プロダクトが好きですか?

始祖のプロダクトマネージャー達

世の中にはプロダクトが好きで好きで仕方ないという人がいる。彼らは探究心や知的好奇心に溢れ、世の中に出てくる様々なプロダクトに興味を持つ。今流行りのアプリはなにか、自分が愛用する道具のベストはないのか、見つけた素晴らしいプロダクトの作者や会社の思想や背景はなにか、といった情報を誰に言われずとも自分で好きで探求をし続ける。

さらに彼らは単なるマニアにとどまらず、自らモノづくりに関わり始める。彼らは(ある種狂気的な)拘りを発揮し、世の中を変えてしまうようなモノを構想し、生み出す。彼らは自分の役割や職種に固執せず、必要であれば開発・デザイン・法務・財務・人事と幅広い領域の業務やトラブルの取りまとめを行い、社員を力強く鼓舞し続ける。彼らは決して諦めず、顧客の人生をより良きものにするようなプロダクトを追い求め続ける。

そうした人が組織にいるほうが事業が成功しやすいと気づいたアメリカ人は彼らを"プロダクトマネージャー"と呼び、彼らが何者なのか、どのような手法を用いるのか、どのようにすれば採用・育成できるのかを研究し始めた。プロダクトマネージャー達は、気づいたら自分たちの呼称を外部から与えられていた。ここでは彼らを始祖のプロダクトマネージャーと呼ぶ。

始祖ではないプロダクトマネージャー

そうしてプロダクトマネージャーは一躍大きなトレンドとなり、猫も杓子もプロダクトマネージャーという時代が訪れ始めた。始祖のプロダクトマネージャーの特徴は「気づいたら人々が自分たちをプロダクトマネージャーと読んでいた」であったが、そうではない「プロダクトマネージャーを目指す人々」が徐々に増え始めた。私自身も、プログラマ一本でやっていける自信がなくなり、エージェントに相談したらプロダクトマネージャーなる職種を紹介され、初めて知った口である。

もちろん「プロダクトマネージャーを目指す人々」の中にもある種の覚醒を経て、始祖のような熱量でプロダクトの研究と開発を推し進めるようになった人々がいることは否定しない。私もいずれはそうなれるのではないかと思い、日夜TechCrunchやらギズモードやらの記事を読み続けた時期があった。しかし、長続きしなかった。驚くほどに、興味が持てないのである。試しに今ギズモードを開いたら「最新ワイヤレスピンマイク“Razer Seiren BT”登場。モバイル配信者をかっこよく見せます。」という記事がトップに出てきた。「マジでどうでもいいな」という感想しか持てない。

https://www.gizmodo.jp/2022/03/razer-seiren-bt.html

始祖のようになれない自分

結局のところ、私は始祖のようにはなれないという不都合な事実が今も私の目の前に立ちはだかっている。幸い、プロダクトマネージャーという職種は優先度判断をしなければ仕事は山のようにある。というか優先度判断自体が最も重要な業務なのだが、始祖のようになれない自分に引け目を感じることが辛く、あえて量に逃げる日々が続いた。「プロダクトマネージャーという職種自体がまだまだ黎明期だから今はまだ始祖が多数派だが、成熟が進めば進むほど、私のような人間が多数派になるはずだ」などと嘯いてはみるものの、ある種の虚しさが消えることはなかった。

結局は顧客に救われる

しかしだからといって私はこの職種を辞めたいとはもはや思えない。自分の才能の無さや能力不足を恥じつつもなんとか生み出したプロダクトに対して顧客が「これ良いね」「この製品を使えるのが楽しみです」「この製品でこんなことやってみました」「この製品は私が生み出した(?)」というフィードバックをくれる瞬間は、本当に心が動かされる。この時に感じる喜びは、他の方法ではなかなか味わえない。しかもテーラーメイドなソリューションではなく、プロダクトという形に落とし込めているから、より幅広くより多くの顧客からこれを得ることができる。

結局の所、顧客からのフィードバックによって私は救われた。我ながら、ベタでありがちな展開だと感じる。

余談:なぜ芸能人が仕事を辞められないのか

これは完全に余談かつ偏見だが、おそらく一生贅沢をしても使えきれないほどの額を貯め込んでいる芸能人が依然として仕事をし続ける理由は承認欲求にあると考える。多くの耳目を集める場で人々を楽しませたり感謝されることで得られるドーパミンの量はおそらく凄まじいものであり、もはやそれ以上の喜びを仕事以外で得ることがほぼ不可能なのではないか。そう考えると、スパッと仕事を辞めた安室奈美恵などの芸能人はすごい。

始祖になれないなりに、やっていくしかない

私の上司は始祖型である。上司がプロダクトへの熱量を語るたびに私はいつも敬意を持つとともに、ある種の居心地の悪さを覚える。自分がこんな場にいてもいいのだろうかとよく思う。優秀な同僚プロダクトマネージャーが増えると、喜びを覚えつつ、いつか自分が不要な環境が来るのではと焦りも感じる。おそらくこうした感覚が今後消えることは無いのだと思う。

しかし、それがどうしたというのだ。私には、今担当しているプロダクトの顧客の仕事や人生を前進させるというミッションがある。また私が生み出すかもしれないプロダクトで仕事や生活が(ほんの少しでも)前進する顧客がいるかもしれないのだ。その人達からのフィードバック(及びそれで得られるドーパミン)を求めて、やっていくしかない。

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