
くも膜下出血を起こしています
この病院では治療をすることが出来ません



私は〇✖大学病院の脳外科の医師の水森です
月に三回ほど、大学病院の患者さんのフォローのために
この病院で診察しています
今日はたまたま診察日で出張してこの病院に来ていましたので

このまま僕の病院に赤毛さんを運びます
そして僕が治療を引き継ぎます
いまここにいるもう一人の大学病院の医師に
救急車にも同乗してもらいます
僕は後からタクシーで追いかけますから
病院で会いましょう。
いいですね。

はい。よろしくお願いします。

若い先生が顔色を青くして
ーよかったです、先生がいてくれて。
心強かったです。

的なことを言っているような気がしたけれど
本来いるはずのない大学病院の医師が
地域の中程度の病院のERにたまたま居合わせるなかに
クモ膜下出血を起こした赤毛が担ぎ込まれるという
鴨葱背負ってというか、台本があるのかよ!というような
状況で自分の命が繋がっていったことを思って

どの一つのピースが欠けてもはまらない
綱渡りのような細い回廊を通って
自分が大学病院のICUに運ばれたときに
助けられていると強く強く思って
ここに連れて来てくれたすべてに感謝して
暗室管理ですって顔に布掛けられて
最後にあの手術室の照明がチラッと目に入って
まだ布掛けるのは早いから止めてよって
思う余裕がある自分にホッとした苦笑

左右の腕に点滴が全然入らなくて
ああ自分の血管が普段とは全く違くなっているんだなあと
繋がった器械からピーピー音が鳴りやまなくて
ベットにめり込むのかと思うくらい身体が重くて
ズガンズガン頭全体が脈打つみたいに痛かったけど

先生、救急搬送の依頼です
って看護婦さんが電話に出たけど
あ、いま赤毛さんに対処しているから断ってと
先生が搬送を断ったのはハッキリと聞こえた

滑り込んだんだアタシ
でも自分がこの場で医師の治療を受けられるということは
誰かが治療を受けられなかったことと引き換えなんだ
そのタッチの差はただの偶然で理由なんかない

助かるってことを能天気に喜ぶことを
金輪際私はしちゃいけないと思った

グルグルグルるグル
頭ン中を走馬灯が巡って
オーバーヒートしそうな夜を過ごして

そのまま三日間ICUに繋がれた
受けられる最高の医療を受けて

unknownというそうだ
赤毛の左前頭葉のクモ膜下出血には原因が不明て
ゆえにというか
後遺障害もなく
自然に出血は消失して
フォローの定期通院でも異常は見あたらない

こんな風に患者さんのフォローに来院して
赤毛が運び込まれたんだと思うと
メビウスの輪が一周するような不思議な感覚に包まれるけど

水森先生曰く
原因がわからない以上は絶対ということはありませんが
僕が医師をしている医師人生の中で
赤毛さんのような原因不明のくも膜下出血で治療を受けもって
その後再発して僕が治療に当たった人を
1人も知りません

つまりとても予後が良いということです

年間5パーセントほどそういう患者さんがおられます。
お元気になられて何よりですね。

その最中にいるときには
やっぱり書けなかったけど

周年祭というか
区切りを前に書いておかねばと思った

先生方、看護師の方々、病院スタッフの皆さん
両親、娘たち、友人、職場の同僚
その他私の気づいていない私を助けてくれた方々
本当にありがとうございました。
もうすぐ一年経ちますが赤毛は元気です。






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