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検温センサー

県立博物館で妖怪、幽霊、怪異のテーマの展示をしている。同じ期間、会津若松市内では「怪異」をテーマにした集客イベントがあり、これをここに書いても問題はないと判断する。


私は、まあご存知の通り、そういうものが好きなので、8/18の日曜日に行ってきた。今回の展示は、図録は秀逸で、展示物全てがカラーで収録されている。紹介された興味深い民話もすべて載っていたのはうれしかった。

その中で、福島県では「幽霊掛け軸の寺」として有名なK寺の幽霊掛け軸の選りすぐりを展示していた。

昔、江戸時代には、幽霊画の流行があった。幽霊の掛け軸を床の間に飾ると、「今風ですね」「かっこいいですね」「最先端ですね」「おしゃれですね」と評価される時代があって、その時代にたくさんの幽霊掛け軸が作られた。祖先は、かっこいいポスターを壁に貼る感覚で、幽霊画を購入しただけなのである。

しかし、時代が下がると、そういう流行も忘れ去られる。
100年も200年も経ったある日、子孫が蔵の片付けをして幽霊画を見つけたらどう思うだろう?
過去にそんな気軽に幽霊画を楽しんだ時代があったとは知る由もない。
ただただ不気味で不吉なものと、その子孫はその処分に困る。

ただ、捨てても祟りがありそう。

K寺はもともと有名な幽霊掛け軸が数本あったのかもしれない。そこに、「うちの掛け軸もおいてください」という人がいたとしても不思議はない。そんな感じで、K寺に、おびただしい数の幽霊掛け軸が集まることとなり、さらに幽霊画で有名な寺になった(これはあくまでも私の憶測)

その中から、県立博物館には状態の良いものが展示されていた。「美しい幽霊」「怖い幽霊」「愉快な骸骨」とカテゴライズされて。

その中で「津軽の雪女」が美しかった。一度見てしまったあと、もう一度戻って、じっくりと見た。実に美しい。

その夕方。

8/18日曜日は本来なら會津蔵武は定休日だけれど、営業告知をしてしまったので営業することにした。すると火曜日に予約してくれてたAさんが来店した。
「今日、営業だったんですね。今日来ちゃいましたけど、また、火曜日にも来ますよ」
Aさんは、私が會津蔵武を始める前からの知り合いだった。某有名店のカウンターで、何度も一緒になるうちに顔見知りになった人だ。
私は彼に、例の図録を広げて、昼間に行った今日の県立博物館の展示の話をした。その「美しい幽霊」「怖い幽霊」というカテゴライズの話をした瞬間。

「体温は正常です」
感染防止のために、店の入口に設置してある検温センサーが、誰もいないのに反応した。

おや?
いやいや気のせい、気のせい。

気に留めずに、流れで怖い話談義をしていると
「体温は正常です」
検温センサーが誰もいないのに反応する。
「いるよ、ここにいるよ」という、さも意思を持っているようなタイミングで。

私とAさん、あとからやってきた別のお客さんたちと顔を見合わせ、一瞬、黙る。
「やだ、怖い」
「なんなんだろう・・・」
「しかも、体温は正常なんだ・・・」


あんまり、繰り返す声に疲れて、私は
「ここにいてもいいけど、うちの店の売上に貢献しないならここにいてはダメだよ」
と怒鳴ってやった。

結局、その日の営業が終わるまで、検温センサーは鳴り続けたが、翌日の定休日を挟んで、翌々日の営業日には、検温センサーは正常に戻っていた。

おそらく、あのおびただしい幽霊掛け軸の1枚に、いわゆる「いわくつき」があったのかもしれない。でも、どうやら、彼女(彼?)には、うちの店の売上に貢献する気はなかったようである。


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この「怖い話」は會津蔵武で起こった話です。
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