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エネルギー代謝のダイナミズム

どのようなスポーツにおいても、高いパフォーマンスを発揮する条件の一つとして、そのスポーツに適したエネルギー代謝能力を備えていることが挙げられます。

日々のトレーニングで目的とするエネルギー代謝の向上を目指す上では、コーチやトレーナー、そして選手自身のエネルギー代謝についての共通理解が深まっていると、コミュニケーションが円滑に進み、効果的に能力を高めることができるでしょう。

エネルギー代謝について理解しておくことは、スポーツを行う人や携わる人にとって非常に大切な事柄になってきますので、是非とも押さえておきたい知識です。

しかし、いざエネルギー代謝を学んでいくと、一筋縄では理解しにくい箇所に遭遇することがあります。何だか良く分からないけど、そういうものだろうと曖昧になってしまい、知識が断片化してしまうことがあるかもしれません。

そこで今回の記事では、エネルギー代謝を俯瞰できる視点を手に入れてもらうべく、私自身過去に感じた分かりにくい点を考慮しながら、説明していきたいと思います。

是非、最後まで読み進めてみてください。


1. ATP:アデノシン三リン酸

筋肉はタンパク質からなる極小の装置群でできていて、ATPから動力源(エネルギー)を受け取ることで、収縮を開始できます。

そんなATPは、下の図のような物質です。

注目してもらいたい所は三つの「P(リン原子)」。繋ぎ止められているものの、お利口に整列している訳ではありません。P(リン原子)は強くマイナスに帯電しているため、反発し、お互いをばらばらに弾き飛ばす勢いです。強力な磁石のS極同士が離れないように繋ぎ止められているところをイメージしてください。

そのような関係性のため、ひっつける作業は大変ですが、結合を解除することは簡単。解き放たれた際に生まれる大きなエネルギーがタンパク質装置に伝わることで、収縮の動力源を得ます。

そしてこのATPは筋肉を収縮させるだけではなく、細胞内のpHを保ったり、代謝物を運搬したりなど、筋肉が収縮し続けるためのあらゆる補助装置にも必要なものであり、いかに多くのATPを作り続けられるかが、スポーツにとって大切になってきます。

今回の記事では、この「ATPを作り出す仕組み」がメインテーマです。



2. ATPを作り出す

ATPを作り出す仕組みを「エネルギー代謝」と呼びますが、すっきりとその全体像を理解してもらうためには、説明に少々工夫が必要です。

キーポイントはグリコーゲンと乳酸の役どころの理解にあるのですが、押さえておいてもらいたい事柄を順を追って説明していきましょう。

ATPを生み出す三つの方法

ATPの合成は主に三つの方法によって行われています。

  • クレアチンリン酸(PCr)を使う:「ATP-PCr系」(※以降「PCr系」)

  • 酸素を使わず糖質を燃やす:「解糖系」

  • 酸素を使ってエネルギー源を燃やす:「有酸素系」

クレアチンリン酸(PCr)系
クレアチンリン酸(PCr)は筋線維の中にたくさんある物質で、ATPが消費されるとワンステップの化学反応という簡便さで、瞬時にATPを再合成できる優れもの。

ATPを再合成するスピードは随一。クレアチンリン酸(PCr)が潤沢にあれば、PCrを消費することにより、たったの数ミリ秒でATPの再合成が完了します。(参考1)

ただしクレアチンリン酸(PCr)にもキャパがあり、全力スプリントでは10秒ほどでATPの再合成効率が一気にダウンしてしまう(PCrが0になる訳ではない)。

そしてPCrの再構築は消費よりも緩慢で、消費したうちの半分を再構築するのに30秒ほどかかり、この過程にはATPが必要であり、有酸素的に行われます。(参考2)

◆解糖系
クレアチンリン酸がワンステップの化学反応であったのに対して、解糖系では10段階のステップを経てようやくATP(と乳酸)が作られます。といっても非常に速いことには変わりなく、こちらも数ミリ秒でATPを作ることができる。

何よりその資源はグリコーゲンやグルコースといった糖質なので、クレアチンリン酸(PCr)に比べて資源が豊富なため、PCr系に比べると長続きします。

60秒以内の全力スプリントなどで主要な活躍を見せますが、筋線維内の環境の悪化(pH下がるなど)により、10段階のステップの至るところで渋滞が発生し、効率は悪化していく。そのため60秒内においても、徐々にATP合成効率は目減りしてしまいます。

PCr系と解糖系は酸素を使わないので、合わせて「無酸素代謝」とも呼ばれます。

有酸素系
持久系競技は有酸素系によってパフォーマンスが左右されるため、大変重要な機能。ミトコンドリアの中で実行されています。資源になるものは豊富で、アセチルCoAと呼ばれる物質に分解できる、糖質、脂質、アミノ酸などあらゆる資源が用いられています。

しかし、その多機能性ゆえにATPを作るまでに大変なステップをこなさなければならない。PCr系や解糖系が数ミリ秒で効率よくATPを生み出せるのに対して、有酸素系は運動を始めてから45秒ほど経たないと、本領を発揮することができません。(参考2)


簡単に概略をご説明しましたが、これら三つの方法がどう実行されているのかを理解するには、ATP合成の貢献度を俯瞰するのが近道ですので、図を見てもらいましょう。

横軸に全力スプリント時間を、縦軸にATP合成量を表示しています。

参考1

短時間のスプリントでも、継続時間によってそれぞれの貢献度が変化していることが見て取れます。

6秒までのの全力スプリントでは、無酸素代謝(CPr系+解糖系)が支配的ですが、徐々に無酸素代謝に制限が出始め、15秒以降では有酸素系の貢献度が50%となっています。

トレーニング用語的に、1分前後のスプリントなどの超高強度帯を「無酸素領域」と呼んだりするので、有酸素系の代謝はないのかと誤解してしまいますが、実際は半分ほどが有酸素系でまかなわれています。

このように三つの方法が協力することで、短時間の超高出力が実現されているのです。

そしてこれら三つの代謝能力は、筋線維のタイプによって変わってきます。遅筋線維のポテンシャルを「1」として、速筋線維の能力がどれくらいなのかを表示してみました。(下図)

参考3

見ておいてもらいたいポイントは、遅筋線維は有酸素系が強いことと、速筋線維は解糖系が強いことです。後ほど再登場しますので、是非覚えておいてください。

以上が、ATP合成の「方法」に注目した、エネルギー代謝の説明です。


ATPを作るための資源

続いてはATPを作るための「資源」にスポットを当てていきましょう。

資源は大きく分けると糖質、脂質、アミノ酸(タンパク質)がありますが、アミノ酸がエネルギーに使われる割合は非常に少ないので、この記事では取りあげずに、糖質と脂質に注目していきます。

糖質や脂質といった資源は、
①筋内のストック
②血中からのサポート
の二つの供給元があります。

①筋内のストック
筋肉にはあらかじめ糖質(グリコーゲン)と脂質がストックされる仕組みがあり、運動中は順次それらの資源を消費しながら、ATPを合成しています。筋グリコーゲンに関しては、後ほど詳しく触れていきます。

②血中からのサポート
血中からも糖質と脂質のサポートがあり、順次筋内にそれら資源を取り込みます。しかし血中グルコースは筋肉だけではなく、あらゆる臓器に要の資源であり、筋肉に投入されすぎると、命に危険が及びます。

そのため、筋肉への血中グルコース投入には限りがあり、取り込める量は一分間にトータルで1.0g前後が上限とされています。これは出力ワットに換算すると、60ワット分ほどになります。


運動強度によってそれぞれの供給度が異なってくるので、これも図で確認してみます。横軸をFTP(1時間維持できるパワー)強度、縦軸を出力ワットで表示しています。

体重65kgの場合を想定。詳しい計算方法は記事末に載せています。参考1

特に注目してもらいたいことは以下の三つです。

  • 血中からのサポート(グルコース&脂質)の総量は、強度が変わってもあまり変化がない

  • 脂質(血中&筋内)利用の総量は、70-80%FTPで最大となる

  • 高い強度には、筋グリコーゲンの投入で対応する

パワーウエイトレシオ(w/kg)にして体重の2倍ほどのパワーまでは筋グリコーゲン以外で対応し、それ以降の高い出力に対して筋グリコーゲンを投入している様子が伺えます(※低強度であっても長時間行えば、グリコーゲンは消費されていきます)。

以上、ATPを合成する主な資源が糖質(グリコーゲン、グルコース)と脂質であり、それらは筋内にストックされているものと、血中からのサポート分という二つの供給元があることをご紹介しました。


筋グリコーゲン

ここからは本命、筋グリコーゲンに注目していきます。

グリコーゲンとは、最小単位の糖であるグルコースがたくさん連なったもの。安静時にはストックが進み、運動時に消費するような仕組みを筋肉は有しています。(下図)

一粒がグルコース、連なったものがグリコーゲン。引用8

高強度の運動時には、このストックしておいたグリコーゲンを投入し、対応します。どれくらい使われるのか?の目安を載せておきましょう。(下図)

いくつかの論文の結果を統合。

高強度帯での筋グリコーゲンの活躍には目を見張るものがありますが、それは単に解糖系によって消費されているだけではなく、有酸素系による利用も行われています。

このグリコーゲンの有酸素系による代謝が、ちょっとややこしいのです。少し遠回りをしながら、説明していきましょう。

まず一つ目に理解してもらいたいことが、解糖系と有酸素系のつながりです。

グリコーゲンを含め、糖質が筋線維内に入ると、まずは解糖系によってピルビン酸(乳酸の双子的な存在)に変換され、ATP(2-3個)を作ります。

そしてこのピルビン酸がミトコンドリアに運ばれ、有酸素系の代謝が行われることで膨大なATP(36個)が作られます。

この一連の流れを図にしたものが、下のものになります。

ここでお伝えしたいことは、グリコーゲンなどの糖質の代謝は、乳酸(ピルビン酸)までの過程を解糖系、それ以降を有酸素系と分けて説明されますが、それらは一連の流れであるということです。

そのため、ミトコンドリアに余裕のあるうちは、グリコーゲンは【解糖系→ピルビン酸→有酸素系】という一連の流れにのって、最終的に水と二酸化炭素まで分解されます。

ただ解糖系の過程は非常に早く、ミトコンドリアの有酸素系の代謝が追いつかない場面は、高強度運動時において頻発します。そのためピルビン酸は兄弟分である乳酸へと変換されます。解糖系の最終産物が乳酸と説明されるのは、このためです。

生成された乳酸は、言わば有酸素代謝の順番待ちをしている状態。乳酸は筋線維内にある程度ストックできるものですが、筋線維にも許容量があるので、それ以上の乳酸は血中へと放出されます。(下図)

血中に放出された乳酸は、脳や心臓、肝臓など他の臓器でも有酸素的に使われたりするのですが、高強度運動時には血中乳酸の90%が再び筋線維に取り込まれます(参考9)。筋線維が抱えきれなくなった乳酸を血中に一旦ストックしているような状態ですね。

さてここで、記事のはじめの方に出てきた「遅筋線維は有酸素系が強く、速筋線維は解糖系が強い」ことを思い出してください。

遅筋線維はミトコンドリアが豊富にあって、有酸素系の代謝は高強度運動時におていも、まだ余力が残っています。

一方、速筋線維は解糖系が発達している割にミトコンドリアが少ないので、乳酸への変換が進みます。そのため筋線維内にストックできる乳酸の上限値をすぐにオーバーし、血中へと乳酸を放出します。

このような関係性があるため、乳酸は速筋線維から遅筋線維へ流れ、有酸素的に利用されます。(下図)

以上から、筋グリコーゲンの有酸素系による代謝は、
【解糖系→有酸素系の一連の流れ】
【血中乳酸→有酸素系】
による二つのパターンがあり、経路は異なるものの、どちらも有酸素系の代謝になります。

筋グリコーゲンに関するこれまでの内容を、整理してみます。

  • 高強度運動時において、筋グリコーゲンはATPを合成するための主要な資源である

  • 速筋線維は解糖系の能力が非常に高く、有酸素系が追いつかないため、中間物質である乳酸を血中へ放出する

  • 遅筋線維は有酸素系の能力に優れているので、血中の乳酸を取り込んでピルビン酸に変換し、有酸素的に利用する

  • 筋グリコーゲンの有酸素系による代謝は、【解糖系→有酸素系の一連の流れ】によるものと、【血中乳酸→有酸素系】による二つのパターンがある

  • 解糖系で生み出せるATPが単位あたり2-3モルに対して、有酸素系で生み出せるATPは36モルと桁違いに多い

以上の内容を踏まえ、エネルギー代謝をまとめた図を見てもらいましょう。

この図を見て、「うん、そうだよね。」と思ってもらえていれば、私としては説明が成功した状態です。

ちなみに100%FTP強度では、解糖系の貢献度は5%ほどと小さなものですが、それ以上の強度になると、解糖系の存在感はかなり大きなものになってきます。(下図)

以上、エネルギー代謝を俯瞰してもらうためのメインパートをお伝えしました。



3. エネルギー代謝Tips

ここからはエネルギー代謝を更に理解してもらうため、小ネタとなるトピックをいくつかご紹介していきます。

◆乳酸閾値(LT)

乳酸閾値(LT)とは、血中の乳酸値レベルを一定に保つことができる上限の運動強度です。つまり、解糖系で余剰になった乳酸の放出と、乳酸を取り込んで有酸素代謝に回せる度合いが釣り合う上限ということになります。

どのくらいで釣り合うのか?を図からイメージしてみましょう。

参考1, 4

オレンジで囲んだ強度がおおよそ乳酸閾値(LT)強度になりますので、この解糖系と有酸素系の内訳が、血中乳酸値を一定にキープできる上限ということになります。

乳酸閾値強度よりも高い右二つでは、全体に占める解糖系の割合が高くなっていて、有酸素系が追いつきません。そのため血中乳酸値の上昇に歯止めがかからない状況になっており、そのような状況では筋線維内の環境(pHなど)が著しく悪化し、早いタイミングで筋疲労に至ります。

乳酸閾値パワーを高めるには、血中に放出された乳酸を有酸素的にまかなえる能力が必要です。主には遅筋線維の有酸素能力を高めること(もちろん速筋線維も)、つまりミトコンドリアの開発が肝心です。

ミトコンドリアについては下の記事で詳しくご紹介しましたので、是非読んでみてください。


◆最大酸素摂取量(VO2max)

VO2max領域といえば辛い強度であることはご存知だと思いますが、イマイチ言葉の意味がピンとこない呼び名でもあります。

今回の記事に照らすと、VO2maxは「体がATPを作り出すために、時間あたりに使った酸素の最大量」を指します。つまり、時間あたりに最も有酸素代謝が活発な強度が、VO2max領域になります。

では、どの強度帯で有酸素代謝が最も活発になるかを、先ほどの図で見てみましょう。

参考1, 4

今度は有酸素代謝が一番多い強度帯を赤で囲みました。おおよそ120%FTP前後です。

この強度よりも高いと解糖系の勢いが凄まじく、その影響で有酸素代謝を制限してしまったり、そもそも有酸素代謝が本領を発揮する前に疲労に至ってしまい、有酸素代謝の貢献度合いは目減りしてしまいます。

そういったマイナス要素を小さくしながら、かつ3-5分ほど継続可能な運動強度が、最も有酸素代謝を活発にします。そのような強度帯が時間あたりに利用できる酸素の量が最も多くなるので、VO2maxと呼ばれます。(※もっと高い強度帯のインターバルでも、レスト時間との兼ね合いを上手く行えれば、VO2maxとなります。たとえば、タバタトレーニングなど)


◆自転車トラック競技

自転車のトラック競技(専用の競技場で行われるもの)には、スプリント競技や一時間タイムトライアルなど様々な競技種目が行われていて、それぞれに必要なエネルギー代謝能力が大きく異なります。

各競技種目において、エネルギー代謝の貢献度合いは以下のようになっています。

Pcr系+解糖系+有酸素系=100とした場合の割合。参考4

競技の距離が短くなるほど解糖系の貢献度合いが高く、速筋線維の能力が重要になってきます。短距離トラック選手は長距離トラック選手と比べて体重があることからも、速筋線維の発達が伺えます。(下図)

参考4

ただ、1分前後の1,000mタイムトライアルでも有酸素代謝が50%を占めますので、解糖系と有酸素系のバランスも大事。解糖系の能力に特化するだけでは勝てません。

というのも、筋出力の大きさと解糖系の能力で勝負が決まるなら、体重は100kgを越えるような大きな体格の方が有利です。しかし、オリンピック選手の体重は、1,000mの男性でも80kg強を中心に分布しています

恐らくこの体重、体格あたりに、競技に最適化された解糖系(主に速筋線維)と有酸素系(主に遅筋線維)のバランスが生まれやすいのでしょう。

200mスプリント(10秒)では、加速の問題が体重に影響していそうです。


◆パワープロファイル

以前にパワープロファイルの記事を投稿しましたが、各脚質について、エネルギー代謝面からは以下のようなことが考えられます。

【スプリンター】
かなりPCr系、解糖系に優れた代謝特性を備えている。単位時間あたりに使える筋グリコーゲンの量が多い。反面、有酸素代謝レベルはあまり高くない。そのため速筋線維と遅筋線維の割合は、速筋線維が多い可能性が高い。有酸素代謝を高めたい場合、速筋線維の解糖系の適応を犠牲にしないようトレーニング計画を練る必要がありそう。


【パンチャー】
1分、5分パワーに優れるタイプ。VO2maxが高く、解糖系と有酸素系ともに優れている。60分パワーが相対的に低いことは、糖質の代謝(解糖系&有酸素系)に優れているものの、脂質代謝が相対的に劣り、結果として筋グリコーゲンの消費が早く進んでしまうことなどが要因としてあるのかもしれない。


【タイムトライアリスト/クライマー】
パンチの効いた緩急よりも、坦々とパワーを発揮し続けられるタイプ。解糖系の代謝能力が相対的に低いこと、逆に60分という長時間の有酸素パワーに長けていることから、遅筋線維の割合が多いと考えられる。


【オールラウンダー】
全てのエネルギー代謝がバランスよく発達しているタイプ。様々な強度のエネルギー代謝要求にうまく適応できる一方、あるエネルギー代謝に特化している選手には、専門となる競技シーンで勝つことは難しいのかもしれない。

あくまで個人的な考察ですが、パワープロファイルを確認することで、ご自身の代謝特性を推し量ることができます。

以下の記事内に、ご自身のパワープロファイルを出力する資料を添付していますので、ご活用ください。


◆各エネルギー代謝について

過去に各エネルギー資源の代謝についての記事を書いてみましたので、掲載しておきます。より詳しい内容が載っていますので、是非読んでみてください。



4. おわりに

この記事を書いている現在、本腰を入れてnoteを書き始めてから一年ほどが経ちました。

noteに記事を書くために読んだ論文の数は、周辺知識の獲得も含めると500本ほどになり、個人的にはかなり読み込んだ一年となりました。

この一年、一つ一つの知識を改めて深掘ることで新たな発見があり、別々に分かれていた知識が結びついたときなどは、すごく嬉しい気持ちになりました。

そんな個人的な体験をnoteに表現し直すことで、皆さんに何かご提供できるものがあるのではないかと考え、書き進めた次第です。

皆さんに読んでもらい、スキやフォローをしてくださることがnoteを書き進める支えとなりました。読みやすい文章とは言い難い私の記事を、読んでもらえたことに感謝しています。

取り扱ってきた内容の多くは、トレーニングの土台となる知識です。それを知ったからと言って、すぐにパフォーマンスが高まるようなことは恐らくありません。しかし、このような知識を高いレベルで定着させられていれば、いざトレーニングを実践する際に、柔軟に発想ができるようになります。

それによってトレーニングに追い回されず、むしろコントロール出来ているという実感を抱ければ、トレーニングを継続するモチベーションになりますし、充実感も大きくなるでしょう。

私の記事が、そのような好循環を作るきっかけになっていれば幸いです。

今後の投稿については、まだまだご紹介したいことはたくさんあるので、記事を書き進めていこうと考えています。

ただ、これまでのようなペースではなく、頻度を下げて投稿していく予定です。

これから投稿していく記事はもう少し散発的に、興味深い論文や、他のスポーツ科学分野などもご紹介してみたいと考えています。

本格的に書き始めた当初に、書いてみたいと考えていた内容を大方仕上げられたこのタイミングで、今後の投稿方針についてお伝えさせてもらいました。

共に学んでいきましょう。

これからも、宜しくお願いします!


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5. 計算方法

カロリーからワットへの変換は、体重を65kgと想定して行っています。

cycling efficiencyと呼ばれる概念によれば、酸素と二酸化炭素の体への出入りから計算される体全体で消費したカロリーのうち、ペダリング踏力(ワット)に変換される割合はおおよそ18-25%になります(参考7)。今回は22%と想定して計算を進めました。

例えば100cal/kg/minの場合、体重65kgの人では、一分間に

100cal × 65kg = 6,500cal/min

ペダル踏力はその内22%として、

6500cal × 22% = 1,430cal/min

1秒あたりに費やすジュール値であるワット(w)に変換すると、

1,430cal ÷ 60秒 × 4.2(cal→J) ≒ 100watt

そのような計算から、以下の図を作成しています。

参考1


6. 参考文献

  1. Hargreaves, M. (2020). Skeletal muscle energy metabolism during exercise. Nature Metabolism, 2(9), 817–828.

  2. Mcmahon, S.(2002). Factors affecting the rate of phosphocreatine resynthesis following intense exercise. Sports Medicine, 32(12), 761–784.

  3. Zierath, R. (2004). Skeletal muscle fiber type: Influence on contractile and metabolic properties. PLoS Biology, 2(10).

  4. Craig, P.(2001). Characteristics of track cycling. Sports Medicine, 31(7), 457–468.

  5. Emhoff, W.(2013). Direct and indirect lactate oxidation in trained and untrained men. J Appl Physiol, 115, 829–838.

  6. Messonnier, A. (2013). Lactate kinetics at the lactate threshold in trained and untrained men. J Appl Physiol, 114, 1593–1602

  7. Ettema, G., & Lorås, H. W. (2009). Efficiency in cycling: A review. In European Journal of Applied Physiology ,106(1), 1–14.

  8. Murray, B., & Rosenbloom, C. (2018). Fundamentals of glycogen metabolism for coaches and athletes. Nutrition Reviews, 76(4), 243–259.

  9. van Hall, G. (2010). Lactate kinetics in human tissues at rest and during exercise. Acta Physiologica, 199(4), 499–508.

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