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小説【僕はもう一度キスをした。】3

3 二口目のココア…。

「そうだっけ…」
 僕はそう言うと真由は「そうだよ」と言いながら二口目のココアを飲んだ。
「暖かい…」
 僕は真由の笑顔をじっと見ながら「あとで送るから病院戻ろう」と言うと真由はずっと黙ったままカップを見つめ、僕の顔を見ると「…うん」と小さな声であきらめたようにうなずいた。その雰囲気が嫌で僕は何か言わなきゃと思っていると、ブーブー…とテーブルに置いていた携帯電話が震えだし僕は表示を見て真由を一瞥し「ちょっとごめん」と携帯を持ち寝室で電話に出た。
「はい…」
「もしもし、林原先生…」と声の主は焦っているようだった。
「はい…」
「河野真由さんがいないんです…。何処か行き先に心当たりありませんか?」
「…」
「先生?」
「…ありま、せんね…」
「そうですか。あの娘点滴の針を無理矢理抜いたみたいで、止血しないと…」
「僕も探してみますよ」
「休日なのに悪いけど、お願いします…」
「はい…」
 電話を切り僕はベッドに座った。
 どうして嘘をついてしまったんだろう…。
 リビングに戻ると疲れていたらしく真由はソファーに寄りかかりながら眠っていた。真由の身体にコートをかけた瞬間真由はハッと目を覚ました。
「起こしちゃった?」
「ううん。寝ちゃったんだ…」
「らしいな」
「電話、彼女から?」と真由は遠慮がちに言った。
「彼女なんて居ないよ。病院から。君を探してるって」
「そう、なんだ…言ったの? 私がここにいるって」
「いや…」
「言えばよかったのに…」と少し震えていた。
「何で?」
「迷惑なんでしょ。ホントは…」
「そんなこと…」
「そうだよ! 絶対…」
 僕は真由と目を合わせじっと見つめていたが、真由は目線をそらし「いつ死んでもおかしくない我がままな患者に休日まで奪われて俺ってついてないって思ってるんでしょ?」と目に涙を浮かべながら言った。
「思ってないよ…」
「早く帰れって思ってる。…早く死ねって」
 パシンッ!!
 部屋中に響き渡る。
「いい加減にしろ!」
 思わず真由の頬を叩いていた。真由は叩かれた頬に手をあて下唇を噛み涙を堪えていた。
 何やってるんだ俺は…。
 そう思いながら僕はキッチンに行きタオルを濡らすと真由に渡した。真由は赤く腫れてきた頬にタオルをあて冷やし始めた。僕は無言のまま真由の隣に座り静かに抱き寄せ「思ってねぇよ…」と呟いていた。
「ごめん、なさい…」と真由の声が震えだし涙を流し始めた。
「…痛かった? ごめん…」
「ううん…」
「俺さ、そんな目で真由のこと見てたのかな…?」
「ううん…違うの。ずっと…いつ死んでもいいと思ってたのにあなたに出会ってまだ生きていたいって思っちゃったの…。でも、あの部屋に一人でいると怖くて…。あなたが休みの日が怖くて…。私どうなっちゃうんだろう。怖いよ…」
 僕は手を伸ばし涙で湿った真由の頬に触れ、小さな形の良い唇に触れ、顔を近付けて行った。震える唇と重なった瞬間…。

 分かったんだ。
 真由を愛せるかどうかじゃないって。
 僕が真由を好きなんだと。

 僕はゆっくり唇を離し驚いている真由と目を合わせた。
「どうして…」
「普通は聞かないだろ」
 納得行かない顔で「うん…」と頷いた。
「愛してるよ…。ずっと真由が好きだった」
「うん…」
 今までに見た事のない笑顔の真由に、僕はもう一度キスをした。

≪end≫




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