見出し画像

『月が綺麗ですね』の原液【#テレ東ドラマシナリオ】

さてさて。
大麦さんのテーマが選ばれてるこちら。

私もふるって参加してみよう。

ということで書いてみた。でもいきなりシナリオになんて出来ないから、とりあえず小説の形で。ここから先の作業は未知数だから断言は出来ないけれど、シナリオの形にするつもりです。


【ドラマのテーマ】

○結婚記念日を迎えた夫婦

結婚30周年を向かえる夫婦。息子も娘も二人とも結婚して家から出て行き、夫である私は去年大病もした。今年は定年も迎える。そして結婚30周年の記念日である今日、妻に改めて「感謝」と「好き」だという気持ちを伝えたい。


【中身】

結婚してから30年という長い年月があった。

にもかかわらず、これまではほとんど「好きだ」と伝えることはなかった。いや機会はあった。あったけれど、あえて言葉に出すことなく、ずるずるとこの年齢になってしまったのだ。新婚の当初からそんな感じなので、子供が出来てからは余計距離が開いてしまい、そんなことは頭をよぎることもなくなった。

大きなきっかけは去年、大病をしたことだろう。
胃がんだった。しかし定期健診で早期に見つかったこともあって、2週間ほど入院して無事に退院できた。その後の経過も順調だが、ガンの宣告を受けたときなどは、自分の最後を強く意識した。

そして仕事があり、子供が居て、側で支えてくれる妻がいることに、途方も無いありがたさを感じたのだ。私の定年も間近。仕事がなくなるわけではないだろうけれど、給料は大きく減るだろう。
そんな将来の不安が、今の状況を支えてくれる妻に気持ちを伝えたいという強い動機になった。

せっかく迎える30年目の記念日。妻に感謝と共に、「今も好きである」ということを伝えたい。そう決めて私は動き出した。

まずは普段はなかなかいかないような、ちょっといいレストランの予約をした。そこまでは難しくない。しかし一番の難関は他ならぬ自分自身だ。
肝心なところで恥ずかしがってしまっては元の木阿弥。そうだ、恥ずかしがって逃げてしまわないように手紙を書こう。そうすれば、あとは当日いいタイミングでこれを読むだけだ。最悪読めなくとも渡すことができれば、気持ちは伝わるはずだ。よし、そうしよう。

なれない手紙には悪戦苦闘を繰り替えし、書く内容も悩んだし、書き出してからも、やれ漢字がわからないとか、やれ字を間違えたとか、長い道のりだった。結果、何度も書き直したが前日には形になって、しゃれた封筒にいれ、ジャケットの胸ポケットに忍ばせた。明日はよろしく頼むぞ、そんな気持ちでジャケットをぽんぽんと二、三度軽く叩いた。

レストランを予約したその日。
記念日を祝おうなどという、提案をした時点で妻は驚いていた。何か悪い知らせでもあるのかしら? なんて、皮肉っぽいことを言ってはいたけれど、喜んではくれているようで、楽しそうに洋服を選んでいた。

だが、運命のいたずらは唐突に訪れる。

いざディナーを楽しみ、これから手紙を読もうと、懐から手紙を取り出したその瞬間。世界から「好き」という言葉がなくなったのだ。開いた手紙には、つらつらとくだらないことが綴ってあるものの、肝心な「好き」という部分だけ、すっぽりと抜け落ちている。これでは意味がない。感謝の気持ちだって伝えたいのは確かだが、それだけでは手紙は完成しないのだ。そんな不完全なものでは何も伝えれないに等しい。

私は、妻に「好き」というただ二文字を伝えられないまま死んでいくしかないのか。

これまでの人生を否定されたような気がして、めまいがしてきた。神様はなぜこんなタイミングで世の中にいたずらをするのか。いや、むしろこれが私に課せられた罰なのか……


絶望の思いに駆られた瞬間。妻は手を差し出し、私の手を握り締めた。

「大丈夫です、言えなくても全部わかってるから。ここ最近、ずっとそわそわしていて、夜中に頑張って何か書いてたのも知ってます。熟年離婚は流行ってますけど、さすがにこれは別れ話じゃないだろうって。三十年も連れ添えばそのくらいはわかります」

妻は続ける。

「子供はとりあえず無事に巣立ったけれど、これから私だって病気をするかもしれないし、年金だってあてにならない時代ですから。どうなるかはわからないけれど、一緒に頑張っていきましょう」

そういって妻は微笑んだ。私はこらえていたものが一気に吹き出たようで、涙が流れ出すのが止められなかった。こんなふうに泣くなんて一体いつぶりだろうか。妻の手を強く握り返し、その手にすがるように泣き崩れ、それ以上何も言うことができなかった。

「……というよりもね」

妻は楽しそうに笑っている。

「失敗作がごみ箱にたまっていたから、勝手に読んじゃいました。一体、誰が片付けていると思っているんですか。でもちゃんとあなたから聞けなかったことはちょっと残念です。悔しいので言葉の代わりにいいお財布でも買ってください。何せ私は三十年待ったんですから」



#テレ東ドラマシナリオ #小説 #100文字ドラマ  #夫婦

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)