火の玉を見た話


30年ほど前のお盆の話。
私と母が一緒に体験した話です。
「今日はお中日だ」と話をしていたので、8月15日だったのだと思います。

夕方、母と二人で買い物からの帰り道。
大きな通りから近所の小道に入ると、一区画を占領して大きなお屋敷がありました。古くから両替商をしていたお屋敷ということは聞いていましたが、特に付き合いもないし興味もないので、詳しくは知りません。当時、その屋敷の当主は病を得て数ヶ月入院しており、50過ぎの、人形のように美しい奥様が一人で暮らしていたはずです。

小道はそのお屋敷の敷地に沿って大きなクランク状に続いています。その道に入ったときに、なぜか?ふと上の方を見上げました。見上げなければ、それには気が付かなかったはずです。

それは、バスケットボールより一回り大きかったと記憶しています。丸い青いガスの焔が、ぷかりぷかりと浮かんでいました。ボワワンと浮かぶ青い焔の中にポツポツと赤い光が含まれています。例えるなら、ガスコンロを点火すると、金属の五徳の一部が熱せられてオレンジに光る感じです。

あれは、人魂・・・なのかな?

「あれ見て」
「ああ・・・」
母はああとしか言いませんでした。

怖い?
というよりは珍しい現象を見たという感覚でした。
それは、小道を進んでいくと、区画の形に沿って、私たちについてきました。それはまるで
「誰か私を見上げてる。あれは誰だろう?」
ぐらいの感じで・・・
その焔の玉は屋敷の敷地に沿って、私たちについてきて、私たちが屋敷から離れると、スッと元の位置に戻りました。

家に戻ってから、あれは何だったのだろうと思い、2階の自分の部屋の窓からそっと屋敷の方向を覗くと、なんと!それは同じ位置にまだ浮かんでいました。ずっと、静かに・・・

その時、初めて怖いと思いました。
私の窓の高さは火の玉の同じ高さ・・・。
覗いていたら向こうもこちらに気づくかもしれない。

私はそっと窓を閉め、その日は覗くのをやめました。

実は私が「人魂を見た!」と思ったのは、それが初めてではありません。
高校時代の部活の合宿。体育館の高い窓から不自然な光の玉を目撃したことがあります。でも、その時の状況はまるで違います。あのときは、仲のいい仲間と最初から高テンションで、怪異を探していました。

すべてがアトラクション。ワクワクしながら幽霊を待っていた。怖がる友人を面白がった。だから、車のヘッドライトが映した光の帯でもなんでも怪異にしたかった。だから、あれは・・・実は人魂ではなかったかもしれないです。

そして、お盆のお中日の青いガスの玉を見たときの気持ちは、それとは全く違う、静かな心持ちでした。

翌日の朝、火の玉はもうありませんでした。そして、夜になってもなにもない、いつもの夜空でした。

あの火の玉はなんだったのか?
あのお屋敷と関係があったのは、まあ、そうだと思いますけど、それはその家の事情ということなのでしょう・・・。私が関わる必要のないことです。

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ここでの「怖い話」はすべて怪談蒐集者ほしじろさんと、會津蔵武のカウンターで共有した話です。話してくれた友人、お客さんからは、掲載や怪談としての発表の許可をいただいています。
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