#37 4つのトレーニングバリエーションとその効果
トレーニングを行う皆さんにとって、「どれくらいトレーニングしたら、どれくらいの成果が見込めるのか?」の目安を知ることは計画を立てる上でも、モチベーションを高める上でも非常に大切な情報かと思います。
そのため前回記事に引き続き、過去にご紹介した論文を上記の視点から改めてまとめてみました。
この論文ではポラライズドトレーニングや閾値トレーニング、ハイボリューム(低負荷長時間)トレーニング、HIITの効果について検討しています。
対象になっているのはオーストリアのナショナルチームに所属する選手で、パフォーマンスレベルはかなり高い人たちです。
検証内容
この論文には以下のスポーツのオーストリア代表に所属する男女48名が参加しています。
クロスカントリースキー
陸上競技
トライアスロン
自転車競技
選手たちは普段週に10-20時間のトレーニングを行っていて、過去6カ月は低負荷(テンポゾーン以下)と閾値強度を主体に行っていました。
このトレーニング構成を基準にして、今回行う4つのトレーニングバリエーションを9週間行うことはパフォーマンスアップにつながるのか?を検証しています。
選手たちは以下の4つのトレーニングバリエーションのどれかに割り振られました。
HVT:ハイボリュームトレーニング
THR:閾値トレーニング
POL:ポラライズドトレーニング
HIIT:高強度インターバルトレーニング
普段行っているトレーニングと今回処方されたトレーニングの各強度のセッション割合の内訳は図のようになっています。
各トレーニングバリエーションの週間計画は、2週しっかり→1週負荷を落とすという流れで9週間トレーニングを実施しています。
HIITのみ少し異なり、3日しっかり→1日レストを15日行って1週負荷を落とすという流れです。
次に、それぞれのトレーニング内容を見ていきます。
【ハイボリュームトレーニング:HV】
LOW領域にしっかりと時間を費やすトレーニングです。強度が低い代わりに、実施する時間を長くするのがこのトレーニングの特徴です。今回の論文では、一週間のトレーニングとして以下を実施。
LOW領域(テンポ以下)で90-240分を週に5日
MIDDLE領域(LT)で7分-2分レスト×5本を週に1日
【閾値トレーニング:THR】
MIDDLE領域(80%FTP~100%FTPほど)の強度を重視するトレーニング。今回の論文では一週間のトレーニングとして以下を実施。
MIDDLE強度(LT)で8分-2分レスト×6本を週に2日
MIDDLE強度(LT)で20分-3分レスト×3本を週に1日
MIDDLE領域(血中乳酸が1.5~5mmolで変動するようなファルトレク)で75分を週に1日
90分のLOW領域を週に2日
【ポラライズドトレーニング:POL】
トレーニング強度を二極化させて、LOW領域(テンポ以下)とHIGH領域(VO2max以上)の高い強度帯に重点を置くトレーニングです。今回の論文では、一週間のトレーニングとして以下を実施。
90~95%HR(心拍数)で4分-3分レスト×4本を週に2日
150~240分のLOW領域(テンポ以下)を週に2日
90分のLOW領域を週に2日
【ヒート:HIIT】
ハイインテンシティー・インターバルトレーニングの略です。比較的短い時間でVO2max領域以上のかなり高い強度をインターバルで実施するトレーニングになります。今回の論文では、一週間のトレーニングとして以下を実施。
90~95%HR(心拍数)で4分-3分レスト×4本を週に6日
検証結果とそこから考えられること
ランプテストから算出される推定FTPの変化をパワーウエイトレシオ(w/kg)で表すと、以下の範囲になりました。(平均±1.5SDの範囲、約87%の人の結果がこの範囲に含まれるという意味合い)
ハイボリュームTr:-0.4~+0.3 w/kg
閾値Tr:-0.2~+0.4 w/kg
ポラライズドTr:±0.0~+0.4 w/kg
HIIT:±0.0~+0.4 w/kg
この結果を踏まえて、私の感想を書いていきますね。
1.ハイボリュームTrと閾値Tr
今回処方されたハイボリュームTrと閾値Trは過去6カ月に行っていたもの(週2回の閾値強度セッション)から、
ハイボリュームTrは閾値強度セッションを週1回に減らす
閾値Trは閾値強度セッションを週4回に増やす
という構成になっています。
推定FTPの変化からは、このような閾値強度セッション数の増減はプラスに作用する人もいればマイナスに作用する人もいて、平均的にみると変化は小さいという結果でした。
このことから更なるパフォーマンスアップを狙ってトレーニング計画を変える場合は、閾値強度セッションの増減だけだと効果が得られない人が半数ほどいると考えられます。
2.ポラライズドTrとHIIT
一方ポラライズドTrとHIITのトレーニング介入では推定FTPは悪くて変化なし、平均的にみても+0.2w/kg向上しています。
過去6カ月のトレーニングとトレーニング内容を比較してみると、
ポラライズドTr:閾値強度セッション→VO2max強度セッションへ
HIIT:VO2max強度セッションが全体の半分以上
と、閾値強度セッションがVO2max強度セッションに置き換わったような構成になっています。
ここから言えるのは、閾値強度よりもVO2max強度の方が効果が高いということではなく、異なった強度領域を取り入れることが効果的ということだと考えます。
仮に今回の参加者が普段からトレーニングでLow強度:VO2max強度を8:2で行っていて、検証としてその配分を変えたポラライズドTr(7:3)やHIIT(4:6)で効果が見られたのであれば、VO2max強度が大切だとなるかもしれません。
しかし今回の検証はそのような形ではなく、普段行っている閾値強度セッションをVO2max強度セッションに替えたという建付けです。
もちろんVO2max強度のトレーニングが効果的であることは様々な論文によって支持されていることから言うまでもありません。
しかし今回の結果から閾値強度のトレーニングを避けることは勿体ないかなと、時期によって3つの強度帯(zwiftなどでは6つの強度帯)の組み合わせを変化させていくことが大切だというくくりが適切かなと感じています。
人は良くも悪くも普段のトレーニング方法に慣れてくるも。慣れてくるとより高い適応はなかなか望めないので、違ったトレーニング方法を取り入れることは効果的です。
最後に以前までにお出ししたものと並列で結果を示しておきますね。
おわりに
「どれくらいトレーニングしたら、どれくらいの成果が見込めるのか?」という視点に立って以前ご紹介した論文を振り返ってみました。
効果があるかどうかは人によってそれぞれ。誰かにとって効果のある方法が、皆さんにも効果があるとは限りません。
定期的にパフォーマンスをチェックしながら、是非様々なトレーニングバリエーションにチャレンジしてみてください。
その際には6週間ほど実施して、その前後にテスト測定をすると良いかなと思います。
皆さんの日々のトレーニングが、より実り豊かなものになりますように。
今回も最後までお読みくださりありがというございました。
ご紹介した論文
Stöggl, T., & Sperlich, B. (2014). Polarized training has greater impact on key endurance variables than threshold, high intensity, or high volume training. Frontiers in Physiology, 5 FEB. https://doi.org/10.3389/fphys.2014.00033
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