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禍話リライト【放課後のドラマ】

とある放課後、帰宅部だった私は教室で帰り支度をしていた。
そんな時、クラスメイトのNにこんな問いかけをされた。

「なぁ、放送部がドラマやってるの知ってるか?」

「え、ドラマ?そんなのやってたっけ?在校生からのリクエスト曲流してるだけじゃないの?」

「俺も詳しくは知らないんだけど、やってるらしいんだよね…」

私の思い浮かべる放送部の活動は、お昼時に校内放送でリクエストの曲を流したり、特定の生徒を呼び出したり、下校時刻には生徒に向けて下校を促す放送したりする…そんなイメージだった。
そんな放送部の活動に関して、奇妙な噂が流れていた。


内容はこうだ。
最終下校時刻が迫るなか、運動部の学生が教室に宿題のプリントを忘れて取りに行った。
急がないと出入り口の門が閉められてしまうため、彼は廊下を走っていた。
そんなとき、ブツ、ブツ、と校内に設置されたスピーカーから音が聞こえる。
どうやら放送室のマイクがオンになっているようだ。
しかし、「時間なので帰りましょう放送」には、まだ早い時間。
疑問に思いつつも、彼は廊下を急ぐ。
しかし、相変わらずスピーカーからは音が聞こえる。
(いったい何の音だろう…)
周囲は無人のため、嫌でもその音に意識が向いてしまう。
どうやら、スピーカーの向こうで3~4人がボソボソ喋っているようだ。
音量が小さいのか、何を話しているかは聞き取れない。
しかし、何とはなしに聞いていると、何やら演技をしているように聞こえる。
まるで設定された役柄を演じているかのように.......。
それは、いかにも台本を読まされているというような、拙いものらしい。

そんな体験をした者が、何人かいるのだという。
奇妙なことに、それに遭遇する生徒は、急いでいたり、そういう放送に興味のない者に限られていた。
これが、Nの語る「放課後に放送されているドラマ」についての噂だった。

とある放課後—。
Nと教室でおしゃべりをしていたら、突如スピーカーがオンになった。

「ん?」

「マイク入った?」

偶然にもその教室からは別棟にある放送部が見えるのだが、明かりが点いてる様子はない…。

「明かり点いてないけどな」

「でもなんかやってるっぽいぞ?」

そんな会話の後ろで、ボソボソと会話するような音が絶えず聞こえてくる。
確かに、噂に聞く放課後のドラマと思しきものが流れている。
何を言ってるのか聞き取ろうと、教室内にあるボリュームを最大にするが、不明瞭なままでやはり理解できない。
空気感やキャラクターの配置で、どうやらホームドラマらしいという事しか分からなかった。
親子3人で会話をしているシナリオらしいが、演劇部ほどのクオリティには程遠い。

「なんだよ、これ?」

「気持ち悪ぃな」

突然の出来事に、驚きと恐怖で気持ちが混乱する。
ボリュームを元に戻した直後、放送は途切れた。
体感時間としては、15分くらいだろうか。

「放送部、ずっと真っ暗だったよな?」

「でもこれか、お前が言ってたドラマって」

「な、この前話した通り、放送してるだろ?」

「怖いからもう帰ろうぜ」

真っ暗な放送室で、内容の聞き取れないドラマが演じられ、夕暮れの校舎にボソボソと流れている。
それだけで十分不気味で、恐ろしかった。

後日、友達のツテで、放送部に所属する生徒に話を聞くことが出来た。

「放課後って、何か放送してるの?」

「え?やってないよ」

何かの練習をしていたのかも?という淡い期待は、露と消えた。

「やってないし、ちゃんと鍵かけて職員室に戻してる。
高い機材も置いてあるし、勝手に入られたら大変だからね」

「そりゃ、そうだよな」
(じゃあ、あの日聞いたのは何だったんだ…)

結局、放送の不気味さに拍車をかけるだけだった。


それから1~2週間後の放課後—
この日も、Nと2人で教室に残っていた。
時刻は、前回の放送に遭遇した時と同じ、下校の迫る時間だった。

「ちょうど今くらいだったよな?この前の」

身構えてみたものの、その日は何も起こらなかった。

「…もう帰ろうぜ」

どちらからともなく下校を促し、特にやることもなかったので教室を後にした。
昇降口で靴を履き替えるついでに、ふと別棟を見やる。
放送室のある辺りに明かりが点いている。

「おい!電気付いてる!」

Nがそう言った直後、明かりが消えた。

「俺、ちょっと見てくる!」

そう言って、Nは脱兎のごとく走って行った。

「あ、おいっ……行っちゃった。
今行っても居ないんじゃないか?」

その場に取り残された私は、さっき見たことを思い返していた。

(さっき明かりが点いてたのって、本当に放送室だったか?
隣の部屋じゃなかったか?)

いくら若くて動体視力が良いからと言って、一瞬見ただけだ。
ここに来る直前に放送部の話をしていたから、そう思い込んでしまったのではないか?
しかも、隣の部屋は使われてない会議室だったはず.......。
実際、そこは会議室とは名ばかりの物置き部屋だった。
無造作に置かれた長机の上に、使わないプリントなどが山積みにされ埃を被っていて、普段は施錠された部屋だ。
どちらにしろ、この時間に生徒がいるとは思えない部屋だった。

(見間違い、だろうな…。)

そんな事を思案しながら10分待ったが、Nはまだ帰ってこない。
いくら建物が違うとはいえ、遅すぎる。
第一、明かりが消えているのだから誰も居ないはずだ。
空振りですぐに帰ってくるだろう。
誰かに遭遇していたら、何かしらの動きや会話があるはずなのだが、そういう声や音が聞こえてはこない。


追いかける気にもならず、このまま帰ろうかと思い始めた頃、ようやくNが戻ってきた。

「すげえ探したけど、誰も居なかったな。職員室も見たんだけど、ちゃんと放送室の鍵、引っ掛かってたし」

わざわざ職員室まで行った彼に、まさか隣の部屋じゃないかとも言えずその日はそのまま解散となった。

家路について、夕飯も風呂も済ませ、何気なくテレビを見ていたが、内心放課後の出来事が気になってしょうがなかった。
上の空のまま、自室で過ごしていた22時ごろ、家の固定電話が鳴った。
父さんは呑んで寝てしまい、母さんは風呂に入っているようだ。
仕方なく電話に出ると―

「はい、もしもし」

『おい○○、先生が話していたぞ』

「え?…もしもし?」

『最近、授業中の態度が良くないらしいじゃないか』

聞けば、それはNの声だった。

「は?お前なに言ってんの?どういうこと?」

『そんなこと言ったって私、知らないよ』

まるで、何かを下手くそに読んでいるような不自然さだ。

「…お前、なにやってんだよ!」

『え?脚本通りに読んでるだけだけど?』

言い終わる前に、電話を切った。

翌日、クラスにNの姿は無かった。
HRで、Nが欠席だと担任が伝えた。
クラスの悪ガキが冗談めかして

「あいつ、バカだから風邪なんてひかないだろ」

「そういう事を言うんじゃない。本当に風邪だと思うぞ?声がガラガラだったからな」

HR後、私は担任に昨日の出来事を簡潔に話した。
最初は笑って聞いていたのだが、話終わるころには厳しい表情を浮かべていた。
何か心当たりがありそうな雰囲気だったが、追及できずに終わった。


そして、その日の放課後。
校内が慌ただしかった。
普段は物置と化した、例の会議室が開いていて、先生たちが協力して積みあがったプリントを運び出し、焼却炉でドンドン燃やしている。
かなりの量にも関わらず、先生数人だけで作業していた。
普通なら、生徒の手を借りているはずなのに。
手伝いを申し出る生徒も居たが、先生は頑なに断っていた。
あれは、まるで近寄らせないようにしているかのようだった。
申し出を断られた生徒に声を掛けることにした。

「なぁ、先生たちなに燃やしてんだ?」

「ちゃんとは見てないからよく分かんないけど、台詞とか書いてあって台本みたいだったよ」

それを聞いて、もう調べるのはやめようと思った。
繋がってはいけないものが繋がりそうで…。
放課後に流れる謎のドラマ。
隣接する会議室に積まれた、大量の脚本のようなプリント。
何かを知ってるであろう教師たち。
突然の焼却作業のあと、放課後のドラマにまつわる噂はパタリと聞かなくなった。
いったい、誰に聞かせるために放送していたのだろうか...…。

Nはというと、1週間休んだのち元気に登校してきた。
それとなく、休む前の出来事について聞いてみたのだが、何も憶えていないという。


このリライトは、毎週土曜日夜11時放送の猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス「禍話」から書き起こし、編集したものです。
該当の怪談は2023/07/22 放送「禍話インフィニティ 第四夜 28:15頃~のものです。


参考サイト
禍話 簡易まとめWiki様


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