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オーケストラがコロナ禍で存続するために

こんにちは。日本オーケストラ連盟です。

みなさまは「プロ・オーケストラ」の経営についてどんなイメージをお持ちでしょうか。
当連盟では『日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑』を毎年発行し、加盟団体の1年間の活動状況や収支に関することなど詳しく掲載しています。

本日は9月に発行した「日本オーケストラ連盟ニュース 38ORCHESTRAS vol.105」よりコロナ禍でオーケストラがどのような支援によって存続できたのか、今後の展望についての対談記事をご紹介します。
少し長いので、2回に分けて掲載します。

コロナ感染拡大に対する
国の支援のこれまでと今後

2020 年 3 月から感染拡大した新型コロナウイルス。
2021 年になっても収束の兆しは見えず、現在も続いている。
“ コロナ禍 ” における国などの支援によりオーケストラは 2020年度を乗り切ることができたと言える。
今回は大変ありがたいものである支援制度を振り返るとともに、“ アフターコロナ ” を見据え、これからの支援の姿や課題についてお話しいただいた。(2021年7月2日収録)[文中敬称略]

雇用調整助成金、
日本政策金融公庫

桑原 まず、2020 年 4 月時点を振り返って、当初国が推し進めていたのは雇用調整助成金と日本政策金融公庫(以下、公庫)から融資を受けるということでした。雇用調整助成金の申請はどのようにトライしましたか。

西濱 山形交響楽団(以下、山響)では 3,500万円ほどを確保しました。このインパクトは大きいです。2020 年 4 月~ 6 月まで動きを止めていた 3 か月強を対象としていただきました。

赤穂 大阪交響楽団(以下、大響)は昨年 1年間で約 6,600 万円いただきました。今年度は4 月~ 6 月分を申請する予定です。

桑原 雇用調整助成金は現在一人あたり一日15,000 円が上限です。昨年 4 月時点はいくらでしたか。

西濱 7,800 円が上限でした。最初は申請しても通らないのではないかと思いました。というのも、申請要件である労働条件の監査が入ることになっているためです。
赤穂さんに助言をもらい、就業規則の分かれている楽団員と事務局を分け、楽団員の分のみ申請しました。山形市からの応援もありました。

工藤 東京フィルハーモニー交響楽団(以下、東京フィル)では、まず社労士と相談しました。厚労省も上限金額など申請要件が変わっていったので、二度手間になることを避けるために上限が15,000 円になってから取り組み始めました。
楽員の分のみです。昨年度は 12 月以外いただきました。今年度も申請は続いています。

桑原 東京フィルは楽団員数、中止公演数ともに多いので、金額も大きいものになりますね。
次に、公庫についてはいかがでしたか。無利息で返済期間も長いですが、毎年返済分黒字を出さないといけないとなるとなかなか難しいので手を出しづらかったと思います。公庫からは借りましたか?

赤穂 公庫からも商工中金からも断られました。前年度の決算に、約 4,000 万円の赤字があり、さらにコロナ禍で約 4,000 万円、合わせて約8,000 万円の赤字が出たためです。
しかし、社会保険料の納付猶予制度により約 5,000 万円を運転資金に回せました。利息もかからない形で支払い猶予を与えられたのが一番大きく、借り入れせずに済みました。

工藤 融資は受けていません。

西濱 昨年 4 月に 4,800 万円を借りました。結果的には借りなくても大丈夫でしたが、4 月時点ではまだ雇用助成金に申請できるかわからない、通ったとしても当時の一日7,800円では頼りない、という状況でした。
また、その後のご寄付の動きが我々にとっては非常に大きかったのですが、当時、寄付が集まるかわからない状況の中では必要な融資の申請でした。

志田 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団(以下、シティ・フィル)では、雇用調整助成金がいただけない中で、公庫から4 月に 6,000 万円借り入れました。5 年ほどで返済しますが、2 年間の猶予があるのでまだ返し始めていません。

赤穂 東京シティ・フィルはなぜ雇用調整助成金に申請できないのですか。

桑原 東京シティ・フィルでは楽団員と雇用関係にないためです。また、財団の成立時期の問題もありました。

志田 元々は財団法人と任意団体で成り立っていたものを1 つの法人にまとめることにしました。2020 年 1 月に一般社団法人を新しく登記したばかりでコロナ禍になってしまいました。
任意団体としての実績は―これまで税金も納めていますし―ありますが、内容ではなく一般社団法人としては新しい団体ということで実績がないという扱いになりました。区の補助金なども認められませんでした。

持続化給付金や
その他の支援

桑原 持続化給付金は上限 200 万円ですが、ひと月に固定費が何千万も必要になるオーケストラにとっては焼け石に水のようなものだったかもしれません。

西濱 今になってこそですが、昨年 4 月は今ほど状況が整ってなかったので、その時にできる最善を尽くそうという考えでほとんどの楽団が申請したのではないかと思います。
「結果的には」というところはあるにせよ、今だから言えることであるというのは非常に重要なことだと思います。

桑原 家賃の補助は申請しましたか。

赤穂 家賃支援給付金も申請して200 万 2,000円ほどが今年の 3 月に入金されました。

西濱 山響は、以前より事務局については県支援の一環として無償提供(光熱費・清掃費は別)していただいているので、申請はしていません。

工藤 経済産業省(以下、経産省)の家賃支援給付金と東京都の家賃支援等給支援金も申請し、満額いただきました。

志田 先程の理由で家賃補助も受けられていません。

桑原 国は当初通常時もある中小企業向けの施策――例えばセーフティネットワーク――を使うように打診していましたが、当初財団法人も社団法人も対象外だった事を主張する中で、その後他の支援が受けやすくなりました。
また、文化庁の補正予算の中で出てきた収益力強化事業は、実演ができない状況下でも収益力を失わないためにアーカイブ、ライブ配信などを支援するものでしたがいかがでしたか。

赤穂 補助金・助成金の申請は種類が多く、結局手が回りませんでした。

西濱 収益力強化で言うと観光庁の「誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成事業」には申請しました。観光との融合はコロナ後重要だろうという考えがあったからです。

工藤 収益力強化事業で申請したものはありません。

志田 申請していません。

桑原 とにかく事業としてエビデンスがなければ助成金は出ないし、配信事業は簡単ではないとわかったころだったので難しかったのではないでしょうか。

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