ジョブ型雇用はやわかり(4~6章)

目次
第1章ジョブ型雇用とは何か
第2章ジョブ型雇用の基本形
第3章経営戦略とのかかわり
第4章導入にあたってのポイント
第5章ジョブ型雇用がもたらすもの
第6章競争力強化のためになすべきこと

第4章

人事制度改革や、組織機構の改革の実現によって、有利・不利になる人を生み、少なくとも1~2割程度の人が影響を受けます。ジョブ型雇用の場合、特に中堅層以上の職員は、これまでのキャリア観そのものを否定されたように感じてしまうという心理的抵抗が増えます。しかし、一番の抵抗勢力は「プロパー経営幹部、役員層」である会社が少なくありません。メンバーシップ型雇用における圧倒的勝者であるためです。

導入成功のカギになるのは「全面的なジョブ型雇用への移行」「段階的ステップを踏むこと」です。エコシステムそのものが異なる雇用形態なので、部分的な導入は期待された効果を得られません。難易度は高いものの、全面的に移行することで退路を断ち、全社にメッセージを広く浸透させることができます。ここで注意しなくてはならないことは、移行により会社に対するロイヤリティ低下が起きないようにすること。市場価値と比してフェアかつ配慮のある処遇や配置を行っていく必要はあります。

もちろん、一足飛びでの移行は難しいため、段階的ステップを踏むことも有効です。その際の重要なポイントは3点。

・自社が置かれた人材市場の状況
・自社のジョブ型へのレディネス
・今後の構造変化・市場の変化に対する見通し

人材市場の状況とは、業界や職種においてどの程度人材の流動性があるかということで、外部人材の起用が多い業界や職種においてジョブ型雇用への移行はメリットが大きいですが、寡占的なインフラ企業等では相対してメリットは少なくなります。

自社のレディネスでは、特に人員別年齢構成やキャリアパターン、報酬制度などを考慮します。いかに変化に直面する職員にとってのインパクトが少なく済むか、という点も導入の際にカギになります。

最後に、現時点でジョブ型雇用の導入の必要性が低い業界・企業も、今後の構造変化を予測して、将来の競争力の確保は視野に入れる必要があります。

また、段階的ステップで注目する具体的な観点としては下記のような制度があげられます。

・役割、貢献に応じた処遇の変化
・公募制の拡充、強化
・報酬設定の柔軟性の強化
・年金、福利厚生の見直し

どうしても移行へのハードルが高い場合は、「戦略子会社の設立」「複数の職掌やコースを設置する」という手段もあります。既存社員への影響を考えなくて済むので、大胆な報酬決定や実験的な取り組みが行いやすく、プロフェッショナル人材を採りやすいというメリットがあります。

また、人事部の権限を事業部門へ渡すことも重要です。そのためには、ラインマネージャーの能力開発や、コンフィデンシャルな情報を安全・効率的に扱うことができるITインフラも必要不可欠です。

第5章

この章では、経営者、管理職・人事部、個人、政府それぞれにジョブ型雇用がもたらす影響を見ていきます。

経営者は、100%雇用保障をしなくてはならないという制約から解放される一方で、会社の方向性を明確に示すことで価値観が多様な社員の力を結集し、事業を成長させ、社員がチャレンジ・成長できる機会を提供し続けることが求められます。

管理職は、これまでのモチベーション低下を防ぐようなコミュニケーションから、要員計画の立案、人材調達の主体となり、評価制度をマネジメントに結び付けることが求められます。

人事部門は、会社と個人の両方の双方にとって対等な取引関係が機能するよう、様々な仕組みやプロセスを企画。設計、現場の運用力を高めていくとともに、事業成長を支える優秀層に「選ばれる会社」になるために会社のブランドや魅力を高めることへと変化します。

個人にとっては、メンバーシップ型雇用のメリットである雇用保障は失われますが、キャリア形成の自由度が増すことになります。雇用リスクが懸念とされることが多いですが、退職勧奨の人数は100人の組織において年間0~2人ほど。むしろ、お互いが選ぶ立場になることで、企業側は非合理的な雇用調整を容易には行えません。

政府も、近年では事業環境や雇用環境を変えていく必要性を認識しています。現在整理解雇をする上での厳しい制約も四要件も、法律に明文の規定があるわけではなく、裁判所が日本の企業における雇用調整の実態を踏まえ、解釈したうえでのものであるため、ジョブ型雇用が主流になることで、変化する可能性は多分にあります。そこで政府として考えるべきは、労働市場のセーフティーネットの整備と、不当解雇の金銭的解決です。最後に、ジョブ型雇用が主流になると、スキルのない若者が困難に直面することが予想されます。これまでは、地頭のよさや素直さ、企業へのフィット感を重視されていたものの、職種へのスキルが求められるようになるためです。教育現場と社会の円滑な接続、教育と雇用の一体的な改革が必要になります。

第6章

最終章では、ジョブ型雇用によって日本経済や雇用・キャリア観にどのような影響を与えるかを語っています。

まず欠かせないのが「日本企業のグローバル競争力の復権」です。グローバル市場にて、日本企業は就業不人気となっています。メンバーシップ型雇用であることから、「キャリア機会が限定され」「マネージャー以降の報酬水準が頭打ちになりやすい」ためです。そのことから、アジア進出している日本企業では、教育が手厚く報酬も悪くない若手時代に日本企業で働き、その後欧米企業へ転職しキャリアアップを目指す傾向ができてしまいました。さらに、日本人マネージャーのリテンションや退職勧奨への対応スキルが低かったこともこの流れを止められない一因でした。これらの課題は、ジョブ型雇用への移行により解消が見込めます。

また、人材の流動性を阻んでいた雇用慣行が変わることで、個人にとってもキャリアアップの幅が広がります。政府も、人口の減少に危機感をもち、多様な働き手の参画を促す策として、兼業・副業の環境整備、フリーランスの環境整備、社会人の創造性育成等、人材流動性を高める政策を打ち出し、ジョブ型雇用への移行を後押ししています。

また、長期雇用前提、転職がしにくい環境を生むメンバーシップ型雇用は「ブラック企業」とも親和性が高いという欠点があります。ジョブ型雇用下では、労働時間や環境と報酬が見合わないと、労働者は転職してしまうためブラックになりようがない一方、日本企業では「耐える」を選択せざるを得ない状況にあるためです。ジョブ型雇用への移行を踏まえると、経営者はますます「いつでも転職できるが転職しない企業」を目指していく必要があります。このために、パーパス経営がカギになってくるでしょう。

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