見出し画像

『鼻行類: 新しく発見された哺乳類の構造と生活 / ハラルト・シュテュンプケ著』のレビュー

概要

 生物学の三大奇書の一角として有名な『鼻行類』。鼻で歩いたり、鼻水で釣りをしたりする生物たちの世界。ただの作り話としてではなく、この生物たちは進化的に、構造的にありうるのか、今まで絶滅した生物は本当に実在したか、どう検証すればいいのか、ということを考えてみるとより一層この物語が色づいてくる。

内容は、

序論  7
総論  15
各グループの記載  27
 単鼻類(Monorrhina)  28
  古鼻類(Archirrhiniformes)  28
  軟鼻類(Asclerorrhina)  31
   漫歩類(Epigeonasida)  31
   管鼻類(Hypogeonasida)  44
   地鼻類(Georrhinida)  52
  硬鼻類(Sclerorrhina)  62
   跳鼻類(Hopsorrhinida)  62
 多鼻類(Polyrrhina)  85
  四鼻類(Tetrarrhina)  85
  六鼻類(Hexarrhina)  98
  長吻類(Dolichoproata)  114
参考文献  122
あとがき  130

 この本を読んで、「こんな生物ありえないだろ!」と感じた方、ぜひ動物園か水族館に行って現実の生物を見て頂きたい。鼻行類に決して劣らない奇妙な生物がウヨウヨいることが分かるだろう。もちろん人間も含めて。
 『鼻行類』のような本がなぜ少ないのか私には理解できない。「こういう進化の方向も考えられない?」「こういう生物がいてもよさそう」なんていう想像力を大事にしたい。人間は物語や虚構を受け入れられるのだから。もしかしたら、思ったような場所に思ったような生物がいるかもしれない。

一番好きな部分

 耳ととさかの位置がランモドキ属(Orchidiopsis)と異なるユリモドキ属(Liliopsis)3種のなかには、昼間眠っていて、夜《開花する》つまり捕獲姿勢をとるものが1種ある。アングロサクソンの文献では《glowing lilly》(光るユリ)、ドイツ語名をふつう《奇蹟ハナアルキ》(Wundernase)というこの種(Liliopsis thaumatonasus)は、その誘引粘液が光るのがたいへん特徴的である。他の動物の発光粘液(ブフナー〔BUCHNER〕を参照)と同じく、この奇蹟ハナアルキの場合にも光は共生バクテリアによって生じるものと思われる。

『鼻行類: 新しく発見された哺乳類の構造と生活 / ハラルト・シュテュンプケ著』
跳鼻類(Hopsorrhinida) p.83

 ここまで細かい説明が無から考えられようか。読めば読むほど、本当にいたのではという疑念が大きくなる。体の構造から、食性、生態、生殖行動、匂い、音まで詳細に記述されている。
 鼻行類は、この本のなかで、私たちのなかで、生きている。

評価

分かりやすさ   7/10
おもしろさ    10/10
手軽さ      8/10
有益さ      6/10
表紙のデザイン  9/10

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?