富士ヒルクライムに必要なFTP -富士ヒルに向けて#2-
いよいよ近づいてきた富士ヒルクライム。皆さんも目標タイムを定めつつあるのではないだろうか。
今回の記事では以前に書いたものをアップデートし、必要な情報を加えブラッシュアップを試みた。
記事中には年齢、性別、体重、機材の重量を記載してもらうと、各ゴールタイムとそれに必要なFTPがグラフとして出力されるExcelも用意している。
皆さんそれぞれの状況で、どのくらいのFTP(1時間維持できる最大のパワー)があればどのくらいのタイムが見込めるのかを是非確かめてみてもらいたい。
【修正記録】
2024.5.28 軽微なエラー並びに補正値のエラーを修正。
目標タイムに必要なFTP
まずFTP(1時間維持できる最高パワー)という言葉についてはご存知であることを前提に話を進めさせてもらう。
どのくらいのタイムを目指そうか?と考えるとき、FTPと富士ヒルのタイムについて関係が分かっていれば、それを元に目標やトレーニングを計画できて大変便利である。
今回はそういったものを作ってみましたよという記事である。
何を考慮して資料を作成したのかは以下で説明していくが、手っ取り早くFTPが知りたい方も多いと思われるので、以下にExcelファイルを添付した。
ご自身の性別、年齢、体重、それに機材(ウェアや水含む)重量の4つを記入してもらうと下のような図が出力されるので、試してみてほしい。
スマホの場合も「Microsoft Excel」アプリをダウンロードし、サインインを行えば入力できるはずだ。
以下ではどのようなことを考慮してこの資料を作成したのかについて、順を追ってご説明していこう。
考慮した内容
◆必要な出力(体重+機材その他)
まず各タイムに必要なパワーを求める必要があり、それについては「脳内サイクリング」さんの予測式をお借りしている。
こちらでは富士ヒルクライムのコースプロフィールを元にパワー、総重量を記入すると予測タイムを返してくれる。
私にとっては専門外である転がり抵抗と空気抵抗もその予測式に組み込まれており、最も信頼のある予測を行ってくれると判断し使用させていただいた。
富士ヒルタイム55分~2時間30分までに必要なパワーを5分刻みで調査し、それを元に算出式を作成している。
なお体重によって機材が占める重量割合が変わるため、様々な体重での必要なパワーを推定している。
例えば機材(ウェアや水含む)が計8kgであった場合、50kgの人にとっては総重量(体重50kg+機材8kg=58kg)のうち14%が機材の重さで、70kgの人にとっては機材は総重量の10%になる。
つまり体重が軽い方が機材の重量割合は増えるため、相対的に大きな錘(おもり)を背負っているようなものである。その点について考慮した。
◆標高補正
標高が高くなるほど酸素が薄くなり、その分有酸素能力が低下する。どのくらい低下するのかは論文によって見解は違うが、今回は富士ヒルスタート地点で4%、ゴール付近で11%有酸素能力が落ちているという想定のもと、全体でならして7.5%とした。
ちなみに標高による有酸素能力への影響はアスリートになるほど大きな影響を受け、ゴール地点である標高2,300m付近においてアスリートの有酸素能力は15%ほども低下するようだ。(参考2)
FTPの算出にあたっては平地(標高0m)のパワーデータに変換したい。そのため標高の影響(7.5%)を補正し、標高0mに置き換えている(標高0mに換算するとパワーは高くなる)。
◆時間補正
ゴールタイムが60分以上になると、その時に必要な平均パワーはもちろんではあるがFTPパワーよりも下がる。
そのため予測ゴールタイムと必要なパワーが分かっても、得られたパワー値はFTPより目減りしているはずだ。そこで各ゴールタイムによってFTPから目減りしているであろうパワー分の補正を行ってFTPを算出している。
低下率はパワー・トレーニング・バイブルの内容を参考にして、60分以降は5分経過する毎にFTPの値から1.1%低下していくと想定した。
例えば70分でゴールした場合に平均パワーが4.2w/kgであったなら、FTPは
4.2w/kg ÷ 0.978 = 4.3w/kgといった修正になる。
◆性別、年齢、体重
この3つの情報から目安となるラインを引いている。プロ級、上級、そして日本人の一般体力水準のラインがあるので、そちらも目安にしてもらえれば幸いだ。
以上がFTP算出にあたり考慮した事柄である。
資料
こちらのExcelで出力できます。
スマホの場合も「Microsoft Excel」アプリをダウンロードし、サインインを行えば入力できます。
この資料は多くの方に広く活用してもらうため公開しています。そのため金銭の絡む事項でのご利用は相互信頼に欠ける行為ですので、ご遠慮ください。
また、何かにご利用の際はこの記事のリンクを張っていただけると嬉しいです。
減量の下限値考察
最後に一つ、今回の資料を作成するにあたり考えたことをご紹介しておく。
以前の記事で、パワーウエイトレシオと体重の関係について考察した。
この記事では富士ヒルのstravaデータを元に、体重が軽い方が高いパワーウエイトレシオ(PWR)を達成しやすいのではないか?という考察を行い、同じ達成難易度でも1kg軽いと0.035w/kg高くなるのかもしれないという結果をお伝えした。
そのためヒルクライムなどのPWRがものを言うレースでは極力体重を軽くすることはメリット(高いPWRを達成しやすい)であり、タイムを縮めるにはいいのだろうと考えられる。
一方で今回機材やウェア、シューズ、水などの体重以外の重量物の影響を検討してみた結果、体重が軽くなる程、そしてタイムが早いほどその影響が甚大で、必要なパワーが跳ね上がることが数値情報として得られた。(下図)
上記2項目から言えることは、減量にはメリット(高いPWRを達成しやすい)とデメリット(機材などの重量物の影響大)の両者が絡んでくると考えられる。
ではこのメリット・デメリットの収支は、どの体重あたりまではメリットが上回るのだろうか?
その収支を計算すると下図のようになる。プラス方向が減量メリットのある体重域、マイナスが減量デメリットの体重域である。
赤線で示した体重帯は、該当ゴールタイム(55分、60分)においてデメリットがメリットを上回った結果となっている。
このような影響は60分以内のゴールタイム帯(プラチナ)で見られる。
よって選抜クラスやプラチナを目標にする方々にとって50kgを下回ったあたりからは、もしかすると減量のメリットは少ないのかもしれない。
今回は機材、シューズ、ウェアや水など体重以外の全ての重量物を8.0kgとして計算したため、より機材などを軽量化すればデメリットはその分減っていく。この結果は一つの考察として読んでいただければ幸いだ。
私たち一般人にはあまり関係のない話ではあるが、今回の記事内容を踏まえて考えてみたことである。
おわりに
以上、富士ヒルクライムのタイムと必要FTPについての内容をご紹介した。
あくまで概算値であり、算出された値は目安としてお使いいただければと思う。目標タイム、FTPを見定める助けになれば幸いである。
以下のトレーニングシュミレーションも是非併用してみてほしい。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
また読みに来てください。
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参考文献
Fulco, C. S., & Rock, P. B. (1998). Maximal and submaximal exercise performance at altitude AMS-acute mountain sickness View project Can normobaric hypoxia maintain hypobaric hypoxia acclimatization? . Aviation Space and Environmental Medicine. https://www.researchgate.net/publication/13569370
Bassett, D. R., Jr, ;, Kyle, C. R. ;, Passfield, L. ;, Broker, J. P. ;, Burke, E. R., Bassett, D. R., Jr, C. R., Kyle, L., Passfield, J. P., & Broker, E. R. B. (1999). Comparing cycling world hour records, 1967-1996: modeling with empirical data. In Med. Sci. Sports Exerc, 31(11).
ハンター・アレン, アンドリュー・コーガン. パワー・トレーニング・バイブル第2版.
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