IT講座の夜

私の前職の同僚Aさんからきいた、やはり同僚のBさんが経験した話です。
私自身は、前職でAさんとは仕事上の頻繁なやり取りがあり、飲みに行ったりする仲でしたが、Bさんとはあまり関わりがなく、あまり話をしたことはありませんでした。
AさんとBさんは仕事の発注者と受注者の関係です。彼女らは、キャリアアップ関連の講座を運営する団体に勤めており、職業訓練に関わるセミナーを運営していました。Aさんが企画者で会場を手配し、Bさんはその会場でインストラクターの一人として活動するというスタイルです。
会場は、会津地方のあちこちにあり、その多くは昼間のセミナーです。
何人もインストラクターを登録している団体でしたが、夜の講座を引き受けてくれる人はなかなかいませんでした。Bさんは、夜のセミナーを引き受けてくれる、数少ないインスタラクターの一人でした。

その日の夜は、会津若松市の近隣の町でのITセミナーでした。会場は役場の第2庁舎。元銀行だったところを買い上げて庁舎にしたようなところです。セミナーはその2階の会議室を借りて定期的に行っていました。その夜、AさんはBさんのセミナーに初めて同行しました。

Aさんは、すぐにBさんの様子がおかしいことに気が付きました。講演中に喉を潤す水がなくなっても、休憩時に1Fの給湯室には行かず、同じ階のトイレの水道から水を汲んできて、セミナー中の水分補給をしていたのを不思議に思いました。Bさんはお嬢様タイプの上品な女性で、トイレの水を汲んで飲むような人ではなかったから。
「どうしたんですか?」
「ほんとここでセミナーやるのすごく嫌」
その時は、それだけ言って詳しくは説明してくれませんでした。

セミナーが終わると、2人はBさんの車に乗り込んでB町をあとにしました。その道すがらBさんは話します。

実は、自分はいわゆる見える人であるということ。でも、そんなこと、誰にも言えなくて、何かあるたびにどうにか自分で対処していたということ。
あの第2庁舎はその町では比較的大きな交差点の角に建っていて、その交差点は交通量も多い。
Bさんは更に言います。
「建物の前で交通事故で死んでしまった男性がいて、その人が1Fでウロウロしてる。それが私が近くにいると寄ってきてしまう」
一度は、車の中にまで入ってきたので、常に常備している般若心経のCDをかけて撃退したという。
「なんとか、それでどうにかできたからよかったけど」

私も、もちろんAさんも、Bさんが見える人というのは聞いたことがありませんでした。彼女は、そんなこと誰にも相談できず、幽霊を見かけてもスルーしてきました。スルーでどうにかなったし、車社会の会津盆地にいる限り、家に連れ帰らなければ良いわけで、車に入れない工夫を自分で編み出して、今まで来たのです。

しかし、今まで幽霊をスルーしてきた彼女が、スルーできないほど恐ろしい形状のお方が、その場所にはいたということです。

Aさんが、その職場を退職してそろそろ10年になります。今でもその場所に、交通事故死した彼がいるのかはわかりません。。。

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この話は友人から聞いた話です。話してくれた友人からは、掲載や怪談としての発表の許可をいただいています。
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