見出し画像

マジで恋する5秒前

「パンセクシャルって知ってる?わたし、それなの」
彼女は言った。酔ってゴロゴロしていたら思わず初めてのキスしてしまったその日のこと。

パンセクシャル?

パンセクシャル

パンセクシャルをwikiで調べるとこうある。

全性愛(ぜんせいあい)、パンセクシュアリティ(pansexuality)とは、男性ないし女性等の性の分類に適合しない人々も含め、あらゆる人々に恋をしたり、性的願望を抱いたりするという、全ての性的指向を内包する汎愛性の高い愛に於る形態である。全性愛の性質を持っている人を全性愛者(ぜんせいあいしゃ)、パンセクシュアル(pansexual)、パンセクという[注 1]。性的少数者のひとつ。

当事者の中にはパンセクシュアルとは、社会的であれ、生物学的であれ、性というものは意味の無いものであるという思想的立場から、性別にとらわれず特定の人間に恋をしているだけと考える人もいる。パンセクシュアルの「パン」とは、ギリシア語に由来し、「全て」を意味する。

転じて全性愛は人を人間という種として愛する。

Wikipedia

「性別じゃなく人を愛す」ってことになるのかな。いいね。
でもキスしちゃったタイミングで言うのは小悪魔すぎると思う。

ただその時点では言葉の意味を知らなかったわたしは、わたしが好きってこと?ってなんとなくの意味を理解しつつも深掘りできなくて。
だって彼女の気持ちは聞けないでしょう。ママ友だし。
わたしの気持ちだって言えないでしょう。ママ友だし。

うっかりキッス

もう思い出したくもないけど、元夫ときつくて長い離婚調停がやっと終わって、ようやく離婚できて、ホッとして。でももう結婚はしたくないな。もう人に嫌な思いはしたくないし、恨まれるのもしんどい。気の合う友達とやいやい言って遊んでいるぐらいがいいな。と思って暮らしていた。

彼女は同じ境遇だったし、家も近いし、子どもも仲良しだし、気の合う友達としてピッタリで、子供を預けあってどちらかの用事をしたり、一緒に出かけたり、平日も夕飯を作りあって食べたりほとんど家族のようになっていた。そして、自分では認めていないけど、本当はほどんど大好きだった。
「いつかまたパートナー欲しいな」って彼女が言うたびに、「だれか紹介しようか?って友だちに言われた」って笑う度に、心がキュッとなって苦しかった。

ふたりともワインが好きで、その日も子供たちを寝かせてから結構飲んで、「もうだめだーー。寝る」って布団に倒れたら、酔っぱらった彼女がコロコロって転がって来た。かわいいなと思ったけど、あっちいけー!と押し戻して、遠くに行った彼女がまたコロコロ戻ってくる遊び。何回もしているうちに「気持ち悪くなって来た!」と彼女が言った。
そりゃね。酔っぱらって転がるからだよ。もう寝ようよ!って目を閉じて。しばらくたって、寝たかな?今度はこっちからコロコロ行って起こそうかな。いたずら心で目を閉じながら彼女の方に転がったら、向こうから彼女も転がって来てた。そして、パンをかじりながらぶつかる学生のように、わたしたちはキスをした。

あ。って思った。急だったから唇が柔らかいとかじゃなくて、むしろ硬くて。でもキスしちゃったと思った。全然ロマンチックなキスじゃない。
同性だから近づける距離と、同性だから近づけない距離があって、家族みたいだったから同性だからの距離はこれ以上ないほど近かった。でもそれ以上ではどうしてもない。友だち以上にはなれない。それが苦しくて。だから偶然の事故でも同性では近づけない距離にいけたことに嬉しかった。純粋に。

「あ、ごめん」って身体を起こして謝ったら、「ごめーーーんねっ!」って彼女はかわいく謝ってきた。軽いなぁ。でもそれぐらいの感じでいいよ。わたしの嬉しいは隠しておこう。
そう思っていたのに、彼女はゆっくり顔を近づけてきて優しくキスをしてきた。フワッとした柔らかい感触と、ほんのり甘い彼女の香りに、心がぎゅーっとなった。待って。なにそれ。もう一回…

「パンセクシャルって知ってる?わたし、それなの」

そして彼女が言った。
パンセクシャルってなに?そのときは知らなかったから。もしかして告白されてる?とは思ったけど、でもこの何分かに起こったことにびっくりしすぎて「パンセクシャル?しらべておくね」ってギリギリ小さな声で返事するので精一杯だった。
「じゃあ寝ようか」って何事もなかったように彼女は笑って寝転んでしまった。ちゃんと言わないといけないこともあるけど言葉にできなくて、うんって返事して隣に寝転んだ。

寝られるわけない

寝られない。ドキドキして寝られない。あとで聞くと隣の彼女もそうだったって。そりゃそうだよね。
何か言いたい。でもどう言ったらいいのかわからない。
ちょっと動いたら彼女の手が近くにあったから、そっと手を繋いでみた。優しく握り返してくれて。手を繋ぐってこんなに気持ちよかったっけ。こんなに満たされる行為だっけ。ああ、もうわかっちゃったなと思った。自分の気持ちも。彼女の気持ちも。

でも急にそれをどうこうできるほど、お互いに覚悟はなくて。その日はそのまま手を繋いだまま寝た。結構酔ってたから。最悪酔っぱらって忘れたことにもできるかなって。また明日考えようと思っていつの間にか寝てたんだ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?