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SS×イラスト⑤ りんによる前編

その人はあたしのことを、どうやら嫌っているようだった。

初めてその事に気づいたのは、小学校のとき。
妹がテストで90点とか80点とった時と、あたしがとった時の様子の違い。
あたしは、もともとテストを簡単に感じていて、100点しかとったことなかったんだけど、ある日ちょっとしたミスで95点だったときのこと。

妹には、次は頑張れよ、くらいのノリだったのに、あたしは烈火のごとく怒られた。5点をうっかりミスする奴は、そのうち命に関わる重大なミスをするクズ人間だ。と、そう罵られた。

中学に上がる時、あたしは人間関係に悩んでいて、地元ではない中学を受験した。
普通に合格したし、親の金銭的な都合で私立ではなく国立大学付属の公立。

不要な交通費をかけて通うことに、並々ならぬ罪悪感を覚えつつの3年間。
妹も同じ中学を受験し合格。後輩になった。その時あの人はとても誇らしげに妹を褒めていた。

高校を選ぶ時、あたしの意思はそこに存在しなかった。
あの人は、自分の母校とそれ以上の偏差値の高校以外は学校ではないと言い切った。
あたしは、勉強がさほど苦痛ではなかったので、ある程度の努力であの人の母校に入学した。

そのころ、あたしは家に居場所を見いだせず、また学校のクラスにも部活にも馴染めず、心を壊した。
あの人は、お前の甘えた心が招いた贅沢病に払う金はない。と、あたしを責め続けた。あたしは自室から出られなくなった。

学校に通えなくなると、更にあの人はあたしを虐げた。

人間の出来損ない。
迷惑な存在。
早く居なくなればいい。
無駄飯喰らい。
犬ほどの可愛げもない。

あたしは、みるみる自分を見失った。
ご飯が喉を通らない。
本を読んでも別世界へ逃げられない。
音楽を聞いても心が動かない。
そして、ある日、あたしはあたしじゃなくなった。

その日の朝、目に見えるものが、全て輝いて見えた。
くすんでいたのは、あの人の顔面だけ。
いや、くすんでいるのではない。
真っ黒に塗りつぶされて見えた。
常に伺っていた顔色は、一切見えないから気にするだけ無駄になった。
音声すら、まるでテレビのモザイクのかかったヒトのように、高く低く歪んで聞こえるのだからきっと、あの人はあたしの認知できる範囲の存在ではなくなったのだろう。

あぁ、気にしなくていいって、なんて楽なんだろう。
適当に返事をすれば殴られたけれど、痛みは無い。
一緒に食卓につくと、何かをずーっと言われているけど、それはただの雑音に変わり傷つかない。

もっと早く、あたしを辞めればよかった。

舞台を創ること以外にも創作がしたい、これまで舞台で表現してきた物語や世界をもっと知っていただきたい、楽しんでいただきたい……そんな思いから始めたnoteです。 細々と更新しておりますが、少しでも楽しいをお届けできていれば幸いです。 もしよろしければ、サポートよろしくお願いします!