アメリカの銃規制と銃所持者の態度で思うことなど:創作のための戦訓講義59


事例概要

発端

※海外でYouTubeを見ていた際、接続場所の都合かいつもとおすすめされる動画が変わり今まで見たことのないチャンネルを発見する。

※アメリカに在住し銃を所持する日本人のようだ。実銃を日本人男性の体格で持ってくれるし、射撃から分解まで細かく説明してくれるので創作の参考として大いに助かっている。

※銃規制についても、日本側からではいまいちピンとこないことを説明する動画があり参考になる。以下はこれらの動画を参照した際の感想。

当時の見解1

当時の見解2

個人見解

ATFという組織

 この手のアメリカの銃規制でよく槍玉に挙げられるのがATFという組織。アルコールやタバコ、火器と爆発物などの取り締まりをする機関だが、現在はアルコールやタバコの取締事例は基本的にないのでもっぱら銃火器関連の取締機関という立ち位置だ。

 動画で上げられたピストルブレースの問題は以前から話題になっているもので、2024年現在はとっくに規制……されているかどうかは、日本語ソースからはちょっとすぐには確認できなかった。規制するかしないかの瀬戸際が一番盛り上がるのはどんなジャンルも同じ、ということなのかもしれない。

 ピストルブレースの持つ問題に関しては後述するとして、ここで盲点だったのはATFという機関の位置づけだ。ATFはあくまで取締機関であり、法律を立案する機関ではない。警察すら複数存在するアメリカらしい組織の建付けだが、そんな組織が議会などを通さずルールを敷いていいのか、という問題があるようだ。

いやこれはストックのつもりだっただろ

 さてここで規制の対象となるピストルブレースだが、これは写真などでは分かりづらいが腕を通して保持するための道具である。見ての通り形状がストックに非常に似ていることから、いわゆる脱法ストックとして認知されている。

 詳しくは動画を見てもらったほうが早いが、要するに一定の長さ以下の銃身を持つライフルをショートバレルライフル(以下SBR)と規制の都合上区別しているようだ。この区別もかなりややこしく、それも拳銃などの規制を含めたルール作成の結果らしい。ともあれ、ピストルとSBRでは登録の手間や税金に差があるため、短いライフルはストックを取り外しピストル扱いで登録する場合がある。ライフルをピストル化したもの、と言われるよくわからない製品などがアメリカの民間市場にあるのはそのためだ。

 今回の規制は要するにピストルとなっているアサルトライフルを正しくピストルとして、つまりピストルブレースを終始つけないものとして運用するか、ピストルブレース含めたSBRとして運用するか明確にしろという話だろう。

 以前の記事で銃器関連雑誌でのピストルブレース規制に関するライターの態度について言及した。上記動画投稿主もライターと同じくこうした規制を「アメリカ人を一夜にして犯罪者に仕立て上げるもの」という認識と怒りをあらわにしているのは興味深い。たしかにアメリカ人的には武装の権利があるのだろうが、いくら住んでいるとはいえ日本出身者がそんな簡単にアメリカの権利に沿った義憤を抱くものだろうか、という疑問もある。

 それはさておき個人的にはこのピストルブレース、上でも指摘したように最初から脱法ストックのつもりだっただろとは思っている。そもそもどうしてブレースまで使ってライフルを片手で運用したがるのか。そんなわけはなくて「これはこう使う」と思わせておいてストックにする気満々だっただろうと。だから余計に規制に怒る彼らの義憤がどうにもしらける、という事情もある。

複雑さとアンフェアさ

 こうしたアメリカの銃規制の複雑さには種々の事情がある。アメリカ二大政党のうち、銃規制を勧める民主党と規制緩和を望む共和党が交互に政権を取ればその都度規制が進み緩和されを繰り返される。州ごとの独自性が強く、銃規制のルールも州ごとに異なるなど。

 しかしやはり、武装の権利それ自体が憲法で認められていることは大きい。つまり人権の中に銃を持つ権利がある、というのがアメリカの発想だ。人権は他者の人権とぶつかったときのみ、最小限の調整をするべきだ。そうなると、可能な限り武装の権利を保護しつつ、同時に他者の生存権も保護するための慎重な規制が必要ということになる。

 こうした極めて難しい調整の結果が複雑な銃規制のルールに繋がっている側面はあるだろう。にも関わらず、銃を大量に持ちたがり、脱法アイテムを使って遊びたがり、そのくせ銃規制の難しい問題に寄与するでもなく出来上がった複雑なルールをナンセンスと嘲笑うのはアンフェアなのではないか、と今回の件で思った。動画の主やライターが銃規制の呼び水となる銃乱射事件などにどう思い、どう対応しているかは定かでない部分は多いものの。

ちぐはぐな感性

 これは直接銃規制の話題とは関係ないのだが、少し気になったので補足する。件の動画主の動画を見ていると、コンシールドキャリーに関するものもあった。

 まあこれ自体はアメリカではそうなんだなあくらいのものだが、訓練の様子を見て段々「そこまでするかあ?」という気にもなってきた。いや人殺しの道具を持ち歩いているんだから訓練は大事だし、車に乗っている状態での射撃訓練もそら想定して然るべき状況だしな、というのはよく分かるのだが。

 不可思議な感覚はどこから来るのか。警察官でも軍人でもない民間人が、本当にこんな状況下に陥ったら自分で対処するのか? できるのか? という疑問もある。それだって動画で言われるように手段を残しておくことが大事、というのはよく分かるのだが……。

 上はアサルトライフルの関連動画である。この2つ目の動画で動画主はライフルを「値段のかかるホビー」と表現しているのが興味深い。護身用の武器なのか、玩具なのか。持ち運ぶ拳銃と長物のライフルではそもそも扱いが違う、ということなのかもしれないが。

 ライフルをあくまで射的用の玩具とするなら、じゃあ45度に取り付けたドットサイトは何の意味があるのか。この手のサイトはスコープで対処できない近距離に対処するものだが、射的用なら「近距離の対処」などあるはずもない。ウェポンライトをつけるか否かについても、屋内のクリアリングの用途を述べているが同様である。射的用なら最初からそんなものはいらない。

 エアガンなどと同じで一種のごっこ遊びなのだろうとは思う。ただアメリカのミリシアなどの事例、そして彼らがまるで軍人かSWATかのように訓練ごっこをしている様子。同時に持ち歩く護身用の銃と、ライフルで殺傷力がある点に違いはなく、これらの線引は本当にあるのか違和感を抱く。線引があるつもりでも、徐々にそれらは曖昧になるのではないかと。

 人殺しの道具が「ホビー」めいて所持されている時点でおかしいといえばおかしいのだが。とはいえ動画主は在米の日本出身者としてこうした感覚的な話も日本語にしてくれるので、私のこの手の疑問を思索する上で重要な情報を提供してくれてとても助かっている。ポストでわざわざ動画を持ち出さなかったのは、ネガティブな批判の意志がなく内容も動画を発端とする主観的思索だったからだ。ここでは記録の意味もあって動画を貼ってあるけれど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?