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ビー玉のおはなし

いつからうちにあるのかもわからない、たくさんのビー玉たちが、今日のお話の主役。ラムネのビー玉(ラムネを飲まない私に妹がくれたもの)や、市販のおもちゃのビー玉など、不揃いのものが透明なプラスチックケースに敷き詰められている。

何に使うでも、飾るわけでもなく詰め込まれている彼らを、ふとした時に手に取って転がしてみる。

ビー玉は、見た目ほど冷たくはない。どこか暖かみのある手触りだ。海を閉じ込めたようなコバルト、苔の生えた石が転がる川のような深緑(光の加減で色が変わる)、赤の模様は金魚のようで、濁った水色は雨の匂いがする……。小さな玉のひとつひとつがなにかを語りかけているようにも思える。どこかあどけない子供の瞳みたいで、目を離すことが出来ない。

小さい頃は、物には記憶があるのだと信じていた。今でもふとビー玉を見ると、それは本当なのではないかと思ってしまう。見てきた世界を憶えているみたいに、まるで記憶そのものみたいに、その透明は空虚ではなく、透明でいて深いのだ。

物語を閉じ込めたビー玉たちは、いつも私の机の左側の引き出しで眠っている。もしかしたらその秘密を紐解かれるのをずっと待っているのかも、しれない。

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