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どのような体格(体重)であっても同じパワーウエイトレシオなら達成する難易度は皆同じか?

今回の記事は論文の紹介ではなく、考察系の記事になります。

以前から少し気になっていた、

「どのような体格(体重)であっても同じパワーウエイトレシオなら達成する難易度は皆同じなのか?」

ということについて考察してみました。

結論をお伝えすると、体重が重い(体格が大きい)人の方が同じパワーウエイトレシオ(PWR)を叩き出す難易度は高く、体重が10kg違えば達成難易度は0.35w/kgほど異なる。つまり体重が10kg違う二人がPWR4.0w/kgの話をしているとき、二人が思い描いている難易度は0.35w/kgほど異なり、結構違うと考えられます。

記事の後半に結果をもとにした体重別FTPレベル表(男女)を作成しましたので、もし考察を読まなくても私川崎を信じて参考にしてくださる方は目次より飛んでご覧ください。



疑問に感じていたこと

パワーウエイトレシオとは、出力したパワーをご自身の体重で割った値です。

例えば私の場合、FTPは260wほどで体重が75kgですので、

260w ÷ 75kg = 3.5w/kg

がパワーウエイトレシオ(PWR)になります。

パワーウエイトレシオの便利なところは、

「今PWRが3.5、来年の富士ヒルまでにシルバー達成目安の4.0にしたいなぁ」

といったように体重に関係なく色んな人と現状のトレーニングやパワーについて話ができることです。

その便利さもあって、昨年に富士ヒルクライムの各メダルを獲るためにどれくらいのパワーウエイトレシオ(PWR)が必要になるのかなと思い、富士ヒルクライムの統計情報や教科書、論文を参考にしながらPWR目安表を作成しました。

しかし、一つの疑問が残りました。

それが、「どのような体格(体重)であっても同じパワーウエイトレシオなら達成する難易度は皆同じなのか?」ということです。

もう少しご説明すると、体重55kgの人と体重75kgの人のパワーウエイトレシオ「4.0」を達成する難易度は同じなのか?という疑問です。

ヒルクライムの場合はパワーウエイトレシオがタイムに直結しますので、体重が55kgだろうと75kgだろうとパワーウエイトレシオが同じ4.0なら、ゴールタイムもだいたい同じと予測できます(機材やトレインを組むなど諸々の要因は置いておいて)。

しかし体重が比較的軽そうな方のほうが上位者に多いところを見ると、同じパワーウエイトレシオを目指す難易度は体重(体格)によって異なってくるのではないのかな?と感じていました。

もし難易度が同じなら、高身長(比較的体重が重い)の人がもっと上位に食い込んでいるのかなと。

ここで問題にしたいことは個人の努力で減量することとは別に、純粋に体重(体格)が異なれば高いパワーウエイトレシオを達成する難易度も上がるのではないか?ということです。

適正な目標を見定めるためにも、この点について考察していきます。



考察材料

考察を進めるために、stravaアプリのセグメント「富士ヒル(公式)」のセグメントデータを参考にさせてもらいました。

10kg区切りの体重別ランキング情報(2023年12月時点)を整理すると、以下のようになります。

stravaの体重区分は女性も54kg以下が一括になっており、54kg以下区分に全体の74%が占めていて分析しづらいため、以下男性データで話を進めていきますね。

このデータからは、以下のことが言えそうです。

  • 日本人のサイクリストは60kg台中盤を頂点に分布している(正規分布に近い)

  • ベストタイムは54kg以下区分(56分54秒)だが、全体としては55-64kg区分のタイムが早い

  • 各区分の人数が異なるため、ランキングではなくパーセンタイル(各区分の上位何パーセントか)で比べた方がよさそう

  • 体重が重くなるにつれ、同じパーセンタイルでもタイムは遅くなっていく

これらを踏まえ、データをグラフにすると以下のようになります。

同じパーセンタイルでも、体重が重いとタイムは遅い

グラフ(男性)を見てもらうと、54kg以下の区分のみ異なった推移が見られますが、それ以外の区分では概ね均等にタイムが低下していることが伺えます。

ということで54kg以下の方には申し訳ないのですが、それ以外の区分が均等に10kgで区切られていることもあり、54kg以下の区分は次のグラフから除外しました。

今度のグラフはそれぞれのタイムで必要なパワーウエイトレシオを縦軸にとって、各体重区分の同じパーセンタイルをつなげています。

それぞれのパーセンタイル値を分析(直線回帰)すると、y=〇xという形になります。

この〇に入る数値は、「10kg重いとPWRが〇低い」もしくは「10kg軽いとPWRが〇高い」ということを意味しています。

この〇に入る数値はどのパーセンタイルもだいたい似たような数値(おおよそ0.35)になっているので、一般化しても良さそうです。つまり、

  • 体重が10kg重いと同じパーセンタイルでもパワーウエイトレシオが0.35低い

  • 体重が10kg軽いと同じパーセンタイルでもパワーウエイトレシオが0.35高い

という傾向があるようです。

ここから、同じパーセンタイル(上位何%か)が同じ難易度であると仮定することにはなりますが、体重が重い(体格が大きい)人の方が同じパワーウエイトレシオ(PWR)を叩き出す難易度は高く、体重が10kg違えば達成難易度は0.35w/kgほど異なる。つまり体重が10kg違う二人がPWR4.0w/kgの話をしているとき、二人が思い描いている難易度は0.35w/kgほど異なり、結構違うと考えられます。

ただ、54kg以下の方は55-59kgの方と同等の難易度と捉えても良いのかもしれません。



体重、年齢、性別のFTP目安表

以上の結果をもとに、以前作成したFTP目安表を体重別にまとめ直してみました。

大本はパワー・トレーニング・バイブル第3版の基準値をもとに、富士ヒルの年代別タイム分布の傾向から加齢による体力低下を換算したもので、そこに今回の体重別の結果を5kg刻みで組み込んでいます。



仮定していること

今回の結果は色々と仮定していることがあります。

  • stravaのセグメントデータに偏りがないこと(データが全体を等しく反映している)

  • 上位30パーセンタイル以降も同様に推移すること

  • 以前作成した富士ヒルに必要なFTPが逸脱していないこと

  • 集団走行や機材といった諸々の条件は体重区分が異なっても同じであること

  • 女性も男性と同様の傾向であること

  • 体脂肪率は恐らく重い体重区分ほど高いと考えられるが、調べる方法がないのでどの体重区分も等しい分布であると仮定

  • パワー・トレーニング・バイブルの基準としている体重は外国人の平均のはずです。論文では男性サイクリストは70-75kg、女性サイクリストは55-60kgのことが多いため、その体重区分を軸にその他の体重区分を補正している

  • 男性54kg以下、女性39kg以下の区分は一つ上の区分と同等

  • パーセンタイル値が同様であれば、同様の難易度であること

などです。

以上のような仮定はありますが、実用に耐える考察になっていれば嬉しいです。



おわりに

当たり前のことかもしれませんが、ヒルクライムにおいて体重をいかに軽くできるかはタイムを縮めるためにすごく重要なことです。

とは言え体格によっては減量できる範囲にも限りがありますし、富士ヒルの結果をみると一般的な体格の男性にとって54kg以下の体重はあまり好ましい状態ではないのかもしれません。

富士ヒルクライムのような大会ではタイムやメダルの色を目標に日々トレーニングを積まれている方もいらっしゃると思います。

その姿勢を全く否定するつもりはなく、むしろ励ましあってお互い精進したいと考えています。

しかし一方で、体格や年齢によって現実的ではない目標になってしまっていると、せっかく目標を掲げているのにもったいないという思いも残ります。

どのラインのパワーウエイトレシオを目指すか、皆さんの状況に合わせて目標を見定めるサポートになっていれば幸いです。

これからも目標に向かって、頑張っていきましょう!


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