倒叙ものは犯人こそ主役だという話:創作のための戦訓講義75
事例概要
発端
コロンボ・古畑式対決倒叙は、映像だと「毎回、犯人として豪華キャストを呼んでは退場させられるから探偵サイドの縦軸のドラマで引っ張らなくても良い」という利点を活かして犯人側のドラマを中心に描くことができるんですが、その仕組み上、連載の漫画でやるのはむずいんですよね。どんなに犯人の
— 白樺香澄と宿屋ヒルベルト (@kasumishirakaba) April 13, 2024
キャラを立てても基本、その回で退場しちゃうから連載の延命のためには読者のモチベを探偵サイドのドラマに持ってかなきゃならないってのはそりゃそうで、私の好きな『探偵ボーズ21休さん』も『探偵犬シャードック』も、丁寧に犯人のドラマを描く路線から少しずつズレていき、爆散してしまいました。
— 白樺香澄と宿屋ヒルベルト (@kasumishirakaba) April 13, 2024
だから漫画でコロンボ古畑式でやるなら、探偵側の深掘りをその回ではしなくて良いという意味で「普段はストレートな名探偵ものやってるやつの単発回」としてやるのが最適解なんですが、もうひとつやり口として、『妖異金瓶梅』ばりに犯人をレギュラーキャラにしちゃうって手があって、
— 白樺香澄と宿屋ヒルベルト (@kasumishirakaba) April 13, 2024
小説ですが日常の謎でそれをやろうって方向性の萌芽が米澤穂信先生の小市民ものにあったり、「恋人未満男女からかいラブコメ」ジャンルでこの形式は活用されてんじゃないかと思ってます。このジャンルの漫画に詳しいわけではないのですが、たとえば『からかい上手の高木さん』や
— 白樺香澄と宿屋ヒルベルト (@kasumishirakaba) April 13, 2024
『僕の心のヤバイやつ』に、罠の仕掛け合いや言質の取り合いゲーム、内面の葛藤の描写でかなり古畑濃度の高い回・くだりがあるのは知ってます。
— 白樺香澄と宿屋ヒルベルト (@kasumishirakaba) April 13, 2024
※倒叙ものという、犯人視点で物語が進む作品に対する指摘。
追加言及
古畑任三郎という番組、ほぼほぼ初代ウルトラマンなんだよな。
— ザギザギ/ZAGIZAGI (@actct_zagi) April 13, 2024
・事実上の主役はゲスト(犯人/怪獣)
・番組上の主役はホスト(古畑/マン)
ゲストの行動で話が始まり、ゲストの個性が話を動かし、ゲストがホストに倒されて終わる一話完結型ドラマ。
これ、ヒーローものとミステリものが「例外的存在の行動による不安定・未解決状態の発生→レギュラーキャラによるその解決」というルーティンを基本とし、それ故にエンタメとして強力という話よな。 https://t.co/AR2mjbWB1c
— 葛西伸哉 ラノベ作家 (@kasai_sinya) April 13, 2024
※構造的にはウルトラマンと類似するという指摘。イレギュラーの解決を目的とし、レギュラーキャラがそこに介入し解決するという構造。基本的に深掘りされるのはイレギュラーの側。
『イップス』 #1 鑑賞。良いカンジのスタートに嬉しくなる♪倒叙ドラマとしては、NHK版『福家』の系譜である「アンチ・リアル派」だが、バーサ&クールものやパーネル・ホールの諸作などを想起させる親しみ易さが好ましい。事件に主人公たちが絡むまでの、手の込んだ経緯にも唸る。これからも楽しみ。 pic.twitter.com/OFeXDYNduA
— めとろん (@metolog71) April 13, 2024
※おそらくこのドラマの影響で倒叙に関する言及があったのでは。
個人見解
私はミステリマニアを名乗りながら倒叙ものには疎いのだが、これらの指摘は構造分析によるものなのであまり詳しくない人にもある程度説得力を持って響くことだろう。ドラマで主流になったことからも分かる通り、犯人が有力な演者だとすぐにばれてしまうという問題への解決が倒叙における端緒であり、したがって探偵のドラマを主流とする必要がない。だからこそコロンボにしろ古畑にしろ、強烈なキャラ付けがなされているとも言えるかもしれない。
一方、その構造上の宿命から深掘りされる犯人が単発で退場してしまうという欠点を抱えている。そのためシリーズ化に際し探偵側を深掘りして鑑賞者の興味をつなげなければならない。ただこれは、ドラマであればそこまで問題にはならなかっただろう。犯人役の演者目当てで見る鑑賞者はその回だけを見る可能性もあり、ならば前後の話があやふやになる探偵側の縦軸など邪魔なだけだ。そういう点でもドラマ向きの構造だと言える。
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