【note限定エピソード】佐治敬三の「調和」に魅せられて―それぞれの「大阪万博」体験②
1964年の東京オリンピックのメイン会場の一つとなった代々木第一体育館など、数多くの建築に携わった日本を代表する建築家・丹下健三。いまも万博記念公園にそびえる「太陽の塔」を遺した芸術家・岡本太郎。通産省の官僚として活躍後、作家としても『団塊の世代』などを著した堺屋太一。『日本沈没』などを著した、戦後を代表する作家・小松左京。日本における文化人類学のパイオニアである梅棹忠夫。いずれも、戦後日本を代表する文化人・知識人です。
これらの人物に共通するのは、1970年の大阪万博に携わったこと。彼らを筆頭に、紹介しきれないほど多くのいわば「日本の頭脳」たちがこぞって力を注いだ大阪万博は、まさに国を挙げた一大プロジェクトでした。
今回は、このような日本の先鋭たちが活躍した大阪万博に大いに刺激を受けた、新居浜在住のあるデザイナーのお話です。
大阪の千里のあそこなんか、ほんとは何にもなかったところなんよねえ。で、真鍋博さんとかもそうだけど、岡本太郎とか、日本の最先端が全部携わっとったんよねえ。自分の担当をもって。あれ見てたら、やっぱりすごいね。開高健とかの作家も、日本の頭脳がぜんぶ集まって、すったもんだしてやっとんよねえ。
1970年の大阪万博当時は、東京でデザイナーとして活躍していたこの方。今でも新居浜の生き字引的存在として精力的に活躍する彼に、「日本の最先端が全部携わっていた」と言わしめるほど多士済々だった大阪万博は、彼のデザイン活動に大きな刺激を与えます。
万博会場、ぼくも三日間くらい見に行ったけど、世界各国からすごいものが集まってきたんよ。アポロの「月の石」とか展示したり。それだけねえ、なにか雰囲気が違うんよねえ。ソ連館とかも、最新なんよねえ。世界から全部集まってきよったんよ、最先端のものが。
当時は東京でね、デザインをやってたから、ぼくの知ってる人もいろいろ携わってたからね。
それが、すべての点でかっこよかったね。刺激にもなったし。
各企業が頭をひねって、自分たちが考える将来のことを全部、出して来とんよねえ。お風呂とか、人間洗濯機みたいな。世の中みんなが、わくわくそわそわするムードが続いていて、各企業も参加しやすかったと思うんよね。「人類の進歩と調和」というテーマもあるし。
「人類の進歩と調和」というテーマの元、各国から集結する最先端技術。日本国内の出典企業も、自分たちが思い描く近未来を形にすべくアイデア勝負を繰り広げます。
このように様々に繰り広げられる「人類の進歩」についてのアプローチはしかし、「と調和」という言葉からも推察されるように、公害問題などの弊害を副産物とし得る、いびつなものでした。
東京で若手デザイナーとして活躍していた彼は、この「調和」の部分、すなわち工業的・物質的な進化・進歩を、いかに地球環境、自然環境を損じない形で進めていくべきか、という点の重要性を早くから自覚していました。それには、当時の産業界のリーダーの一人・佐治敬三(サントリー2代目社長)が大きく影響していたようです。
僕は当時、とくにサントリーが刺激になったよね。ぼくはペン画を描いとるじゃない。サントリーは自然の、樹とか森とかへの畏敬の念を、ずっともってたんよね。
サントリーの大橋正さんいうて、知ってる?彼のサントリーのイラスト、見たことある?昔からあるやつで、果物とか野菜を切って、断面図の。
いま、SDGsとかっていうけど、万博のころから、サントリーの佐治敬三さんなんかは、当時からSDGsと同じようなことを言ってたんよね。だから、佐治敬三さんのころのCMなんかは、全部自然をテーマにしとんよ。点描で、自然の風景を描いて。自然も大切にせないかん、いうて。
佐治敬三さんが「国際デザイン交流協会」というのをつくって活動して、東南アジアでも自然を大切にせんといかん、と活動しよったんやけど、関西の財界人はほとんどこれに加入しとったんじゃない?堺屋太一さんとか。大阪万博なんかは、そんな堺屋太一さんなんかが中心になって企画しとんよね。
「自然への畏敬の念」を、当時のCMなどで盛んに発信していたサントリー。その理念的な中心人物だった二代目社長・佐治敬三の影響を受けたことが想像に難くない、堺屋太一。彼こそ、通産省の閣僚として大阪万博の企画・実施を中心的に進めた人物でした。
堺屋同様に、佐治敬三率いるサントリーの発信するメッセージから大いに刺激を受けたこの方。今でも、散歩を日課として新居浜の自然や四季の移ろいを肌で感じる日々です。
ぼくなんかはよく散歩したり、自転車とかで走り回ったりするんやけど、ものすごい落ち着いたり、気づきがあったりするんよね。カワセミなんか、見ないやろ?滝の宮公園にもおるんよ。金栄小学校のところにもおるし。
新居浜にもいいことがあるんよ。でもみんな、車やろ。だから見てるようで、新居浜のこと、みんな、見てないんよ。やっぱり、ゆっくり行くのが大事なんよ。