見出し画像

コロナ禍での第19回東京国際音楽コンクール〈指揮〉の成功

あけましておめでとうございます。
いつも日本オーケストラ連盟noteをご覧いただきましてありがとうございます!本年もオーケストラのことを知っていただけるよう、更新していきますのでどうぞよろしくお願いいたします。
今回は昨年開催された、「第19回東京国際音楽コンクール<指揮>」の様子を「日本オーケストラ連盟ニュース vol.106 38 ORCHESTRAS」よりお届けいたします。

コロナ禍での第19回東京国際音楽コンクール
〈指揮〉の成功

 世界中の芸術文化活動が新型コロナウイルス感染症のためにその活動が困難ななか、「第19回東京国際音楽コンクール<指揮>」は開催された。国際コンクールは 多くの外国人の来日環境を整えること、多くの人間の集合体であるオーケストラとの共演の環境を整えること、コンクールを楽しみにしていてかつその成功に必要不可欠であるお客様を迎えること、問題は山積みのなか9月27日(月)の第1次予選から、10月3日(日)の本選まで東京オペラシティコンサートホールで開催された。

 3年前の第18回大会では1位から3位までを日本人が独占し、優勝した沖澤のどかさんのコンクール後の活躍もあり、大きな期待感の中での開催となった。審査員は新しく審査委員長になった指揮者の尾高忠明のもと海外からシャーン・エドワーズ(イギリス:英国王立音楽院)、オッコ・カム(フィンランド:指揮者)、ライナー・キュッヒル(オーストリア:ヴァイオリニスト)、ユベール・スダーン(オランダ:指揮者)、準・メルクル(ドイツ:指揮者)の5名、日本からは広上淳一、高関健、梅田俊明の3名の指揮者が招かれた。

書類映像審査、過去最多の応募

 49カ国、331名の応募があり、 その結果第一次予選には14名が通過、うち2名が棄権し12名での開催となった。日本6、ロシア2、イギリス、ドイツ、ブラジル、フランス各1、男性10、女性2の内訳となった。

第一次予選

 緊急事態宣言が発令されている中、無観客での開催(本選のみ有観客で実施)。ベートーベンの交響曲第2番より指定された部分を決められた時間内に必ず1回は演奏しなければならない。途中オーケストラを止めて指示することは自由。表現したいことをどう効率的に伝え全体の時間に収めるか、音楽性と共に指揮者が求められるリハーサルの計画性もここでは求められ、その結果、石坂幸治、米田覚士(日本)、バーティー・ベイジェント(イギリス)、ルカ・ ハウザー(ドイツ)、ジョゼ・ソアーレス(ブラジル)、サミー・ラシッド(フランス)、ミハイル・メリング(ロシア)の7名が第2次予選に進むことになった。
 ひとえに若い指揮者と言っても、すでにある程度の指揮活動をしていて、ある意味での指揮の要領を心得ていてオーケストラへのストレスを考えられる人から、まだほとんど経験のない人まで幅は広い。
 しかしコンクールの場においては審査員、オーケストラからは丸裸にされると言っても過言でない。その指揮者の持っている、音楽的な才能、創造に対する渇望といったものが評価される。もちろん基礎的な指揮の技術は重要で。

第二次予選

 第二次予選ではチャイコフスキーの交響曲第4番と三善晃の交響三章、モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」よりアリア(Sop: 佐藤亜希子)、チャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」(Vc: 横坂 源)から、それぞれ定められた部分を演奏した。1次予選では音楽の基礎的な表現が問われるが、2次予選では指揮をするためのあらゆるエッセンスを問われる。
 三善作品など外国からの出演者にとっては未知のものではあるが、現役の指揮者でも非常に指揮が難しいこの曲で指揮の技術・本人にとって未知なる作品への適応力が審査される。ここまでの審査により300人以上の応募者の中から本選参加が認められたのは、J. ソアーレス、B. ベイジェント、 S.ラシッド、米田覚士の4名。

優勝は最年少、J. ソアーレス

 課題曲であるロッシーニの歌劇「どろぼうカササギ」序曲に加え、各自が選んだ自由曲の演奏となる。J.ソアーレスはストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ(1947)」、S.ラシッドはサン=サーンスの交響曲第3番、B. ペイジェントは R.シュトラウスの交響詩「死と変容」、米田覚士はチャイフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」を選んだ。
 もちろん本人が選んだものではあるが、この選曲自体がその時の自身の本選において効果的であったかも要素の一つになる。(演奏順の運もあるかもしれない)。結果は、優勝は最年少ではあるものすぐれた指揮の技術と情熱をもって音楽に立ち向かっていた J. ソアーレスが輝いた。
 2位には既に優秀なチェリストでもあり指揮経験少ない S.ラシッドが持っている音楽の深さを武器に食い込んだ。3位は音楽をすること、意思をオーケストラに伝えることに秀でた B.ペイジェント、斎藤秀雄賞も合わせて受賞。
 入選・奨励賞には米田覚士。また聴衆の投票による聴衆賞は J. ソアーレス、本選のオーケストラのメンバーの投票によるオーケストラ賞は B.ペイジェントが受賞した。


 オーケストラにとってコンクールの伴奏をするのは時間も長く、同じ曲を繰り返すことも多く大変厳しい仕事だが、受験者の皆さんの将来がかかっていること、新しい才能が見出される最前線にいるという期待感を胸に、熱い演奏を届けてくれた。第1次、第2次予選は東京フィル、本選は新日本フィルが担当。
 コロナ禍という困難な状況の中、コンクール事務局ほか関係者の皆さんの「何とか成功させよう」という熱い思い無くしては今回のコンクールの成功はなかった。

日本オーケストラ連盟 専務理事 桑原 浩