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閾値:乳酸閾値(LT)についての理解を深める

みなさんこんにちは、川崎です。

以前の記事で、VT(換気性作業閾値)について解説されていた記事をご紹介させてもらいました。

今回は ”乳酸” 閾値に関する記事をご紹介したいと思います。

今回トピックに挙げた乳酸性作業閾値は換気性作業閾値よりも耳にすることが多いものの、似たような専門用語があるために理解がしにくくなっている用語かもしれません。

LTというものがあって、OBLAがあって、他にも似たようなものがある。。どうなってるんだ?

今回ご紹介する記事はトレーニングピークスというトレーニング管理ツールを作っている会社のホームページのものです。

記事を書かれている方は有名な運動生理学者で、乳酸閾値について様々な視点から解説してくれています。

記事の最後には低い強度(ゾーン2)のトレーニングがなぜ必要なのか?について解説があったりと、それ知りたかった!という内容も。

文量が多く込み入った話もあったため、要約、補足、抜粋した形にはなりますがご紹介してみます。

乳酸性作業閾値と書くと長くなってしまいますので、乳酸閾値と書くことにしますね。

また記事内では「乳酸閾値」という表現を、乳酸に関わる様々な概念を含めるものとして使い、「LT」を血中乳酸値が1mmol/L以上急上昇するポイントという概念に対して用いるようにしています。


<参考記事>


乳酸閾値は持久系スポーツで最も使用されている用語でしょう。ですが乳酸閾値に関する定義には多くの混乱が残っています。

この記事では乳酸自体、そして乳酸閾値について深掘り、その利点と限界を解説していきましょう。


乳酸とは何か?

乳酸は体内の代謝過程で重要な役割を果たしているにも関わらず、まだまだ未知数の多い物質です。

以前には乳酸は無酸素的にエネルギーを産生したときに生じる単なる老廃物であるとみなされていました。

そしてある時には運動後に乳酸は筋内で結晶化し、筋肉痛を引き起こすとさえ考えられていました。(もちろんそんなことはありません)。

現代に生きる私たちは今、酸素が足りていても乳酸が作られることを知っています。そして乳酸がただの老廃物でないことも知っています。

事実、乳酸は体内で新たなグルコース(エネルギーとなる主要な物質)を作り出すための主要な物質で、運動中私たちが燃焼しているグルコースの30%は乳酸がグルコースへ“リサイクル”されたものなのです。

筋疲労についてもご説明しておきましょう。

強度が高くなって速筋線維(タイプⅡ)の動員が多くなると、速筋線維は解糖系(無酸素能力)によってエネルギーを生み出す能力が高いために、より多くの乳酸が作られます。

ですので辛い運動中には安静時の何倍もの乳酸が作られます。それとともに水素イオン(H+)が発生するために筋内のpHが酸性寄りになって筋収縮に悪影響を及ぼします。

これらが筋疲労の原因であり、乳酸が直接に疲労物質という訳ではないことを理解しておくことは大切です。


血中乳酸濃度

競技力が高いほど、同じ強度のパワーを出力していても血液中の乳酸値は低いことが分かっています。

私たちの研究を紹介してみましょう。高い競技者ほど低い乳酸値にもかかわらず非常に高い出力を出せることが見て取れるでしょう。

乳酸は筋内から血液循環を通して他の器官へ運ばれてエネルギーとして利用され、それにより血中乳酸値は低下しますが、このプロセスは分単位の時間を要します。

しかしトレーニングによって鍛えられたアスリートは、時間にして秒~ミリ秒単位の間に筋内で作られた乳酸を効果的に利用でき、そのため血中乳酸値を低く抑えることができます。

もう少し具体的に説明すると、運動中に乳酸は主に速筋線維で作られて、その乳酸の多くは遅筋線維によって利用されます。

この速筋線維から遅筋線維への乳酸のやりとりの効率がパフォーマンスのカギを握っており、速筋線維から遅筋線維へと乳酸を運ぶために特殊な酵素が絡んできます

速筋線維の細胞膜の表面にはMCT-4と呼ばれる酵素が突き刺さっており、MCT-4によって迅速に乳酸が細胞外(速筋線維の外)に運ばれます。

そして遅筋線維の細胞膜の表面にはMCT-1と呼ばれる酵素が突き刺さっていて、MCT-1によって乳酸が細胞内(遅筋線維内)へ取り入れられることを促進します。

遅筋線維内に取り込まれた乳酸はさらにピルビン酸と言われる燃料物質に変化されてミトコンドリアに運ばれます。

このときにもmLDHという酵素がミトコンドリアに多いほど多くの乳酸が取り込まれ、最終的にエネルギー(ATP)を生み出す反応に使われます。

このような体の機能が理解できると、低強度帯のトレーニングの意味が見えてきませんか?

例えばFTPの60-75%ほどの強度であるゾーン2でトレーニングを行う理由は、遅筋線維が装備できる乳酸運搬に関わる酵素を増やすことが目的です。

一方で高い強度帯(FTP以降)では速筋線維に装備されるMCT-4と呼ばれる酵素を増やし、乳酸を細胞外へ運ぶ機能が高まります。


乳酸閾値とは何か?

ここから乳酸閾値の話に入りましょう。

乳酸閾値は全世界のコーチやアスリートが使っている概念です。

しかし乳酸閾値自体、また乳酸閾値に関連するトレーニング強度設定とは何かについては人により異なった見解があり、時に混乱を招いています。

乳酸閾値強度でトレーニングを行うとは、具体的にどういうことを目指して行われるものでしょうか?

一般的に乳酸閾値とは特定の時間継続できる強度やその血中乳酸値のことを意味します。

しかしここで疑問が生じます。一体どれくらいの乳酸値なのでしょうか?そして特定の時間とはどれくらいの時間なのでしょうか?

多くの研究者によりこの疑問を解決するための概念が提唱されました。

OBLA(Oneset of Blood Lactate Accumulation):血中乳酸値が急激に上昇するポイントがおおよそ4mmol/Lであるという概念。

LT:血中乳酸値が1mmol/L以上急上昇するポイントという概念。

MLSS(Maximal Lactate Steady State):血中乳酸値が急上昇することなく維持できる最大のポイントという概念。

皆さんもお聞きになったことがあるかもしれません。

このように、乳酸閾値と一般的に呼ばれるものの中には複数の用語、概念が混同しています。

これらの用語が意味するポイントがより高い強度で見られるようにトレーニングすることは、一つの目安としては正しいでしょう。

しかし継続できる時間という要素を考慮すると、理解はより複雑になります。

なぜなら乳酸閾値強度の努力は比較的短い時間維持できるものと考えますが、それは10分なのか、30分なのか、もしくはそれ以上か、いったいどれくらいの時間なのでしょうか?

例えばカテゴリー1級山岳(かなりきつい)を25分間出力を落とさないで登りきる場合は、4-6mol/Lの血中乳酸値を維持できるパワーが乳酸閾値に相当するでしょう。

一方カテゴリー2級山岳(1よりは緩い)を40分間登る場合は、3-5mol/Lの血中乳酸値を維持できるパワーが乳酸閾値に相当するでしょう。

40kmタイムトライアルではまた違ってくるはずです。

以上のように、場合によって狙いとする乳酸閾値は変わってきます。

そうであれば、トレーニングとして最もふさわしい強度も単に「乳酸閾値ゾーンをを〇分」よりも詳細な設定が必要になってくるでしょう。

競技レベルが高度になるほど、より詳細に狙いとする乳酸閾値を明確にする必要がありそうです。

このことを是非理解しておいてください。


乳酸閾値ゾーンのトレーニングの誤解

最後に、選手やコーチが乳酸閾値を高めるために乳酸閾値強度のトレーニングだけを行うことは誤りであることをご指摘しておきます。

たしかに乳酸閾値強度では速筋線維が多く動員されるため、乳酸が多く作られることになります。

しかし乳酸は主に遅筋線維内のミトコンドリアによって利用されます。

つまり、遅筋線維の乳酸利用能力がカギを握っています。

それゆえに、乳酸利用能力を高めるため(乳酸閾値強度を高めるため)には逆説的ではありますが、遅筋線維をトレーニングすることが必要です。

もちろん乳酸閾値強度帯でトレーニングを行うことは速筋線維の機能向上にとって必要不可欠です。

しかし乳酸閾値強度に多くの時間を費やすことは非常にハードであり、ときにオーバートレーニングに陥ってしまうことも目にしてきました。

乳酸閾値強度でトレーニングしなければ、乳酸閾値が高まらないという誤った認識によってオーバートレーニングに陥ってしまう例を良く目にします。

乳酸利用能力の向上という観点から見れば、私たちの18年に及ぶ研究からはゾーン2が最も適しているという結論になります。



いかがでしょうか?

乳酸についての説明から始まり、乳酸閾値という用語がまだ定まりきってはいな現状を言及された内容になっていました。

ですのでご紹介した記事を読み終わっても、乳酸閾値について理解ができた!という実感は少ないかもしれません。

私もその一人です。

しかしはっきり定まっていないのが現状だということをまず理解しておくことが、今回紹介させてもらった記事の趣旨ではないかと感じています。

最後にまとめをしてみます。

  • 乳酸閾値という用語はまだふわっとしている

  • おおまかには血中乳酸が急上昇する点に注目している

  • 「LT強度のトレーニング」は速筋線維の能力を高めるためのものだが、

  • 乳酸閾値を高めるためには遅筋線維の能力も高める必要があるので、

  • 低強度帯のトレーニングを行うことも大切

ポラライズドトレーニングは速筋線維と遅筋線維ともに刺激を与えられる、そのトレーニング配分に効果が高い秘訣があるのかもしれませんね。

今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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