企業の資産となる仕組みをデザインするー三井住友銀行さまとのデザインシステム設計・構築の取り組み
デザインを用いて本質的な課題解決を提案する株式会社アジケ(以下、アジケ)は、「企業の資産となる仕組みをつくること」をデザインの対象にしています。
今回は、中長期にわたりパートナーとして様々なプロジェクトに取り組んでいる株式会社三井住友銀行(以下、SMBC)と、「デザインシステム」の設計・構築を通して組織課題にアプローチした取り組みをご紹介いたします。
※今回のプロジェクトに携わったメンバーメインビジュアルの写真左から、UI/UXデザイナー・大塚敏章さん、金澤洋さん(SMBC)、プロジェクトマネージャー・神田淳生、UI/UXデザイナー・藤戸日果里(アジケ) (※SMBC UI/UXデザイナーの堀祐子さんはリモートで参加)
※撮影中のみマスクを外しています。
※デザインシステムの設計の裏側については、SMBCさんのnoteでもご紹介されています。
「SMBCデザインシステム」のサイト
デザイン品質の向上と、一貫した顧客体験のために「デザインシステム」が必要だった
アジケ神田:SMBCさんではどのような組織課題を解決するために、デザインシステムを必要とされたのでしょうか。
SMBC大塚さん:SMBCは、「最も選ばれる金融グループ」を目指してさまざまな取り組みを行っています。その中で、私たちインハウスデザインチームのミッションは、デザインの品質を全体的に底上げしてお客さまから選ばれるようにすること、またどのサービスを受けても一貫性のある顧客体験を提供することだと考えています。
しかしこれまでは、サービスやプラットフォームごとに複数のデザインガイドラインや制作ルールが存在しており、デザインの品質にばらつきが生じていました。またそれらをキャッチアップするだけでも、かなりの作業工数がかかっていたんです。
これらの課題を解決する手段として、チームの中でデザインシステムをつくることを検討しはじめました。
アジケ神田:今回のプロジェクトを開始するにあたり、アジケも含め外部パートナーに声をかけた理由を教えてください。
SMBC金澤さん:はじめはチームでやることを想定して整理していったのですが、デザインシステムを作るとなるとかなり大規模なプロジェクトになるため、自分たちだけでは知見も、リソースも足りないという結論に至りました。
SMBC堀さん:プロジェクトマネジメントを着実にしていかないと、とてもゴールにはたどり着けないと感じていました。そこで、多くのプロジェクトをご一緒しているアジケさんにお声がけしたんです。
UI/UXに関する知見やノウハウをお持ちなのはもちろんのこと、全体のリードの部分、プロジェクトの仕切り役として適任だと思いました。
デザインチームとして実績を積み重ねたことが、デザインシステムへの投資につながった
アジケ神田:デザインシステムへの投資はそもそも、社内にデザインに対する深い理解がないと意思決定することが難しいものです。実は、ご相談をいただいた当初、状況によってはプロジェクト自体が途中で頓挫してしまうこともあり得る、と覚悟していたんです。しかし、それはすべて杞憂に終わりましたね。
SMBC金澤さん:そうですね。デザインチームが主導してプロジェクトを進めることになったわけですが、私たちの活動が、社内で少しずつ実を結びはじめていたタイミングだったことも大きかったと思います。
明確に潮目が変わったのは、2019年にリニューアルした「三井住友銀行アプリ」が、グッドデザイン賞を受賞してからでしょうか。外部からの評価が、社内での信頼獲得を後押ししてくれました。
SMBC大塚さん:今、銀行にとって早急に取り組むべき課題の一つがDXです。私たちはそれを推進するキーとなる一つの要素が、デザインであると考えています。そのためデザインの品質向上が重要なテーマであることを理解してもらえるよう、行内ではたらきかけていきました。
関係者が多岐にわたるので、社内で詳しい説明が必要とされる場面は何度もありましたが、基本的に、デザインシステムによってチームの生産性が高まること、統一された体験をお客さまに提供できるようになること——シンプルにこの2点について繰り返し説明していましたね。
アジケ神田:結果的にプロジェクトを着実に進めることができたので、SMBCさん内において、デザインに対して大きな期待が寄せられていることを実感しました。
「インハウスと同じ視点で進めてほしい」フラットなチームが叶えたこと
アジケ神田:今回のプロジェクトでは、外部から参加した私がプロジェクトマネージャーの役割を担いました。役割分担については、どのようなお考えがありましたか?
SMBC堀さん:以前ご一緒したときに、進め方などについてアジケさんからさまざまな提案をいただいて、プロジェクトを効率的に行うことができました。その経験があって、今回は神田さんにプロジェクトマネージャーをお願いしました。神田さんはやりにくかったかもしれませんが(笑)。
アジケ神田:どこまで踏み込んでいいのか、最初は手探りでした。ただ大塚さんから、「インハウスのメンバーと同じ視点で動いてほしい」とご要望をいただいて。
一般的なクライアント(発注者)とプロダクション(受注者)の関係性ではなく、フラットな視点から、あくまでも一つのプロジェクトチームとして見ることを常に意識していました。
SMBC大塚さん:本プロジェクトはインハウスデザインチームの業務そのもの、ひいてはSMBCが展開する事業の根幹に関わるものだったので、外部パートナーさんから完成された提案を受け、それを私たちがジャッジする方法はとりたくなかったんです。
パートナーさんたちにもプロジェクトの中核を担ってもらい、私たちと一緒に考え、一緒に手を動かしながらブラッシュアップを重ねていく。そんなチームのあり方を望んでいました。
オンラインミーティングではfigmaを共有しながら活発な議論が行われた
アジケ藤戸:おっしゃる通り、発注者・受注者という意識が強すぎると、受注者である側は、どうしても受け身になってしまうんですよね。今回のプロジェクトではそうした関係性を超え、全員でディスカッションを重ねながら、純粋にデザイナーとしてクオリティを追求することができたように思います。
SMBC金澤さん:プロジェクトメンバー全員がデザイナーだったこともあって、例えばボタンのシャドウの付け方などの細かい部分まで、視覚的な情報設計の仕方について徹底的に議論できたのがよかったですね。
SMBC堀さん:本当にそう思います。会社を超えてデザイナー同士コラボレーションすることができ、お互いのこだわりを存分に発揮してデザインをつくりあげることができたので、個人的にはとても達成感がありました。
最初から「完成形」を目指さない。運用をはじめてデザインを改善するサイクルが生まれた
アジケ神田:プロジェクト全体を振り返ってみると、おおむね予定通りに進めることができました。今回の進め方で、成功につながった要因を洗い出してみたいのですが、いかがでしょうか?
SMBC大塚さん:最終的なゴールだけではなく、ある程度の期間を区切り、成果物となるアウトプットを段階的に出していけたのは良かったと思います。ある意味、完全な“完成形”を最初から目指さなかった、というか。
アジケ藤戸:それはありましたね。もちろん、その段階におけるベストな解をみんなで導き出すのですが、アウトプットを重ねて改めて振り返ってみると、「もうちょっとこの部分の改善が必要かもしれない」というブラッシュアップの余地が生まれてくる。そのプロセスを前提にデザインを作り上げていましたね。
SMBC大塚さん:まさにそれが、今回つくったデザインシステムの最も重要なコンセプトでもありました。
アジケ神田:無事にデザインシステムのサイトが一旦完成し、近日中に行内にリリース予定ですが、インハウスデザインチームのみなさんは、どのような手応えを感じていますか?
SMBC大塚さん:これまでのデザインガイドラインなどとは異なり、今回つくったデザインシステムサイトは、全行員がいつでも閲覧することができます。デザインに関するノウハウや知識、判断基準などがすべて凝縮して掲載されているので、これまでデザインチームのメンバーが丁寧に資料を揃えて説明していた時間が削減できるようになりましたね。
SMBC金澤さん:これからはその分、お客さまと徹底的に向き合いながらデザインすることに、自分の力や時間を使っていきたいですね。
アジケ藤戸:実際、デザインシステムの存在が行内に周知されてから、私たちが携わっている他のデザインプロジェクトも、デザインシステムをもとにデザインについて議論され、よりスムーズに進むようになったと感じています。
SMBC大塚さん:アクセシビリティへの対応など、細かな課題はまだまだ残っていますが、「デザインシステム」という仕組みができたことによって、デザイン品質をブラッシュアップしていけるサイクルが生まれはじめたと思っています。
神田:このデザインシステムを、行内のみなさんに積極活用していただくのが次段階の課題になりそうですね。
「仕組みのデザイン」による課題解決を——座談会を終えて
今回、私たちがSMBCインハウスデザインチームのみなさんとご一緒したデザインシステム設計・構築プロジェクトは、まさに、「仕組みのデザイン」によって組織課題や事業課題を解決に導く取り組みの一環だといえます。
アジケでは事業パートナーとしてプロジェクトに参画し、みなさまと共に「仕組みのデザイン」による課題解決を目指します。
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