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自分の尊厳は自分で守ると気づいた話

職場の別部署にすごく優しい女子がいる。別にその子に聞かなくてもいいのに、私も含め皆がついつい、彼女を頼ってしまう。いつも笑顔で優しいし、頼みやすいし断らないし。

反対に、当たりがキツく、頼むと露骨に嫌な顔をする彼女の上司には、私を含め、誰も話しかけたがらない。結果として優しい女子は、キツイ上司にたしなめられながら、独りで抱えて残業している。そして上司は彼女に「要領が悪い」ととがめ、さっさと定時で帰る。

会社には優しさゆえ残業する人と、「断るのも仕事」を信条にさっさと帰る人がいる(そのキャラ設定は誰のおかげで成り立っているのかは永遠に思い至らずに)。会社だけでなく、世の中も、きっとそういうふうにできている。

私も優しさゆえ、残業する方の人である。優しい人は自分で「優しい」とは言わないけど、自己分析のために書くのでここでは言う。

今私が働く編集部には、土日働いても代休が消化できない人(私はこっち)と、さっさと定時で帰り有給もゆうゆう消化する人がいる。後者は介護や子育てがあるそうなので、私も間接的に協力せねばと、彼ら彼女ら以上の仕事を請け負ってきた。

介護で大変だというお局(同居家族は3人いる)には、「あなたは残業できるだけましだ」と言われた。事あるたびに彼女から「いかに独身のあなたが楽で、自分が苦労を負っているか」アピールをされる。そこに反論はせず、黙って残業してきた。

同居家族がいようとも、一人が介護を一手に担うことはあるのだろうし、苦労しても「誰も見てない、報われない」と本人が感じる日々が長く続けば、八つ当たりの一つもしたくなるのだろうから。

私はそう思う。けど彼女からは、独身の私たちが居残って、私語もせず、ガス抜きの吞みも一切なく(時間がないし疲れてるので)、黙々と仕事を片付けても、お疲れさまの一言もない。「あなたたちは残業できるだけまし」だから。

だけど、このコロナ禍でリモートワークになって、段取り、仕事分担、フォロー、諸々をZOOMやメールでやるようになって、私は悟ってしまった。「介護、関係ないじゃん」。

彼女は、要はいかに自分が断るかに長けただけの、圧倒的に仕事ができない人だった。やれ、ネット回線がつながらないから私はできないだの(それを解消するため彼女だけノートPCが支給されたのに)、〇〇線は一番混むからもう帰るだの(いや、いいけど)。

これは、身近なお局という一個人と長年、相対した私的体験による考察。だから介護や子育てで文字通り大変な人も知っているし、本来現場でいがみ合うものではなく、互いの怒りは、働きやすさを整えない会社や国に向けなければと思っている。

に、しても。現場レベルでは、結局、声の、主張の強い人の「言ったもん勝ち」なのではないか。

なぜこんなことを考えたかというと、いよいよ彼氏と結婚することになったのだが、私が結婚後に「主人が出張を嫌がっていますので土日出張はできません」「主人の夕食の準備がありますので帰ります」というキャラ設定にしたら(「主人」の呼称すごく嫌いなので敢えて使う)、お局は、会社は、どう出るんだろうか。彼氏の親はけっこう高齢なので、「義父母の世話がありますので」もありだ。

私は前の結婚の時、週末の泊まり出張からの家事も普通にやっていたが、そこを逆に「ご主人は出張、反対されないんですか?」などと聞いてくる人もいた。ああ、人の捉える世界はバラバラで、言ったもん勝ちで、職場なんてそんなバラバラ、あやふやな価値観の集合体でできているんだなと。そして、声の強い人が強いまま定時で帰り、優しい人は優しいまま残る。
(※そうならないよう配慮が成されている企業もあるのでしょう。だったらうらやましいです)

さて、先日、婚姻届に保証人が2人必要というので、まずは彼氏の実家のおとうさんにお願いすることにした。その前の晩、ネットで某出版社の編集者がセクハラで糾弾されていて、前夫もその界隈に近い場所にいたので、ちらと前夫のことを思い起こした。今何やってるか調べたら、某誌で編集長をしていた。

翌朝、彼氏の実家に出かける前に、私は彼氏に「お母さんにあまり大きい声出さないでよね。 私あれ嫌いなんだ」と言った。

そしたら彼氏が「それは仕方ないよ。慣れてくれないと」と言ったので、そこで喧嘩になり、そのまま気まずく出かけた。

後で聞いたら、お母さんは耳が悪いので声を大きくせざるを得ないという。先に言ってくれれば良かったのに、この歳で2度目のマリッジブルーが来たのか、私は彼氏のその発言を「嫁扱い」に受け取ってしまい、急に「いいのだろうか、このまま彼氏の家に行って、おとうさんにサインもらっていいんだろうか」という気持ちになってしまった。

そしたら、出発前の地元の駅のホームで、まだ20代の頃、前夫とここでデートしたなあ、その私が二度目の結婚だなあ、いいのかなあ、とか、なぜか、前夫の顔が膨らんできて、電車に乗ったまま私は涙が止まらなくなってしまった。マスクが幸いして周囲には気づかれなかったが、彼氏は黙っている。

乗り換えた電車から目的地まで、40分ぐらいかかる。気まずいまま、2人で並んで座る。

そこでさすがに、考えた。

優しい方は、傷つけられても相手を思ってしまう。私がそうだった。離婚のときも。

それって、バカじゃないのか。

私、本当にバカじゃないの。お人よしの、バカ。

相手は人を傷つけたことなんかとっくに忘れて欲望のままに生きている。こっちがちょっと顔思い出したことを勝手にナイーブに解釈して、今何してるかとか調べて、どんだけバカなんだ、私。

失礼だろうが、今の自分と、今、私が好きな人に。お人よしっていうか、人としての尊厳がないただのバカ。バーカバーカ。

…と、心で何度も何度も、自分を罵倒し、気合を入れたら涙が引っ込み、すっきりした。彼氏の実家で大変楽しくご両親とお鮨を食べ、保証人のサインをもらって帰ってきた。

というわけで、「優しくて断れない私」が出てきた時に、心で自分を罵倒し気合を入れるというコツを覚えた自分は、職場のお局とずいぶんやり合うようになりました。職場にはそのたび緊張感が漂いますが、理不尽には理不尽と言わないとダメです。

「優しい人」の同志に、言いたい。たまにはちゃんと自分と、自分を傷つけた相手を口汚く罵倒して、前に進もう。利用されて軽くみられてるって、きっと自分でも分かっている、それを自分で受け入れちゃだめです。自分の尊厳は自分で守らないと。

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