「スマーフ」 紙城境介『シャーロックアカデミー』:創作のためのボキャブラ講義07

本日のテーマ

題材

「まあ仕方ねえだろ? 実際、あんたの実力だったら、探偵学園なんて真面目に通っても初心者狩りスマーフにしかなんねえわけだし」
「スマっ……!? た、確かにそうかもしれませんが、私にだって事情があるんですよ!」

(一巻165ページ)

意味

スマーフ
 初心者狩りのうち、特に上級プレイヤーが自身のランク等を偽って行うもの。低ランク同士がマッチするゲームのシステムを利用するなど。


解説

作品概要

 ライトノベルや漫画の中には、特定の職業につくための訓練を施す高校を舞台にした作品がある。漫画でいえばヒーローの資格を得るための高校を舞台にした『僕のヒーローアカデミア』などが分かりやすい例だろう。

 遊戯王ではデュエルを学ぶ学校として『遊戯王GX』でデュエルアカデミアが登場した。さらに時代の流れから学校ではなく塾を中心的な組織としたのが『遊戯王ARC-V』であると言える。塾の一般化やオンライン学習の発展によってその舞台設定は影響を受けるものの、未だに根強い設定が職業訓練学校だと言える。

 ミステリの世界では探偵になるための学校が舞台になることがたまにある。有名どころは『探偵学園Q』だが、マニアなら『セーラー服と黙示録』シリーズなども思いつくだろう。今回紹介する事例の出典作品『シャーロックアカデミー』もこの流れに位置する、令和の最新探偵学園ミステリである。

 物語の舞台は日本で唯一、探偵の国家資格を得られる高校、真理峰学園。そこに入学したのが主人公の不実崎未咲ふみさきみさきとヒロイン、詩亜・E・ヘーゼルダインである。実はこのふたり、前者が犯罪王の孫で後者が名探偵の娘である。世紀末1999年に起きた犯罪王と名探偵の大一番が探偵時代を作り、現代にその子孫が相対する王道の宿命である。

 なおミステリはあまり読んだことなくて……という人にも安心。ライトノベルである本作は事件の解決に必要な手がかりをすべて太字で示すという手法を取っており、作者は「再読でびっくりするな、初読でびっくりしろ」と本作の試みを端的に語っている。

スラング

 さて本作の主人公とヒロインはその経歴から、あまり対等な友達付き合いが得意ではなく、遊びはもっぱら家でゲームという共通点がある。特にヒロインの詩亜は表で完璧お嬢様を演じつつ裏ではぐうたらなインドアゲーマーという鉄板の落差を見せつけている。そんな二人だからこそ飛び出すスラングが今回の「スマーフ」である。

 対戦系ゲームはイーブンな試合展開を演出するため、また単にプレイヤー同士の格付けの都合から、同じランクの相手プレイヤーとマッチングするようになっている場合が多い。つまり同じレベル帯にいる、同じ程度の実力の者同士が戦うことになる。この辺はスプラトゥーンのウデマエ制などを思い起こしてもらえればすぐ理解できるだろう。

 スマーフとはこうしたシステムを逆に利用し、上級プレイヤーが別アカウントを作るなどして低ランク帯に潜り込みプレイヤーと対戦する初心者狩りの一種である。場合によってはゲームの運営側が厳格に禁止していることもあるようだ。別アカウントを作成すること自体も問題になる場合があるため、ゲームプレイ時は規約をよく確認しよう。

 物語のヒロインである詩亜は既にその道では有名な探偵であり実力も十分。そんな彼女がまだ探偵として訓練を受けている生徒たちに交じって学校に通う様を指して主人公は「スマーフ」と言ったわけである。ちなみに彼女が学校に通っている理由は、日本で活動するために日本の国家資格が必要だったから。さすがにこれを初心者狩りと言うのは酷である。

補足

 スマーフは英単語で「smurf」と表すらしい。いわゆる俗語なので辞書載っていないケースが多いようで、実際私の手持ちの電子辞書にも記載はない。意味としてはネット上で身分を偽るような行為を漠然と指し、特にゲーム用語として認知度が高いようだ。他にもマネーロンダリングやハッキング攻撃の表現にも使われているという。

 「smurf」という名前のキャラクターが存在し、そこから派生した俗語とする説もあるようだが真偽のほどは知れない。

 初心者狩りにもいろいろと種類や動機などが存在する。ゲームでクエストや対戦をこなした際の報酬が目当てだったり、ただ勝つことが目的だったり。共通する問題点として、初心者狩りをされたプレイヤーはゲームから離れてしまう場合が多いため、結果としてコンテンツ全体の過疎化を招くことが挙げられている。

情報

作品情報

紙城境介『シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する』
(2023年6月 KADOKAWA)

リンク


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