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#95 ”人工氷河” お気に入りのTED talk(10)

”水”は,あるのが当たり前と思われている,なくてはならないモノの一つですネ.いつもは,ネタバレになってしまうのでTED本編のことはあまり触れないのですが,たまには内容を書いてみようと思います.(自分で見たい人は,動画を観てから以下をお読みください.)

https://youtu.be/wlppif9IJzI ”How to grow a glacier - M Jackson”

フビライを止めた”天然の氷の柵”氷河

 このTED EDの始まりは,チンギスハーンのヨーロッパへの侵攻を止めたものの一つに”天然の氷河”をあげています.このエピソードだけでも,歴史好きの人には面白いと思います.

水の貯蔵庫

以前,「白いダイア」についてnote記事を書きました.

https://note.com/aito_suzuka/n/n8c56a2426227

日本列島は,日本海と標高の高い山の二つの組み合わせで,雪解け水のおかげで水不足にならずにすんでいます.”雪”は,水の結晶である氷の”粉末”と言えます.積もった雪がいったん融けてもう一度凍ったり,あるいはたくさん積もった上の雪からの圧力で圧雪されたりして,雪に比べて密度が高くなったものが,もう一つの水の貯蔵庫である”氷河”です.

氷河の通り道

”氷河”の「川の流れ」は,なかなか気づきにくいですが,通った後を見ることでその流れと力強さがわかります.前回のnote記事の海水の”海洋大循環”の毎秒2センチメートルとは程遠い,もっとじっくりゆっくりとした流れです.北欧のフィヨルド海岸や,日本の穂高岳前のカールなど,氷河が削った大地をみるとスケールの大きさがわかります.

人工氷河

TED EDの中で,ヒマラヤなどの高地に住む人々は,灌漑のために人工的に氷河を作る文化(生活の知恵)があると言っています.日本でも”雄山”と”雌山”と呼んで地元の伝承があるように,ヒマラヤの山地でも”雄氷河”と”雌氷河”の伝説があるというのが,とても興味深かったです.氷河の子供を増やして,人間も豊かになるという発想は,科学ではなく”伝承文化”で脈々と伝えたその土地で生活を維持するための知恵なんだなと思います.

水平と垂直

TED EDで紹介されているのは,水平氷河と垂直氷河の人工的な作り方です.日本では気温が低いので,氷河つくりは無理ですが,雨の少ない地域などでは昔から”ため池”が作られていました.近頃では”ダム”と呼ばれる人工的な”ため池”?作られ,地域共同体で維持管理するというよりも行政に依頼する方式が日本では一般的になっているようです.

”田んぼ”の役割

 このTED EDを見て思ったのは,日本での「田んぼ」の役割です.私の実家は田舎で,周りは田んぼに囲まれていました.住宅が密集したところに住んでいる遠くの親戚のおばさんが夏の暑い日に来ると,田んぼから吹き抜ける風を受けながら「天然のクーラーだねぇ~.」と話していたのを思い出します.

 イネ科の植物を育てることは,太陽光をエネルギーとして蓄えるのに最も効率が良い方法だと,大学の学部でのエネルギー工学の教科書に書いてありました.(研究が進んだ今,もっと効率の良い方式があるかもしれません.)光エネルギーを食料に代えることができる稲作は,同時に大雨の水を貯える”調整池”としてのきのうもあります.近所で大規模な住宅が造成されると,必ず”雨水対策の調整池”が作られます.田んぼを潰したら,これくらいの池を作らないとないんだなと,調整池のそばと通るたびに思います.田んぼはある程度の水分があり,植物が代謝しているので,夏の日差しによる気温の上昇が低く,水分の蒸散によって”ほんの少し”表面気温が低くなります(条件によりますが).田んぼがあるということは,遮蔽物がないということなので,風通しがよく,体感気温が低くなる可能性があります.

 日本で”氷河”を作りましょうなどと言う気はありませんが,その土地ごとに昔からあるモノには,知恵が詰まっている可能性があると思います.新しいモノを考えるとき,従来のモノが果たしていた機能をできるだけ取り込めるように思考を深めることが大切なんだなぁ―と,TED EDを見て思った暑い夏の始まりの8月1日です.