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#47 80~90rpmのケイデンスは筋疲労の進行が遅い 高石さん研究②

みなさんこんにちは、川崎です。

前回の記事(#46)ではサイクリストと他スポーツ選手のペダリングを比較して、同じパワーとケイデンス条件でもサイクリストは瞬間的に加える力を抑えながら(グッと踏まないような)ペダリングしていることが分かりました。

またハムストリング(もも裏の筋肉)を積極的に使って、ペダリングの多くの局面を有効に活用していることも伺えました。

サイクリストのこのようなスキルが、90rpm前後の高いケイデンスを好む理由でもあるだろうと考察されており、

今回ご紹介する論文は同じ研究者(高橋さん)が引き続き検証を行ったものになります。

今回はFTP強度でのペダリング中の筋電図を分析して、どのケイデンス帯で筋疲労の進行が遅いのかを分析しています。

80~90rpmが最も筋疲労の進行が遅かったという結果が導かれていますが、一体どのような検証を行ったのでしょうか?

是非、読み進めてみてくださいね。



FTP強度で様々なケイデンスを検証

筋疲労の進行度合いとケイデンスの関係を検証するため、今回はおおよそFTP強度(85%VO2max)を様々なケイデンスで比較しています。

検証には大学自転車競技部6名が参加。

<検証方法>
・60rpmで85%VO2max強度を設定
・50, 60, 70, 80, 90, 100rpmでその強度を15分間維持
・ペダリング中の酸素摂取量と筋電図を分析

この検証の注目点は15分間FTP強度を維持する中で、筋疲労がどれだけ進んでいくかというところです。

筋疲労の検証には、筋肉を収縮させるために脳から送られてくる電気信号をキャッチする表面筋電図が用いられています。

電気信号(活動電位)は筋疲労によって徐々に強くなっていきます(下図)。

疲れてくるとしっかり踏み込んでいる感覚があるのにパワーは出ていないことってありますよね。

しっかり踏み込む感じ = 脳からの電気信号を強めている

なのにパワーは出ていない = 疲労している

この関係を分析していきます。

ある選手の分析結果が下の図になります。これを見ると、50rpmが最も筋疲労の進みが早いことが読み取れます。

このように、各ケイデンスでの疲労推移を直線の傾き具合として比較していきます。

それでは結果を見ていきましょう。



80と90rpmで筋疲労の進行が遅い

50~100rpmのケイデンスを比較した結果、80と90rpmが他と比べて筋疲労の進行が遅いことが分かりました(下図)

筋疲労の進行という面から見ると80~90rpmがケイデンスとしては合理的だという結果ですね。

一方で酸素摂取量は60~70rpmで低い値となっており、他の研究と一致しています(下図)。

60~70rpm前後で酸素消費的な観点からは合理的な一方で、筋疲労の観点からは80~90rpmが合理的。

多くの人がケイデンス80rpm前後を好むのは、酸素消費よりも筋の疲労感を優先しているからなのかもしれないという結果です。

これは感覚的にもそうだなと思えます。

FTP強度を何とか維持しようとする場合、皆さんはどのような感覚を頼りにケイデンスを調整するでしょうか?

多くの人が息苦しさよりも脚の辛さ加減をもとに最適なケイデンスを調整していると思います。

ですので最適なケイデンスは筋疲労という観点から調整されているのでは、という今回の結果は納得のいく説明と感じます。


しかしながら、ケイデンス研究ではあまりメジャーな見解ではないようです。

その理由としては、活動電位(筋電図の波形)が大きくなる要因が単に疲労だけではなく、速筋線維の動員など他の様々なものも含まれていて、単純には論じれないからなのかもしれません。

突き詰めていくと解釈に異なる余地があるようですが、私たちの感覚にマッチする、非常に面白い論文でした。


今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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併せて読んでもらいたい記事


ご紹介した論文

Takaishi, T., Yasuda, Y., & Moritani, T. (1996). Optimal pedaling rate estimated from neuromuscular fatigue for cyclists. Medicine & Science in Sports & Exercise Medincene, 28, 1492–1497.

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