第68回税理士試験〔法人税法〕理論問1解説

問1 まずは問題文から見てみましょう。

問題文の太字部分が今回の問われている内容(論点)になります。

 製造業を営む内国法人である甲株式会社(以下「甲社」という。)は、当期(平成30年4月1日から平成31年3月31日までの事業年度)末に有する資産について、次の〔事実関係〕が生じたため、その資産の帳簿価額と期末の時価との差額を当期の評価損に計上している。これらの評価損の税務処理につき、以下の(1)から(3)までの問いに答えなさい。
(1)法人税法における資産の評価損の取扱いについて、原則的な取扱いを簡潔に答えなさい。
(2)資産の評価損が認められる特定の事実を答えなさい。なお、資産の区分ごとにその事実が定められているものについては、それぞれの資産ごとにその事実を簡潔に答えなさい。
(3)次の〔事実関係〕1から4までについて、それぞれ計上された評価損の金額が、当期の損金の額に算入されるかどうか、その理由も合わせて答えなさい。
〔事実関係〕
1 商品Aは、甲社の中期的な販売計画に基づいて生産した商品であるが、思うように販売が伸びず、生産が過剰となったため時価の下落が生じている。そこで、商品Aの帳簿価額20,000,000円と期末の時価16,000,000円との差額4,000,000円を評価損として計上した。
2 商品Bを保管している倉庫が台風の被害を受け、浸水によって商品Bが著しく損傷した。そこで、商品Bの帳簿価額3,000,000円と期末の時価1,000,000円との差額2,000,000円を評価損として計上した。
3 甲社が有する有価証券C(帳簿価額5,000,000円)は、取引所売買有価証券(金融商品取引所の開設する市場で売買が行われる有価証券)に該当するが、期末における価額が3,500,000円まで下落し、近い将来その価額の回復が見込まれないことが確実となった。そこで、帳簿価額と期末の時価との差額1,500,000円を評価損として計上した。
4 甲社が有する機械装置Dは、商品の製造方法の急速な進歩等によって旧式化しており、その経済的価値が著しく低下している。そこで、機械装置Dの帳簿価額13,000,000円と期末の時価8,000,000円との差額5,000,000円を評価損として計上した。
(注)解答は、必ず、指定された枠内に記入すること。枠外に書かれたものは採点の対象にしない。
 なお、解答枠は書き損じ等も考慮して十分にスペースを設けている。

続いて、出題ポイント(国税庁HP「出題のポイント」参照)を見てみましょう。

~国税庁HPより抜粋~

問1 論点は、法人税法第33条の規定の正しい理解である。資産の評価損は、原則、損金算入されず、損金算入が認められるには、物損等の事実や法的整理の事実といった特定の事実が必要となる。
 このうち物損等の事実は、棚卸資産、有価証券、固定資産、繰延資産ごとに定めがあり、これらの資産の区分ごとに定められた事実が正しく理解できているかがポイントとなる。
 また、具体的事実関係への適用について、1に関しては、過剰生産による時価の下落は物損等の事実に該当しないこと、2に関しては、災害により著しく損傷したことは物損等の事実に該当すること、3に関しては、期末価額が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回らないものは物損等の事実に該当しないこと、4に関しては、製造方法の急速な進歩等によって旧式化したことによる経済的価値の著しい低下は物損等の事実に該当しないことが、それぞれ正しく理解できているかがポイントとなる。

今年はやたらと丁寧な出題ポイントがアップされましたね・・・(笑)

続いて、論点となった法33条の条文を確認しましょう。

第33条 内国法人が当該有する資産の評価換えをして当該帳簿価額を減額した場合には、当該減額した部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

法33条2項 内国法人の有する資産につき、災害による著しい損傷により当該資産の価額が当該帳簿価額を下回ることとなったことその他の政令で定める事実が生じた場合において、資産の評価換えをして損金経理により当該帳簿価額を減額したときは、当該減額した金額のうち、評価換えの直前の帳簿価額と評価換えをした日の属する事業年度終了の時における資産の価額との差額に達するまでの金額は、当該評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

法令第68条 法第33条2項(特定の事実が生じた場合の資産の評価損の損金算入)に規定する政令で定める事実は、物損等の事実次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であつて、当該事実が生じたことにより資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったものをいう。)及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。)とする。
一 棚卸資産 次に掲げる事実
イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。
ロ 当該資産が著しく陳腐化したこと。
ハ イ又はロに準ずる特別の事実
二 有価証券 次に掲げる事実
イ 第百十九条の十三第一号から第三号まで(売買目的有価証券の時価評価金額)に掲げる有価証券(第百十九条の二第二項第二号(有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法)に掲げる株式又は出資に該当するものを除く。)の価額が著しく低下したこと。
ロ イに規定する有価証券以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと。
ハ ロに準ずる特別の事実
三 固定資産 次に掲げる事実
イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。
ロ 当該資産が一年以上にわたり遊休状態にあること。
ハ 当該資産がその本来の用途に使用することができないため他の用途に使用されたこと。
ニ 当該資産の所在する場所の状況が著しく変化したこと。
ホ イからニまでに準ずる特別の事実
四 繰延資産 次に掲げる事実
イ その繰延資産となる費用の支出の対象となつた固定資産につき前号イからニまでに掲げる事実が生じたこと。
ロ イに準ずる特別の事実

それでは、解答方法を確認しましょう。

(1)及び(2)については、条文ベタの問題となりました。そのため、(1)については法33条の規定文、(2)については、特定の事実として、物損等の事実及び法的整理の事実を解答したうえで、物損等の事実については、資産ごとに区分されているため、①棚卸資産、②有価証券、③固定資産及び④繰延資産に区分して、それぞれ評価損計上の事実が簡潔に解答できていれば模範解答となります。

(3)については、出題ポイントの通りとなります。特に論点となっている物損等の事実に該当するか否かの部分を理由として触れたうえで、評価損が損金の額に算入されるか否かが結論となる解答になっていれば模範解答となります。

総 論

試験問題を開けた瞬間、資産の評価損の基本問題となっていたため、安心した受験生は多かったのではないでしょうか。特に(1)はほとんどの受験生が暗記できていたため、とりあえず解答できてホッとしたと推測されます。ここは確実に得点しておきたいところです。
(2)については、物損等の事実、会社更生法の場合及び民事再生法の場合は解答できたように思いますが、物損等の事実を資産ごとに区分して解答できたかが焦点になりそうです。
(3)については、計算の知識を使って解答することは可能でしたので、概ね問題なく解答できたと思います。

解答時間の問題及び解答欄の問題があるため、模範解答通りにはなかなか解答することは容易ではないと考えます。そのため、(1)、(2)の特定の事実並びに(3)について3/4解答できた方がボーダー、その上で(2)の資産区分が解答でき、(3)について完答できた方が確実ラインとなりそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?