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セー◯ームーン人形

會津蔵武に来てくれた、年の頃は20代後半か30代前半の女性が話してくれた、小さい頃の人形にまつわる話です。

彼女の実家はマンションの5階。
小学校に上る前まではセー◯ームーンが好きで、セー◯ームーン人形を持っていた。誰もが想像するリカちゃん人形タイプの、ソフビでできた腕も脚も首も動く着せ替えができる、さらさらとした長い金髪の人形だ。
とにかく小さい頃は一番のお気に入りで、保育園に行くにも他所の家に遊びに行くにも、いつも持ち歩いていた人形。小さい頃の自分を撮った写真にはいつも一緒に写っていた、すごく大好きな人形だった。

遊んでて、夕食の時間になり「ご飯できたから遊びやめて、こっちにいらっしゃい」と言われれば、人形を立て掛けて「ちょっと待っててね」と声をかけて、その場を離れる。そして、戻ってくると表情が変わっている。にっこり笑っているはずの口角が下がっている。でも、遊んでいるとにっこりしている。その時々で、表情が変わるということに、幼いながら気づいてはいたけれど、それをその時は怖いと思ったことがなかった。

そのうち小学生になり、成長し、次に、その人形では遊ばなくなった。

小学校5年生ぐらいのときに初めて友達を家に呼んだ。
その子は自称霊感ある子で、棚に何体もある他のおもちゃの奥にあった、その人形に気がついて「何これ」と手に取る。人形の顔は知らない人が見てもわかるくらい口角が下がって、怒っているような表情になっている。

人形の顔には、彼女が成長の過程で、女の子なら誰もがするイタズラ。つまり、マジックなどで描いたアイメイクが付け足してあって、友達は「それが汚されたみたいに感じているのかもしれないね」みたいなことを言う。
自分は(最近、全然その人形で遊ばないから放置されたみたいに思ったのかな?)と思った。いずれにしても、久しぶりに見たその人形が「怖いな」と思った。
その自称霊感がある子は「処分するのだったら自分の手で捨てな」と言った。彼女は(なるほど、そうだな)と思った。

翌日、学校に行ってから人形を捨てようと思ったのだけど、帰宅してみると人形がない。
その場にいた弟に「ここにあった人形、どこいっちゃったの?」と聞いたら、「怖いから捨てた」という。
「えええええ!!!」
友達は「自分の手で捨てな」って言ってたから、自分で捨てようと気負って帰ってきたのに、肩透かしをもらったような気持ちになる。
「どこに捨てたの?家の中のゴミ箱に入れたの?」
と聞いたら、
「ビニール袋に二重に入れて、1階のゴミ捨て場の、一番奥のリサイクルのコーナーのところにおいてきた」と、弟はいう。
ゴミ捨て場は、マンションの1階の入り口から少し回り込んだところにある。それは、倉庫のような、わりと堅固な小屋で、重い鉄扉があり、そこを開けて奥に捨ててきたのなら、まあいいかと思った。

その日も、別の友だちが初めて来ると言う日だった。
「◯◯マンションのエレベーターで5階まで来て、エレベーターの扉が開いたら目の前だよ」と、自分たち家族が住む部屋の行き方を説明して、そのとおりに友達は5階に上がってきた。
でも、友だちは、彼女が出迎えるためにドアを開けるまでの間に、5階から非常階段の方に行ったようだった。
「非常階段の上から下を見下ろしたら、踊り場に人形が落ちてたよ」
「え?!どういう人形?」ときいたら、特徴がもうセー◯ームーン。絶句する。

弟に「人形を非常階段の上から投げ捨ててないよね?ちゃんと捨てたんだよね?」と聞くと、彼はちゃんと捨てたと言い張った。とりあえず、弟が言うことを受け入れて、その日は友達と遊び、その後、子供の帰宅を促す5時のチャイムが流れてきたので、友達は帰宅した。

友達が帰って、気になるのは、友達が踊り場に落ちているのを見たという、特徴がセー◯ームーンという人形。その人形を確かめないといけないと思った。しかし、夜になると怖いので、暗くなる前に、踊り場に人形を拾いに行こうと思った。

上から見える非常階段の踊り場は3階にある。上から覗くと、人形は彼女を見上げるように仰向けでこっちを見ている。

まさに、あのセー◯ームーン人形。

1階のゴミ捨て場の奥の奥に、ビニール袋を二重にして捨てた人形がなぜ、非常階段の3階に、仰向けで上を見上げるように寝ていたのか?

怖くて、怖くて、仕方がなかったが、放置もできなかったので、夜になる前に取りに行ったという。

「で、どうしました?その人形?」
これをきいたのは會津蔵武の店主のワタシです。
「ごめんなさい、ごめんなさいって言いながら、お風呂でシャンプー・リンス・コンディショナーをしました」

その後、自分の部屋に連れ帰るのは怖いので、玄関の棚の上にあげておいたら、帰宅した母親がぎょっとした感じで
「なんで人形、ここにおいてあるの?」
と言った。
「だって、怖かったから」
彼女は、その日、この人形に関して、どんなことがあったのか母親に話をした。

後日、玄関に人形がいなくなっていたので、母親に人形のことを聞くと、母親の友人に見える系の人がいて、念の為、玄関にあった人形をその人に見せたところ、「何も憑いてはいない」と。だから普通に捨てたとのこと。

もしかしたら、お風呂で「ごめん」と言いながらシャンプー・リンス・コンディショナーをしたおかげで、成仏してくれたのかもしれないけれど。

しかし、さらに成長して大人になってから、その人形の思い出話を家族で話すことがあって、小学5年生のあの日の別の話を聞くことができた。
実は母親も、常々その人形を怖いと思っていて、ついに怖さの臨界点に達し、あの日、「ビニール袋を二重に縛ってゴミ置き場の奥の奥に捨ててきて」と、弟に指示して、人形を捨てさせた。
自分の知らないところで、そんなことがあったと、大人になってから知らされた。

人形の中には、何が入っているのだろうか?
この日、この話のあとも會津蔵武では、「人形の中に何が入っていたのか」の話題で、大いに盛り上がったのだけど、入っている可能性のあるものは、この日の話題に出たもの「だけではない」と思うので、あえてここには載せないでおく。


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