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時を経て、祖母の想いを受け取った話

この春、長男が小学校に入学した。迎えた入学式。

入学式の主役はもちろん子供だ。それは100も承知なのだが、この話においては私を主人公にさせて欲しい。

子供がいるからこそ、子供が小学生になったからこそ、感謝しないといけないことがある。それは、入学式で祖母が30年以上前に準備していた着物を着れたこと。

私が「ばあば」と呼ぶ、母方の祖母は私が小学1年生のときにガンで亡くなった。あれから30年も経つのに、入学式は祖母の存在を痛いほど感じる1日となった。

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私はおばあちゃん子だった。世帯は別だけど、祖父母が1階、私たち一家が2階で暮らしていたので、いつもそばにいたような気がする。たくさん遊んでもらった気がする。そして祖母が亡くなってからも、ずっとばあばの影響を受けて生きていた。

たとえば美術。ばあばが展覧会に出品するほど絵を描くことが好きだったことに影響を受けて、私は美術学校に入った。結局、ばあばみたいな上手な絵描きになれなかったけど、ばあばが好きだった絵と6年間向かい合い続けたことで、ばあばのことをさらに好きになった。

着物も祖母の影響で好きになった。社会人になり、それまでずっと中に何が入っているか気になっていた祖母の桐箪笥を開けたことが、まさにそのきっかけだ。今回、入学式で着た着物に出会ったのもこのときだった。

箪笥を開けてみると、そこには素敵な着物がたくさんあった。一緒に着物を見ていた母が「うわ、懐かしい」「これは、ばあばが授業参観で着ていたのよ」「これ、パパとデートで着たんだけど、カフェでコーヒーかけられちゃった着物なの!」など、次々と嬉しそうに思い出を語ってくれた。

20年近く誰も開けていなかった桐箪笥から、たくさんの思い出がこぼれ落ちる。それがただただ嬉しくて、あの日、母とたくさん話をしながら着物を整理した。ばあばのこともたくさん思い出した。あの日はなんだか胸がいっぱいになった。今思い返してもそう思う。

そのとき見つけたのが、今回入学式で着た付け下げだった。付け下げは正式な場で着るような、フォーマルな着物の一種。上品なピンク色の生地に白い花が上品に描かれている。母ですら初めて見たという、まだしつけ糸がついた綺麗な状態だった。

しかも、すぐに色違いで似たデザインの付け下げも出てきた。どちらもサイズは全く一緒で、振りの長さが微妙に一般的な着物よりも長く、私が持っている長襦袢とうまく合わなかった。

だが、桐箪笥の中を捜索しているうちに、この付け下げとピッタリ振りの長さが合う新品の長襦袢が2着出てきた。そしてそのあとすぐに、新品と思しき白ベースで細かは可愛い帯も2つ出てきた。

着物と帯を並べるとほんとうに最高の組み合わせで「あれ、これぜんぶセットだったんじゃない⁉︎」「なんでこんな一式が?」と、母すら知らず驚いていたが、私たちは「ばあば、もしかして、娘2人(母と母の妹)のために仕立てたんじゃない⁉︎」という結論に達した。確かにサイズも母ぴったりだった。

爽やかなディープブルーの1着と華やかなピンクの1着。このときから、もし私が母親になることがあれば、どちらかを着ると決めていた。

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それから10年が経過した2024年4月。私は母親として入学式に出ることになった。そして2着のうちどちらにするかとても悩んだが、なんとなく入学式っぽいピンクの付け下げを着ることに決めた。

近くの美容院で着付けをしてもらうと、思った以上に華やかで、帯もキラキラと個性を主張していて、「ばあば、なんてセンスいいんだろう!」と思わずにはいられなかった。

きっと、ばあばもこの着物を着る娘たち(母と叔母)が見たかったはず。60歳で亡くなることになり、きっと後ろ髪をひかれる想いもたくさんあったはず。

私がそんなふうに思ってるくらいだから、母親を亡くした娘2人(母と母の妹)はより一層思っているはず。だからこそ、私には「これを私が着て、2人に見せなければ!」という強い想いがあった。そして入学式後、すぐに写真を母と叔母に送った。

「きっとばあば喜んでいるよ!」「着てくれてありがとう」

2人からそんなメッセージが届いて、ほっとした。着物って、こうやって家族の思い出を蘇らせてくれたり、未来を明るく照らしてくれたりする。いいなぁ着物って。だから私は着物が好きなんだ。

入学式当日の写真。

きっと祖母も見てくれていたんじゃないかな。そう思って心の中で祖母に伝えた。「ばあばが亡くなったときには小学校1年生だった私も、小学校1年生の子供を持つ母親になったよ!」って。

私も母になり、娘たちを想って着物を準備したばあばの気持ちがなんとなく想像できる。私もそれだけ大人になったんだな。ばあばの想いはちゃんと私が受け取ってるから。安心してね。

私が生きている限り、この着物はいつだって家族とのつながりを思い出せる大切な大切な宝物として、手元に置いておきたい。とりあえず次は次男の入学式で着ないと。


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