「バージニア州ラングレー」 広江礼威原作アニメ『ブラックラグーン』:創作のためのボキャブラ講義03

本日のテーマ

題材

「あなたの思い違いよ。その女は他人。私は暴力教会のクソ尼だもの。でもひとつだけ、本当のことを教えてあげる。私はアラバマの生まれじゃない。私の故郷はバージニア州ラングレーよ」
「てめえCIA!?」

(アニメ第18話)

意味

バージニア州ラングレー
 アメリカの地名。中央情報局すなわちCIAの本部があることから地名そのものがCIAの換喩つまり言い換えとして機能する。


解説

作品概要

 大企業の資材調達部に勤めるうだつの上がらないサラリーマン、岡島緑郎はある日、企業の非合法な業務の証拠とともに、海賊で運び屋のラグーン商会に拉致される。会社に見捨てられたことや、ラグーン商会の面子に気に入られたことからロックとして海賊稼業に入る。そしてタイの架空の犯罪都市ロアナプラで様々な事件に巻き込まれながら、裏世界の人々の生き様と死に様を見ていくことになる。

 『BLACK LAGOON』はクライムサスペンスであり、ガンアクション漫画でもある。ヒロインである二丁拳銃の使い手レヴィの八面六臂の活躍はもちろん、腕っぷしは立たないが交渉能力に長けるロックの丁々発止のやり取りも魅力だ。

 そんな本作には多くの陣営、多くの人物がロアナプラで蠢く様が描かれる。ソ連の軍人崩れのマフィアであるバラライカと、場違いなメイド姿の戦闘機械ロベルタは本作を知らない人間でも見たことはある、というレベルの知名度を誇っているはずだ。

 そうしたキャラ達に負けず劣らない癖の強いキャラは他にも多く、今回紹介する発言の主であるキリスト教教会のシスター、エダは酒を飲み男を漁る破戒僧である。しかしその正体はロアナプラで犯罪組織の監視を行うCIA職員で、教会と協力関係にあるという実態。

 エダがこの発言をしたのは、アメリカからロアナプラにやってきたいわば悪党のおのぼりさんとも言うべきカウボーイとの戦闘中。エダの顔に見覚えがあるというカウボーイに、彼女は自分の正体をそれとなく告げる。その後、田舎者のカウボーイや彼を連れてきてデカい顔をしていた小悪党がどうなったかは言うまでもない。

言葉の解説

 地名が特定の組織などを示すという、少し理解しづらい表現が今回のラングレーである。とはいえ、この手の表現は割と多くあり、例えば「俺は霞が関に住んでいるんでね」と言えば、その人物が省庁の役人だろうことは想像がつくだろう。

 日本の地名に限ってもこうした用例は多く、「桜田門」は警察、「市ヶ谷」は自衛隊を示すことがある。あるいは「二丁目」はゲイ的な文化の中心地、「お台場」「赤坂」はメディアのお膝元など、その地域に拠点を置く組織や集団の性質を色濃く反映すると言える。

 裏返せば「この場所ってこういう性質だよね」という共通認識があればいいので、地名は架空のものでも構わない。妄想的な曲解で現実を認識する人間に対し「並行世界からの迷子」「自分のバースへ帰れ」と吐き捨てるのは、その人の妄想が現実である世界を仮定した上で「そこはこの現実世界と違う」という意味の表現である。

補足

 こうした表現を「換喩(メトミニー)」と呼び、要するに表現したい本題に対し、近い何かを用いることで代わりに表す手法のことである。CIAを表現するのに、本部のある地名ラングレーを用いるのがまさにそのパターン。

 「比喩(メタファー)」と似ているが、表現したい本題に対し何らかの類似性を見つけて言い換えるものが比喩であり、換喩は空間的時間的な接点があればそれでいいわけだ。
 
 例えば労働者を「ブルーカラー」「ホワイトカラー」と呼ぶのは彼らの職業柄身につける衣服の色を指す……つまり空間的接点を用いているため換喩だが、近年生まれた(というか捻りだしたか)らしい「メタルカラー」は「ブルーカラー」という元々の用語、そしてAI関連業務という性質から類似性を見出して名付けているため比喩的表現だと言える。

情報

作品情報

広江礼威原作『BLACK LAGOON』(2001年~)

リンク


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