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オーケストラ公演を全国に届けることは素晴らしい

日本オーケストラ連盟では今年7月からオーケストラ・キャラバンという事業をおこなって参りましたが、全47公演のうち、残すところあと5公演。
ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました。

『オーケストラ・キャラバン47』は、文化庁の「大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業」の一環です。文化芸術の重要性や魅力を発信し、体感して頂くことにより、コロナ禍の萎縮効果を乗り越え、地域の文化芸術の振興を推進する目的で開催されます。 全国37会場、47公演をお届けいたします。

オーケストラ・キャラバン2021
https://www.orchestra.or.jp/caravan2021/

今回は「日本オーケストラ連盟ニュース vol.106 38 ORCHESTRAS」より座談会の記事をお届けいたします。

オーケストラ公演を全国に届けることは素晴らしい

~令和2年度第3次補正予算「アートキャラバン事業」を通して~

参加者 
後藤 純悦(山形交響楽団 事業局長兼企画営業部長)
床坊 剛(オーケストラ・アンサンブル金沢 オーケストラ担当部長)
宇津志 忠章(広島交響楽団 事業部課長)

進行:桑原 浩(日本オーケストラ連盟専務理事・事務局長)

コロナ禍にあって、国は様々な形で芸術家、芸術団体の支援をおこなった。その中で公益社団法人日本オーケストラ連盟は「アートキャラバン事業」として全国で47の公演(21楽団)を計画することが出来た。以下の座談会は全体のほぼ2/3の公演が終わった段階で開催した。コロナ禍の中で、芸術団体が経済的に救われるだけでなく、改めてクラシック音楽を提供している団体として、気づくことなどが多くあった。

―― 令和 2 年度の補正予算として、コロナ対策の事業の一つとして行われた国の「アートキャラバン事業」ですが、楽団の運営上大きな助けになりましたか?

後藤 大変助かりました。入場料収入のリスクもありましたが、それも小さくされているので確実な利益を見込むことが出来ました。

宇津志 私たちは 2 公演でしたが、山形公演においては地元の山形交響楽団の協力があり入場者を確保する面で助かりました。また上田公演(長野)はもともとコロナで計画が中止になり、公演の目途が立っていない中今回の助成で実現することが出来ました。

床坊 もともと山陰地方で計画されている演奏会の前に、途中の街(岡山県津山市、鳥取県日南町)で公演が出来たことは、経済的にも助かりました。

━━準備から実施の期間が短かったかと思いますが、どのような苦労がありましたか?広報・券売は?

宇津志 山形公演の準備期間は 1 か月しかなく、通常でしたら広報も券売ももっと苦労していたはずですが、地元の山形交響楽団が協力してくれたことが大変大きかったと思います。

後藤 私たちも最初の公演は時間が無くてチケット販売は厳しかったですが、岩手県内の 2 都市(岩手県釜石市、一関市)で行ったので、広報宣伝が効率よくできたことが幸いしました。

━━オーケストラにとっては遠隔地での自主公演の形になりましたが、どんな苦労がありましたか?現地ホールとの間に今後も役に立つネットワークは出来ましたか ?

床坊 演奏会の広報及びチケットの販売業務は地元のホールに委託するわけですが、地元自治体の感染拡大への不安から公演開催への制約が多く、広報が十分にはできなかった。入善は隣県(富山県)であり、これまでも公演を行いたいと思っていたところ。ただし客席数などの理由で実施できていなかった。
今回実現できたのはありがたく、今後も連携は続いていくと思う。津山は久しぶりの訪問で、プロオケの公演がないということもあり大変歓迎された。機会があれば次に繋がるものだった。

後藤 釜石も一関もホールの熱意があり、今後に繋がる関係が出来たと感じた。

━━きっかけはコロナ対策としての支援事業でしたが、地元でない都市での公演という事で何かお感じになられたことは?

後藤 山形は大きな都市ではないので、いろいろな町を回らなければという思いでいますが、予算、チケット販売など課題は多い。
例えば一関は人口10 万人の都市ですが固定的な聴衆は 200 人程度。今回アートキャラバンで予算がついたことで PRもできるので「やってみよう」ということになった。ホール側に熱意があって実現できた。ある程度定期的にいかないと、基礎的な聴衆は育たない。

宇津志 広響が今回行った 2 か所のうち山形は山響がある町なので、聴衆がオケに慣れており、温かさを感じた。オケが活動している土地を訪れるのはとても良い経験だった。ホールとは情報交換など良い関係が築けた。上田のホールも4 年目だが、とても積極的に事業に取り組んでいるホール。
両ホールともやりにくさや不安を感じることはなかった。広響は学校公演以外県外での公演がないので今回の経験は大変刺激になったので、今後もこうした機会は生かしていきたい。

後藤 大変刺激になった。山響の会員にも広響の公演を案内したが、「聞き比べができてよかった」という声もあり、楽団員も聞きに行き刺激になったようだ。相互にオケの往来ができることはとても良いことだと感じた。

床坊 オーケストラ・アンサンブル金沢(以下 OEK)は今回のアートキャラバンでは大きな都市での公演はなかった。小規模のホールへオーケストラが訪ねるのは大変意義のあることだったと思う。特に津山は最近オーケストラの公演がなかったし、日南にはオーケストラの訪問実績がないのでそこに行けたことは大変意義がある。
一方、今回の事業では3つのオケ(大阪響、セントラル愛知響、日本フィル)が金沢に来てくれたのは良い機会だった。地域の聴衆にとって聴き比べができ刺激になったし、地方都市でサマーフェスティバルのように開催できたのはよかったと思う。

━━ 今回は時間がない中でオーケストラとホールの空き状況を調べ、やや強引に演奏会を計画しました。今後全国にこれだけ立派なホールがあるなかでどうやったらうまくネットワークを築き、演奏機会の構築ができるでしょうか?

後藤 地元では企画制作できる人材が少ない。今回の岩手の二つのホールには熱心な人がいて、既にホール間のネットワークができていた。やはり、各所に優れた人材がいるかという事が重要です。指定管理者制度の課題かもしれません。

宇津志 広島市は、貸館を主体にしているところが多く、主催事業をしているところが少ない。もっと行政に働き掛けないといけないと思う。ホールがあるのにソフトを作っていく土壌がないのが残念。隣県である岡山、山口と関係を築けているかと問われると、築けていないのが実情。

床坊 石川県も大きな県ではないので、北陸で唯一のプロオケの役目として、当エリアのホールとも新たな連携を築いていかなければいけない。そうしないとオケの聴衆は増えていかないと思う。

━━今後もこのような支援が仮にあるとしたら、行ってみたい地方公演などありますか?

宇津志 九州での公演も検討中なので、もしあれば大変ありがたい。また大阪から東に行くとなると、費用の面からも難しいところもあるのでこうした支援があるのであれば、活用したい。

床坊 北陸新幹線の延伸計画もあるので活動のエリアを広げたい。OEK は小さなオケなので、小さなホールでも公演ができる。良いホールだが、客席数の状況から公演をできていないホールはたくさんある。より沿線のすみずみまで行き渡る活動をしたい。

━━ オケが各地域を結び、ネットワークを作る役割を担うのがいいかもしれないですね。国の事業として現在行われている全国の学校を訪ねる巡回公演とうまく組み合わせて公演を行うことが出来れば、オーケストラが地方での一般公演を増やすことができるのではないかと思う。今回ご縁ができた地方との関係は大切にしてほしい。今回の経験を活かし、地方公演の重要性を伝えていきたいですね。

床坊 OEK や京都市響、兵庫芸文センター管などはホールと一体となって活動する楽団です。OEK の本拠地石川県立音楽堂は外からオーケストラをどんどん呼んで公演をやっているかと言えばそうではない。ホールの空き状況、ホールの年間の事業も決まっていて、他のオーケストラの公演を入れていくには、地域の聴衆の数と公演数の全体的なバランスから悩ましいのかもしれない。
しかしながら聴衆は今回金沢という地方都市で、複数のオケの公演が聴けるという良い機会をもった。今後、広響、山響さんにも金沢に来て演奏してほしい。こうした事業は、継続することが大事だと思うし、聴衆のオーケストラに対する期待度が高まり、各オーケストラの意識も高まると思います。

━━その結果、恒常的にオーケストラを楽しんでいただける聴衆も増えることにつながるかもしれませんね。聴衆がオーケストラを育て、オーケストラが聴衆を育てるその結果、好循環が生まれる。ミューザ川崎のようなフェスティバルにできると良いかもしれませんね。

宇津志 こうした事業で可能性が広がる。東京や大阪に偏らないことは、町としても面白いのではないか。広島だと、広響以外のプロオケを聞く機会が少ないので、他のオーケストラが聞ける機会が出来た方が全体的なパイが広がると思う。それがホールの必要性にも広がると思う。広島にも是非新しいホールが欲しいのです。

 オーケストラは人数も多く、そのため予算も多く必要となる。そのため大都市中心で演奏会を行うことが多くなるが、現在の日本には中小の都市にもオーケストラの演奏が可能な舞台を持つ素晴らしいホールが数多くある。
 今回の「アートキャラバン事業」を通して、改めてその事実に気づき、文化芸術を享受する機会が大都市中心ではいけないという事を再認識する機会となった。そのためにはオーケストラが媒体となって地域のネットワークを作ること、地域に人材を育てることの重要性を感じた。
(桑原 浩)

オーケストラ・キャラバン ~オーケストラと心に響くひとときを~
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