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標高によって低下する有酸素能力(富士ヒル目標FTP値の修正)

2024年1月追記
より新しい記事を更新しました。そちらも是非ご覧ください。

前回の記事を書き終わった後、富士ヒルを話題にしている色々な方のブログを読む中で、前回作成した目標FTP値は標高について考慮していなかったなと気がつきました。今回の記事ではスポーツ科学分野の論文を参照し、標高が上がるにつれてどれくらいパワーが目減りしてしまうのかを紹介します。そして最後に標高によって目減りするパワーも勘案し、普段トレーニングする際に辿り着きたい目標FTP値表を作成してみました。

目次

  1. 高地では酸素を確保することが難しく、発揮し続けられるパワーは低下する

  2. 標高が上がるにつれて有酸素能力はどんどん落ちる

  3. 富士ヒルの標高を考慮して目標FTP値を修正。女性のシルバーはプロレベルの実力


1.高地では酸素を確保することが難しく、発揮し続けられるパワーは低下する

富士ヒルはスタート地点が標高約1,000m、ゴール地点が標高約2,300mです。高地では空気が薄くて息苦しいことは、登山などをされたことがある方は経験済みかと思います。たとえば普段駅の階段を登っているときに少し息切れすることがありますが、標高が高いところで同じように階段を登ると、もっともっと息が荒れて疲労感も上がります。これは標高が高くなり酸素が薄くなった環境では一回の呼吸で取り込める酸素が少なくなり、その分呼吸をたくさんする必要があることと(息切れ)、酸素が少ない状況ゆえに無酸素性のエネルギー代謝の助けにより疲労物質が発生することが一因です(疲労感)。このように同じような運動強度でも高地では相対的にきつくなります。同じことが富士ヒルでも起こっていて、普段暮らしている標高(多くの方が恐らく標高0mより少し高いくらいだと思います)で維持できるパワーよりも、標高の高くなる富士ヒルでは酸素が薄いことで維持できるパワーが目減りしてしまいます。


2.標高が上がるにつれて有酸素能力はどんどん落ちる

高地では酸素の取り込みが少なくなることで、酸素の力を借りてエネルギーを作り出す有酸素能力が落ちてしまいます。標高が高ければ高いほど、より一層有酸素能力が制限されてしまいます。有酸素能力は富士ヒルでパワーを出し続けるために一番大切な持久力。一体どれくらい落ちてしまうのか?少し以前に発表された論文から標高の影響をまとめてみました。論文から以下のことが言えそうです。

・標高500メートルですでに有酸素能力は2%強低下している
・標高が高くなるごとにどんどん有酸素能力は落ちる
・富士ヒルスタート地点で有酸素能力は4%ほど、ゴール付近では11%ほども低下

仮に普段暮らしている所でFTP200の人がいたとします。標高500mでは同じ努力感でパワーが4ほど落ちます。富士ヒルスタート地点で8、ゴール地点では22ほども、出し続けられるパワーが落ち込みます。こんなに落ちてしまうのか。。


3.富士ヒルの標高を考慮して目標FTP値を修正。女性のシルバーはプロレベルの実力

前回の記事では実際に富士ヒル中に出し続ける必要のあるパワーをもとに必要なFTP値を推定しました。しかしこのFTPのままだと、富士ヒルと同じくらいの標高で暮らしている人のトレーニング目標値となってしまいます。多くの方が標高0mより少し高い所で暮らし、トレーニングをしていると思うので、標高0mで目標にすべきFTP値表を作成してみました。富士ヒルスタートからゴールまでの標高の真ん中をとって、全体でだいたい有酸素能力が7.5%低下すると想定し、表を作成しました。表の見方は、「体重比」が富士ヒル中に目標とするタイムをクリアするために、そのタイム中発揮し続ける必要のあるパワーの体重比です。次に「FTP 富士ヒル」は目標とする「体重比」を実現するための1時間に発揮し続ける能力であるFTPの推定値です。そして最後の「FTP 標高0m」が、「FTP 富士ヒル」欄を標高0mにおける目標値に変換したものです。富士ヒルで目標タイムをクリアするためには、「FTP 標高0m」の値をトレーニング目標にすることが有力な目標値だと思います。前回の記事ではこの標高が考慮できていませんでした。

FTPの目標値を標高0mに変換することで、よりメダルを獲得する難易度が上がっています。各年代のFTP基準値表もこれに伴い修正したものを載せておきます。女性でシルバーを獲得できる実力は、プロレベルの脚力が必要になりそうです。また何か気が付いたことがあれば、その都度修正していきます。お読みいただきありがとうございました。

〈参考文献〉
Fulco, C. S., & Rock, P. B. (1998). Maximal and submaximal exercise performance at altitude. Article in Aviation Space and Environmental Medicine.



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