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天然カビのかつお節について

近年、家庭でお味噌づくりやお醤油づくり、甘酒づくりをされる方が増えています。その中でも、もう一歩進んで自宅で製麹(せいぎく:麹を作ること)される方も出てきており、醸造や発酵というものに興味関心を持たれる方が以前と比べて格段に増えたと感じています。
菌をつけている物で、結構最近多く見かけるのが『天然菌』を使って醸すという風潮です。パンでは、昔からレーズンなどで興す「天然酵母パン」があったため、その延長として天然の菌に興味を持たれているのだろうなと推測します。

うちにも以前からたまに、『天然の菌で作った枯節が欲しい』というお問い合わせが来ています。
これに対しまして、うちでは現在は対応しておらず、対応できない理由を説明してお断りしています。

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天然菌をつけるということは、「自然にカビがのるのを待つ」ということですが、「自然にカビがのるのを待つ」ということは、「安定して作ることが難しい」という事でもあります。
温度湿度を一定にしていたら毎回同じタイミングで同じカビが来るかというと、必ずしもそうではありませんし、カビが生えやすい環境というのは、視点を変えると「虫」も寄ってきやすいのです。
生産者の宮下さん曰く「カビが来るのが早いか、虫が来るのが早いか、競争なんだよね。」とのこと。
虫が湧いたり、別のカビが来て場合によっては傷んでしまったり…
天然カビでやろうとすると、ロスも非常に多くなります。

宮下さんに以前聞いた話では、「天然カビでやろうとすると、とても時間がかかるし、できるタイミングもわからないし、何より作れる時期も限られる。全体で大体30%くらいがダメになっていた。」と、聞きます。
生産量も安定せず、時期も安定しない。
そうなるとそれは「価格」に直に、反映されます。

またもう一つ大きな問題があり、天然カビということは、どのようなカビが生えているのかわからず、カビ毒の可能性があるということです。
食の基本は何をおいても「安全性」が第一に来ます。
そのため、「安全」で「安定」した物を届けようとすると、培養カビを使うのが適切となります。
天然カビが悪いわけではありませんし、天然だからこそ自然の織り成す妙から生まれる、「最高の香りと絶品の味わい」があった、という事実もあります。
これは、恐らく生えた菌のバランスなのでしょう。培養カビでは、なかなか成しえない事です。

天然、培養、それぞれの長所短所がありますが、食を提供するものとしての基本、「安全」と「安定」を考えると、現代に於いては、天然カビを採用するのは難しいのが実情です。

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また、極稀に、ではありますが、『天然カビのかつお節』として販売しているところもありますが…
「培養カビをつけたかつお節」が既に入っているカビ室に、カビを付けていないかつお節を一緒に入れて、それでカビが生えたら『天然カビのかつお節』として扱っていいのか…個人的にはやや疑問が浮かびます。

まとめになりますが…
天然カビをやっていない理由は、安全性と安定性、そして価格面によるものが、これまでの大きな理由です。
そして、近年の理由として、追加されたものがもう一つあります。
先にも上げましたが、天然カビでやろうとすると「約30%がダメになっていた」とありました。
それはつまり、それだけ多くの魚を無駄にしている、という事でもあります。
水産資源の枯渇が問題となっている現代に於いて、魚を無駄にすることはできないと考えます。
水産資源の枯渇と書きましたが、元はカツオという魚の命です。いただいた命を極力無駄にしないためにも、安定的な生産は重要だと思いますし、それを念頭から外しての生産は、してはいけないと考えています。

以上の理由から、弊社では天然カビを扱っておりません。
どうぞ、ご理解の程、よろしくお願いいたします。

文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。