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令和3年税制改正大綱対応!電子帳簿保存法解説ウェビナー レポート

先日、辻・本郷税理士法人 菊地様をお招きし、電子帳簿保存法についてのウェビナーを実施しました。ご参加人数は約70名、ご質問も多数と大盛況!
本記事では、当日の内容をご紹介しております。ぜひ、ご一読ください。


登壇者紹介(敬称略)
辻・本郷税理士法人 菊池 典明
2014年税理士登録。 2012年に辻・本郷税理士法人大阪支部に入社し、株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングにも携わる。
2015年より経営企画室に所属し、クラウド会計の導入やクライアントのDXの推進などにも携わる。

株式会社AIトラベル 藤本了甫
2007年、大学卒業後に製造業に未経験で経理部原価計算担当になる。その後、外資系・日系・スタートアップでコーポレートを中心に業務改善を行ってきた。スタディプラス株式会社管理部部長を経て、2020年AIトラベルにジョイン。


今後のウェビナー情報は、ぜひこちらをご覧ください!



現状のおさらい

各種要件の整理

藤本:まず、現状の電子帳簿保存法の要件について整理しましょう。

フローを簡単にご紹介しますと、書類を受領したら、スキャン・撮影などによる読み取りか、会計ソフトなどで電子的に作成した帳簿への添付・保存を行います。電子的に作成した国税関係書類は、「電子帳簿等保存」に該当します。
請求書などをスキャンした場合には、「スキャナ保存」、取引先からメールで送られて来たり、ネット上からダウンロードした場合には、「電子取引」に該当するような要件になっています。

・電子帳簿等保存 電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存
・スキャナ保存 紙で受領・作成した書類を画像データで保存
・電子取引 電子的に授受した取引情報をデータで保存

e-文書法と電子帳簿保存法との関係

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藤本:こちらの図では、e-文書法に電子帳簿保存法が内包されているということを整理しています。

菊地様:「国税関係帳簿」「国税関係書類」は名前こそ似ていますが、全く別のものであるというのをご理解いただけるかと思います。今回の法改正にも関わってくる部分ですので、ぜひこの点はご認識を持っていただきたいです。

簡単にご説明しますと、「国税関係帳簿」は図の通りで、仕訳帳・総勘定元帳・補助元帳が代表的なものです。「国税関係書類」は、いわゆるBS/PLをはじめとした「決算関係書類」と見積書・受注書などの取引先と交わす書類である「取引関係書類」に分けられます。

「重要書類」は、カネ・モノの流れに直結する書類のことを言います。例えば、契約書、納品書、請求書が分類されます。「一般書類」はそれ以外の書類で、見積書、注文書、検収書などのカネ・モノの流れに直接は関係のないものが分類される、ということも押さえておくと良いでしょう。

また、税務面の補足としては、「国税関係帳簿」「国税関係書類」の保存期間は7年、欠損金が生じる事業年度については10年と定められています。紙でこの年数を保存するとなるとかなりのスペースが取られますので、省スペースも電子帳簿保存法対応のメリットになるかと思います。


令和3年税制改正大綱の内容

藤本:国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存制度を見ますと、一番大きいのは承認制度の廃止かなという印象を受けました。以前は、三ヶ月前に申請書類を所轄税務署に提出しなければなりませんでしたが、それが廃止になります。

また、システム・保存等に係る要件の緩和もありました。以前の内容では、真実性・可視性の確保として細やかな要件がありましたが、一般的な会計システムであれば問題なくクリアできる内容に緩和されています。

電磁的記録に関する修正申告・構成の過少申告加算税が、5%軽減されるということも、企業にとってはインパクトのある改正です。電磁的記録の要件を満たし保存していた際に、電磁的記録内に関する所得税・法人税・消費税に係る修正申告や更生があった時に発生する金額から5%控除された金額になるというものです。

菊地様:二つ目について補足ですが、「真実性の確保」の詳細としては、訂正や削除などの履歴の管理と入力時期を特定できることが要件としてあります。加えて、関係書類等の備え付けというものがあり、システムの説明書など各種マニュアルを備え付けるということなのですが、オンライン上でも可能とされていますので、印刷する必要はありません。相互関連の確保というのもありますが、こちらは一般的な会計システムであればまずクリアできる要件です。

「可視性の確保の要件」については、ディスプレイの表示やプリンタですぐに印刷できるような環境であるかといった見読性の確保というもの、検索能力があるかどうかというものがあります。
また、税務調査への協力というものも大きな要件としてあります。

現在はこれらをすべて満たす必要があったのですが、今回の改正によってぐっと運用しやすい要件になったかと思います。具体的には、「相互関連の確保」「関係書類等の備え付け」をクリアしていれば宜しいという内容になりました。

また、電磁的記録に関する修正申告・更生の過小申告加算税については、優良な電子帳簿である必要があります。改正前の厳格な基準をクリアしている場合には、国税庁のお墨付きとしての特典を設けるというものです。

国税関係書類に係るスキャナ保存制度の改正・電子的取引の電磁的記録の保存要件の改正

藤本:こちらからは、より重要な内容になってきます。まずは、国税関係書類に係るスキャナ保存制度の改正についてご紹介します。

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先程の話と重複しますが、所轄税務署への提出による承認制度が廃止されたり、タイムスタンプの付与期間が3営業日から最長二ヶ月に伸びました。併せて、訂正削除の履歴が確認できるシステムの場合には、そもそもタイムスタンプが不要であるとされています。

また、実運用において大きなハードルとなっていた、相互牽制・定期的な検査・再発防止策の社内規定整備などの要件も廃止されています。他にも、検索要件が緩和されたり、受領者がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署も廃止されたりと、かなり実務に即した、運用ができそうな改正内容になっていますね。

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電子的取引の電磁的記録の保存要件の改正については、スキャナ保存制度の改正とほぼ同じであると考えていただくと良いかと思います。

国税庁のペーパーレス化への本気度合いが伺える改正内容で、要点を抑えておけば、多くの企業が対応可能な内容になりました。

電子取引の出力保存廃止

藤本:今回、事前に「電子取引の出力保存廃止」について数名の方からご質問いただいています。

改正内容としては、税務上では出力書面による代替措置が「認められない」ようになっています。紙の保存が税務上の書類としては扱われなくなったということですが、これまで紙での保存をしていた企業にとっては大きな影響があるのではないでしょうか。

菊地様:時期的には、令和4年1月1日から義務付けられるということになりましたね。

具体的には、メールで請求書が添付されてきたら保存をしておくということでシンプルな内容にも思えるのですが、クラウドサービスやHP上、アプリでの受領にも要件があったり、メール本文に取引情報がある場合は、そのメール自体の保存が必要だったりと注意すべきポイントがいくつかあります。

また、FAXをメールで受け取ったと通知をするサービスを使われている場合も、「電子取引」となります。従来はFAXで来たものに関しては紙で保存しておけば良かったのですが、今回の改正によって電子データとして保存が必要となりますので、ご注意ください。

藤本:データ保存場所については、なにかルールはあるのでしょうか。

菊地様:はい、あります。まず、個人のローカルフォルダやデスクトップはNGです。
会計システム、文書保存システム、クラウドストレージでの保存が良いでしょう。

Googleドライブを活用している企業様も多いと思うのですが、全文検索ができるので、電子取引の電磁的記録の保存要件を満たしているように思われがちです。ですが、「日付、金額、取引先の3つの項目に限定」「範囲項目指定ができるデータのダウンロードの求めに応じること」という項目については、NGになります。なので、他のサービスを検討する、会計システムを活用するなどの対応をされることをおすすめします。

重加算税要件の追加

藤本:今回の改正によって、スキャナ保存や電子取引に関する不正絡みで、期限申告・修正申告・更生もしくは決定などがあった場合には、重加算税10%が加算されるようになりました。運用のハードルを下げた分、不正があった場合の罰則規定を設けたということですね。

菊地様:こちらは、個人の確定申告でもインパクトがありましたね。青色申告の場合、従来は65万円控除・10万円控除のみ意識し、正規の簿記の原則に従って記録していて電子申告をしておけば充分でした。
改正後は、e-Taxによる電子申告又は電子帳簿保存が要件に加えられましたので、今まで通りの方法だと55万円控除しか取れないという方もいらっしゃるかと思います。個人で青色申告をされている方は、ご注意意ください。

オペレーションの緩和、運用が現実的に

藤本:こちらの図にまとめましたが、オペレーションの要件がかなり緩和され、経理担当の方が1人であっても運用できるなど、実務者に寄り添った改正内容となっています。

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菊地様:必要人員が2人から1人になったということ、タイムスタンプの要件が緩和されたということは、今回の大きなポイントかと思います。今回の税制大綱で、はじめて「クラウド」という言葉が使われていましたが、ペーパーレス化・業務効率化に向け、企業の方に大きく前進いただける機会かと思います。

また、国税庁としても、税務調査や徴税の業務を簡便的に行いたいという意図もあると読み取れました。いざ、税務調査の際に気合を入れて書類を揃えていても、税務官の「データで見せてください」の一言で、せっかく用意した書類が無駄になってしまうといった場面に立ち会うこともありますが、彼らの意図を考えると、ペーパーレス化推進の流れは今後も続いていくのではないかと思います。

質疑応答

 Q.売上高1,000万円以上の場合の検索要件はどうなるのか?

A.こちらについては、「範囲項目指定ができるデータのダウンロードの求めに応じることで検索要件が全てが不要」ということで、つまりは通常の条件と同じになるということです。

Q.電子取引については税務署への申請という手続きはないので、電子帳簿保存法の適用を受けるかどうかに関わらず、全企業に適用されるということでしょうか。

A.ご質問の通りで、基本的には全企業の対応が義務化されています。

Q.GoogleドライブがNGであれば、dropboxも同様でしょうか。おすすめの文書保管システムがあればお教えください。

A.Googleが完全にNGであるとの公式見解はでていませんが、基本的に同じような検索機能のあるdropboxもNGになる可能性が高いかと思います。
おすすめのシステムとしては、個別の具体名はこちらでは避けますが、検索要件を考えると会計システムでの保存が最適解になるのではないでしょうか。

Q.メールで受け取った請求書、郵送された請求書はそれぞれ別で保存する必要があるということでしょうか。後者にもタイムスタンプを付与すれば、前者と同じような扱いができるのでしょうか。

A.前半部分については、ご認識のとおりです。後半部分はスキャナ保存要件に係るところかと思いますが、訂正削除の履歴が残るシステムをご利用されていればタイムスタンプ不要での保存が可能です。

Q.対応するにあたって注意する点などはありますでしょうか?

A.会社として電帳法に対応することでどのようなメリット・効果を得たいかをまずは検討していただきたいです。例えば、法令順守だけが目的という消極的なケースもあれば、バックオフィス、あるいは会社全体の事務フローを見直し生産性を高めたいという積極的なケースもあると思います。

目的次第で対象とする帳簿や書類の範囲、社内規定の整備対象、巻き込むスタッフの範囲も変わってくると思います。

Q.請求書の原本についても、申請不要であり、改ざん防止措置をしていれば定期確認不要で、スキャナ保存後に原本を破棄しても良いのでしょうか。

A.ご認識のとおりです。

Q.税理士・監査と進めるにあたってはどのようなことに気をつければ良いのでしょうか。

A.監査については、基本的に会計が論点になりますので、クラウドサービスを使っていれば問題ないかと思います。
また、公認会計士協会では紙の方が原本として担保する機能が高いと書かれている文書もありますので、実際に対応される監査法人との認識をすり合わせておくことをおすすめします。

Q.メールで受領した請求書をカラー印刷した場合、電子保存をする必要がありますでしょうか。

A.電子取引に該当するので、電子保存をする必要があります。

Q.銀行振込において、支払データ作成のために請求書を印刷するケースがあると思いますが、こちらも証票としては不可となるということでしょうか。

A.出力書面による代替措置がなくなりますので、印刷してチェックをするのは担当者様の自由ですが、税務上のエビデンスとはなりません。

Q.電子取引で、ファイルのタイトルに金額・取引先などを入れて保存したとしても、Googleドライブでの運用は難しいでしょうか。

A.国税庁のQ&A電子取引の問12で、①ファイル名に取引年月日、取引先、取引金額を規則的に記録、または②索引簿+ファイル名に付番をすることで保存要件を満たすことが明記されましたので、Googleドライブに保存する際に上記①または②を備えることで運用は可能と考えます。


ただし、問12については、個人事業主を想定した取り扱いであり、一定規模以上の会社についての運用は難しいと考えます。

Q.電子保存運用スタートから逆算していつから作成を開始すべきか?

A.会社の規模、対象とする帳簿・書類の範囲によってまちまちだと思います。
システム導入の比較検討で少なくとも2か月程度はみておいた方がよいと思います。
なお、2022年1月より電子取引は電子保存が義務化されましたので、最低限電子取引の電子保存はクリアできるように準備を進めていただきたいと思います。

まずは①会社内の電子取引の把握、ついで②保存方法(ファイルのリネーム、索引簿またはシステム導入)の検討の順で進めていただければと思います


Q.作成に時間のかかるポイントは何か?

A.質問の意図が読み取れず、保留とさせていただきます。申し訳ありません。

Q.優良電子帳簿の申請の書類作成、申請~承認にはどのくらい時間がかかるか?

A.申請書類については様式が出ていないと思いますので、お答えは出来ないかと思います。
なお、申請期限は、適用を受けようとする国税の法定申告期限となっています。

Q.スタンドアロン型の会計ソフトの場合、会計システムに紐づけるというのは、freeeの領収書貼り付けのようなものを想定していますか?

A.スタンドアロン型ではなくクラウド型かと思うのですが、それ以外はお問い合わせの内容も一つの方法にはなると思います。

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