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銀座から見えた女性の分岐点

仕事を辞めてもうすぐ1ヶ月が経とうとしている。
そんな中、前の会社の後輩達が焼き肉に行こうと誘ってくれた。

久しぶりに銀座という街に来た。
この日の天気はあんまり良くなくて、少しどんよりしている。
ルイヴィトンのビルの色と同化してしまいそうな雲の色。

ただ時期も時期だからか、暑さが和らいで涼しかった。秋がすぐそこに来てるようだ。

銀座の街をこんなにマジマジと見ることはなかったけれど、ルービックキューブみたいなビルが幅広く場所をとって一列に並べられている。

デパートであろう建物の中に試しに入るけれど、広さの割に売り場は少ない印象だ。
いや、私が入った建物がただ単に寂れていただけなのかもしれない。

色んな形のビルがちりばめられた新宿や、礼儀正しくオフィスビルが列をなしている大手町とはまた違った雰囲気の街並み。歩行者天国として整備された道路を歩いているのはだいたい日本人。ポツポツと外国人がカメラで写真を撮っている。

そんな光景を眺めながら徒歩10分。

ルービックキューブ状のビルが並ぶ隙間に穴埋めとして入れられたような細いビルの最上階。焼き肉を食べる会場はそこだ。

エレベーターに並んで待っていたら、後輩達に声をかけられ3人で一緒に上に向かうことに。

エレベーターのドアが開くなり目に入ったのはツヤツヤした大理石。
本当に焼き肉屋なのか?と言いたくなるようなサロンっぽいお洒落なお店だった。

私達の来店に気づいたスタッフが店の入り口へと歩み寄る。「個室へご案内します」と一言、段差の注意を促しながら先導してくれた。
案内してくれたのは、ベストを着用して清潔感のある男性スタッフでお店のイメージともズレがない。

個室も勿論、大理石仕様。居酒屋で個室は聞いたことがあるけれど焼き肉屋では聞いたことがない。

席に着くなり荷物を置く。スタッフが黒い紙エプロンを配ってくれて頭から被って食事の準備をする。

前菜を食べながら、焼き肉の肉が運ばれるのを待つ。

後輩の1人は結婚して妊婦さん。もう1人の後輩は最近プロポーズされて婚約中、もうすぐ入籍するとのこと。

3人で食事に行くのは久しぶりだったので会話はそれなりに盛り上がった。会社のこと、個人の報告事。

たまたま結婚指輪の話になった時、後輩の発言で印象に残った会話があった。

「結婚指輪はタサキにしたよ。もう店に行くこともないけれどね」

私はシライシだったよと、もう1人の後輩が会話にのる。

この会話を聞いていて皆、銀座で結婚指輪買ってるんだなと思ったのと彼女の「もう店に行くこともない」という言葉に不思議な違和感を覚えた。

例外や少数派があることはさておき、大多数は結婚指輪を購入したら、その店に通いつめることはないだろう。

指輪が壊れたりサイズが合わなかったりすることがあれば行くことはあるだろうけれど、これもまた少数で飲食店や薬局、美容室のようにリピートして利用するジャンルの店ではない。

結婚指輪を買ったら、それ1回っきりというのが多数派なのではなかろうか。

もう行くこともない、リピートすることもない、たった1回きりの結婚指輪購入=いずれ結婚することで人生が変わっていくと思うと、とても壮大に思えてくる。

銀座は結婚指輪の販売をしているジュエリー店がとても多く集中している。

私みたいに地方の個人店で結婚指輪を購入する例外派もいるだろうけれど、指輪購入という視点でこの銀座という街は女性の人生の分岐点のような役割を果たしているのでは、とも考えられる。

大多数は結婚したら、女性の方が名字が変わる。 
子供を産むとなったら女性だし、出産後2ヶ月は仕事を休まなくてはならないと法律で決められているのも女性である。

今日集まった3人も全員女性で皆それぞれ違う土地で違う生活をして人生を歩んでいくのだと思う。
過去に同じ職場で切磋琢磨して働いていた3人だった。そんなことがあったのがとても懐かしい。そして、もう今はみんな違う道を歩き始めている。

この女性の分岐点とも言えるような街で彼女達と会話を楽しみながら焼き肉を食べるのもなんだか感慨深かった。

そんなことを考えているうちに肉が運ばれてきた。閉鎖的な個室で1枚1枚丁寧に焼かれた肉は柔らかかったし上品な脂の味がした。こうやって気軽に集まることが出来るのも、もう最後かもしれない。

 サシが美しい米沢牛

食事を終えて彼女達と店の前で別れた後、秋の風に冷やされた空気を感じながら、もう1度、銀座の街を眺めた。

どんよりした空は変わらずだったけれど、今日も結婚指輪を買いにこの街に来てる人がいるかもしれない。知らない誰かが人生の分岐点に立っているのだなとそう思えた。

ザギンでシースー。そんな言葉があったな。
私が次、銀座に来る時は高級なお鮨が食べたい。
欲だけは忠実である。

東京メトロ銀座一丁目駅の地下鉄入り口で満たされたお腹を撫でながら、私は帰路についた。

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