叔母から聞いた話

叔母は今年85になった。彼女は7年前に亡くなった私の父の妹だ。
まだ元気にしている。
うちは古い神道の家系で、今ではそんなことはないが、昔は神社の娘を嫁に入れたり、娘を巫女に出したりしていた。祖母(叔母の母)も近隣の神社の娘だ。そんな風なので、世代にひとりは、妙に感のいい子供が生まれる。
叔母はそういう人だ。

60年以上前、彼女は静岡の小都市に嫁に行き、夫婦でその町に土地を買い、新しい家を建てることになった。

その敷地の中に、傾き壊れた小さな石の社が、半分、土に埋まった状態で放置されていた。

叔母はかわいそうに思い、手を合わせて、「もう少し良い場所に、新しい社を建てますね」と心の中で思った。

しかし、新しい家を建ててしばらくは、若夫婦の稼ぎでは、庭の整備に手を入れることができず、そのまま数年が経ってしまった。

その家に入居してちょうど5年目のある晩、夢を見た。
古い時代の旅装束を着た翁(おきな)と媼(おおな)がふたりして道に立っている。背丈は叔母の膝くらい。笠をかぶり脚絆を巻き手甲を着け、それのどれもこれもが白かった。
「ああ、人じゃない」
彼女はそう思った。
その二人が「どうか!どうか早く」「どうか!どうか早く」と繰り返し言う。
その晩から、毎晩続けて同じ夢を見るようになった。

ある晩、同じ夢の二人の向こうに、庭先にある崩れた社が見えた。
「あああ」と叔母は腑に落ちる。あの二人は庭先の社の神様なのだ。

叔母は、叔父と話し合い、工面して庭を整え、新しい社を建てお祭りして小さな名もない神様たちを社に迎えた。その晩から夢は見なくなった。

「人が忘れても、神様は忘れないんだよね」
叔母が私に話してくれた話だ。

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