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#26 VO2max向上の遺伝的な要因とは何かを説明しよう

同じ強度で同じメニューを行っても、人によって効果はさまざま。高い効果が出る人もいれば、6週間取り組んでみてもなかなか効果が上がらない人もいます。

取り組み方に修正が必要な場合もあるでしょう。しかし、取り組み方以外にも効果が出やすいor出にくいの要因があったらとしたら、努力不足と片づけるのはもったいないかもしれません。

今回は遺伝的な要因がトレーニングによるVO2maxの向上度合を左右することを検証した論文をご紹介します。

是非読み進めてみてくださいね。



DNAの塩基配列:「一塩基多型」

今回は遺伝子の話が関わってきますが、あまり込み入った内容ではありませんので安心してください。私もまだまだ勉強中です。

今回の論文を紹介するにあたって必要な知識は「一塩基多型:SNP」というものです。まずDNAから説明しますね。

生命の設計図とも言われるDNAは4つ異なる種類の「塩基」というものをずらっと32億個並べていったもので、その並びの300-1500個に一つの割合で人によって塩基が違ってきます。

その塩基の違いがアルコールの強さが人によって違ったり、花粉症などになりやすいなどの個人差に影響しているようです。

このような塩基配列の違いを「一塩基多型(いちえんきたけい)」と呼びます。(参考:ヒロクリニック

下の図はある塩基配列が人によって”GG”、”GC”、"CC"と違っていますが、これが一塩基多型とイメージしてください。(GやCは塩基の頭文字)

今回の論文では、この一塩基多型のバリエーションとトレーニングによるVO2maxの向上度合の関連性を分析しています。


20週間のトレーニングで検証

この検証は大規模調査のデータをもとにしていて、742名もの方を対象にしたものとなっています。

参加者は週に3回のトレーニングプログラムが処方されました。それを20週間実施して、その前後でのVO2maxを比較。普段はあまり運動習慣のない人たちが選ばれています。

まず20週間のトレーニング効果を見ていくと、人によってVO2maxの向上には違いが見られました。下図をご覧ください。

横軸が向上したVO2maxの程度、縦軸が人数の頻度です。

だいたいボリュームゾーンは+4.5~+7.5mL/kg/minの増加ですね。これだけ増えたら持久力が良くなっていることをかなり感じるのではと思います。

ここで注目してもらいたいことは、向上度合の多様性です。週に3回、20週ものトレーニングを行ったにも関わらずVO2maxがほとんど向上していない人もいれば、中には+13.5も向上した人もいます。

+13.5ということは、VO2maxが40の人であれば53.5まで向上したということです。普通のVO2maxレベルから優れたレベルになるほどの、かなりの改善ですね。

普段運動していない座りがちな人を対象としていますので、今までのトレーニング状況はだいたい同じと考えれば、同じようなトレーニングを行っているのに人によってこれだけ向上の度合が違ってくるのは驚きです。


DNAに注目

そこで論文の著者たちはDNAに注目しました。参加者はDNAのサンプリングも行われています。

トレーニング効果と関連がありそうな21種の一塩基多型を解析した結果、VO2max向上度合の違いのなんと50%が一塩基多型のバリエーションによって説明ができるという結果になりました

もう少し詳しく説明しますね。

論文の著者たちは一塩基多型をスコア化して、有利な一塩基多型を持っている人ほど高いスコアになるように数値化しています。

その結果が下の図になります。

横軸にそのスコアを、縦軸にVO2maxの向上度合が示されています。

有利な一塩基多型スコアを持っている人ほど、VO2maxの向上度合が高いことが伺えますね。

このようなVO2maxの向上度合と一塩基多型の関係性を統計的に分析して、VO2maxの向上が人によって様々である50%が遺伝的な要因で説明できるという結果が導かれています。

遺伝的な要因、なかなかあなどれませんね。


より良いトレーニング計画を!

今回はトレーニング効果の個人差を遺伝的な要因で検証した論文をご紹介しました。

VO2maxの向上度合が21個の塩基の並び方で50%も説明できてしまう。何だか凄い話です。

でもアルコールの強さもこういった塩基配列の違いが大きく影響していることを考えれば、納得できる気もします。(私のアルコール耐性は激弱です)

以前にご紹介した、VO2maxは遺伝の影響が50%という論文ともつながりそうですね。

大事だなと思うことは、「遺伝だからトレーニングしても仕方ない」という考えになってしまうのではなくて、人によってトレーニング効果が様々であるからこそ、綿密にトレーニング計画を練ってご自身に合った形を見つけていく作業が大事なんだろうなということです。

アスリートが何年、何十年もかけてあの強靭なフィジカルを手にしていることを考えれば、遺伝的になかなか向上しにくかろうと、地道なトレーニングの積み重ねがフィジカルに一番影響しているのだろうとも感じます。


今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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ご紹介した論文

Bouchard, C., Sarzynski, M. A., Rice, T. K., Kraus, W. E., Church, T. S., Sung, Y. J., Rao, D. C., & Rankinen, T. (2011). Genomic predictors of the maximal O 2 uptake response to standardized exercise training programs. J Appl Physiol, 110, 1160–1170. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00973.2010.-Low


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