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小説【雨の匂いとシャンプーの香り】2



 
玄関にいる千春にバスタオルを渡すと長い髪をふきながら言った。
「ありがとう。おばさんは?」
「通夜の手伝い行くって。俺も後から行かなきゃ行けない見たいなんだけどさ…」
「そうなんだ…」
「中入れば」
「いいよ。私はここで…」
「カゼひかれても困るし、中入れよ」
「うん…」
 千春を自分の部屋に通した。
「懐かしい…小さい頃と家具の配置あんまり変わってないんだね…」
 「えっあぁそうかも…」と返しながらタンスからスエットを探し渡した。
「ありがとう…」
「着替え終わったら出て来いよ」
「うん」
 僕は部屋を出て、湯を沸かしココアを入れているとブカブカのスエット姿の千春が出て来た。その格好を見て「似合ってるよ」と笑うと千春はムスッとした。
「仕様が無いじゃない。昔なら私の方が背高かったのに、急に祐斗が大きくなるんだから…」
「いや、急に人は大きくならないだろ。いつの話ししてんだよ。はい、熱いから気を付けろよ…」
 言いながらティーカップを渡した。
「ありがとう…」
 カップを受け取るとソファーに座りフーフーと冷まし一口飲むと「甘ーい」と呟いた。
「疲れてるみたいだから…何かあった?」
 僕は千春の隣に座った。
「別に…ちょっと近くまで来たから半年前住んでた部屋に誰か入ったのかなと思って…」
「そッ、誰も入って無いよ…」
「そうみたいだね…。あの部屋朝日浴びて起きれて好きだったんだけどな…」
 千春は僕の顔を一瞬見るとティーカップを見つめながら続けた。
「ついでにね、ついでに祐斗元気かなって」
「ついでかよ。待つなら連絡ぐらいくれよ」
「うん…」
 少しの沈黙。静まり返る部屋に聞こえるのはやまない雨音と遠くで鳴り響く雷鳴だけだった。カップで手を温めていた千春はこちらを見ると口を開いた。
「…聞かないの?」
「聞いていいの?」
 千春は少し視線を反らすと「お母さんとケンカしちゃった」と呟いた。
「そっ。珍しいじゃん…」
「うん。珍しい…。色々とね、色々たまってて、酷い事言っちゃった…」
「そっか…。でも、後悔してんだろ?」
「うん…」
「だったら、また仲直りできるよ…」
「うん…ありがとう…。祐斗って変わらないね」
「そう?」
「そう」
「変わって欲しかった?」
「ううん。そのままが好き」
「そっ…」
 僕は千春の顔を覗き込み軽くキスをして額をくっつけ合った。急激に赤らめ、はにかむ千春。
「何で?」
「千春が好きだから、かな…」
「かなって何よッ」
 千春は僕の膝の上に跨がると、腕を伸ばし僕の頭を抱き寄せ僕も千春を抱きしめた。千春の髪から雨の匂いと微かに甘いシャンプーの香りがした。息遣いが心地よくて不思議な脱力感に襲われ急に眠くなってきた。
「なぁ千春…」
「それ以上言わないでッ」
「ずっと側にいてくれないか…」
「言わないでって…」
「千春が好きなんだ…ガキの頃からずっと千春しか目に入らなかった…」
 千春の顔を覗こうとしたけどきつく抱き締められてて見えなかった。でも千春の泣いてるような息遣いを感じながら僕は脱力感と共に寝ていた。

≪続く≫




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