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オープンサイエンス

この物語は、崖っぷち文系博士課程の院生が奮闘する日々の記録。

○大学図書館・パソコン席


 ずらりとパソコンが並ぶ。学生がまばらに座る中に、あかちゃんもまぎれている。

あかちゃん「今日のミッションは論文記事をいっぱい探すこと。論文検索と言えば、CiNii(注1)。」

注1)CiNii(NII学術情報ナビゲータ[サイニィ])は、論文、図書・雑誌や博士論文などの学術情報で検索できるデータベース・サービス。

あかちゃん「ある分野の本を何冊か読み漁ってると、だいたい同じ研究者の文献が引用されていることに気づく。そしたら、今後はその先生の業績を確認してみる。そういう作業をしていくと、徐々にその分野はどこの大学のどういう人たちが研究を進めてきたのか、系譜が見えるようになる。」

 スクロールの動きを止め、一つの記事をカチッとクリックしてPDFを開く。

あかちゃん「でも先行研究ってどこまで把握するべきか悩ましい。論文に直接引用しなくても、参考資料として目を通しておいた方がいい文献もあるだろうし。その分野の全体像が見えてない状態で、研究を辿る作業は果てしなく感じる。少しずつ少しずつ、このテーマなら、こういう文献をおさえておけばよしって把握できるようになるんだろう。そう考えるとその分野を究めるには本当に20~30年は続けないといけないんだろうな。2~3年でどうこうなるものではない。」

 席から立ちあがり、印刷機の方に足を運ぶ。学生証を印刷機の横にある画面にタッチすると、パソコンから送った印刷データ一覧が表示される。間違いないか確認をして、「全て印刷する」ボタンを押す。印刷機から紙の出力が始まる。

あかちゃん「大学のいいところ、年間一定枚数までは印刷が無料。これは助かる。私は未だに紙で論文をファイリングするスタイルでやってるもので。気軽にPDFをダウンロードできるからこそ、ちょっと気を抜くとパソコンに謎のPDFデータが溜まって、収拾つかなくなってしまう。文献管理ツールもいろいろあるけどね。アナログでもデジタルでも、ちゃんと整理をするのって大事。」

 出力が全て完了したところで、紙をそろえて、近くの台に備え付けてあるホッチキスで止める。作業を終えると、先ほどのパソコンの席に戻る。

あかちゃん「オープンサイエンスという、研究は広く公表するべきという流れがあって、最近は随分インターネット上で閲覧可能な論文も増えた。在野の研究者(注2)という道が可能になっているのも、そういう基盤あってのことだろう。」

注2)在野研究者:大学に所属しない民間の研究者。

 印刷した論文をパラパラとめくって、参考文献の欄を見る。気になるタイトルを見つけたようで、さらにCiNii検索を続ける。

あかちゃん「でも検索したときにPDFが公開されてなくても、なんでないんだよ!って思っちゃいけない。誰かが論文PDFのメタ情報を付与して、システムに登録してくれてこそ初めて利用できるようになる。研究者が論文を書いてしかるべき機関に投稿したら、自動でネットに上がってくるわけではない。機関リポジトリ(注3)を運用するにも持続して人員と予算を確保する必要がある。」

注3)機関リポジトリ:大学や研究機関における知的生産物を電子的形態で集積し保存・公開するために設置する電子システム。

あかちゃん「なんならそのお仕事やりたい。論文のオープンアクセス化のお手伝いがしたい。それだけをやりたい。現実的にはいろんな業務の中の一つとしてやっているのだろう。図書館員さんとかもそう。」

 パソコンをシャットダウンし、印刷した紙が折れ曲がらないようにファイリングして、鞄にしまって、立ち上がって歩き出す。

あかちゃん「事務的な作業は苦じゃないし、他のお仕事もたぶんできる、というか興味あるけど、やっぱり一番やりたいのは研究。他のことやってても勉強したくなっちゃうって自分でわかってるから、満足いくまで、いったん研究頑張る。」

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