着物の女性

これは私自身の30年以上前の話。


私は八丈島のリゾートバイトから引きずったテンション(まあ、怪異がいろいろあって。これは別の話)で、大学の寮に戻ってきた。


大学はキリスト教系の芸術大学で、◯◯城址という山城の上にあり、その山腹に寮や修道院がある。その山を降りたところにバスプールがあり、多くの学生が使うので、その前の停留所も屋根がついて割と人数が座れるベンチが設置されていた。

戻ってきてからしばらくして、市内に用事があり、停留所でバスを待っていた。

天気は雨で、雨音を聞きながら本を読んでいた。
まもなく、バスが来た。立ち上がったその時、右の視界の端に白い着物を着た女性がいたような気がした。
しかし、乗り込んだバスにはその女性は乗ってこず、振り返っても誰もいなかった。

その女性は、キチンとした白っぽい留め袖で、顔周りは妙に印象が薄い。
よくある、長い黒髪を垂らした白い着物で・・・みたいな死者が着る浴衣のようなものではなくあくまでもキチンとした身なりで、印象の薄い顔周りではあったが、髪型は和装用に違和感なく整っていた気がした。
なので、その時は気にしなかった。

それからしばらくして、寮の中で幽霊騒ぎがあった。
その頃の私は、幽霊のようなものに興味がなく、むしろ怖がる先輩方の方が面白くて、停留所の女性の話を、面白おかしく脚色して、更に彼女らを怖がらせて溜飲を下げた。

それから、30年、その◯◯城址に白い着物の幽霊の噂が立っている。

まさか

まさか、それ

その噂の種は、30年前に、面白半分に話した私の体験なのではないか?

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ここでの「怖い話」はすべて怪談蒐集者ほしじろさんと、會津蔵武のカウンターで共有した話です。話してくれた友人、お客さんからは、掲載や怪談としての発表の許可をいただいています。
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