見出し画像

自分のWillを発掘し、社会でのありたい姿を構想するワークショップ【産総研デザインスクール特別シンポジウムレポート】

2024年10月8日(火)、産総研デザインスクールが主催する特別シンポジウム「『Willのあるリーダー』が活きるイノベーション経営とその組織運営のヒント」が開催されました。

シンポジウムの前半は講演とパネルディスカッションを実施。イノベーションを進めていくためには、牽引する存在として「目的を見出し、自発的に行動できる意志(Will)のある人材」が必要不可欠であることが言及されていました。

また、Will のある人材は先天的なものではなく組織で育てることができ、まずは自分の明確な Willを培うことが必要であることが登壇者の共通見解でした。

今回はシンポジウムの後半で行われたワークショップの様子をご紹介します。ワークショップでは、参加者が「My Will(自分の意志)の探索」をテーマに、産総研デザインスクールで実際に行っているワークを体験しています。参加者のみなさんが対話を通して、自分のWill を探求していくプロセスをお伝えします。

シンポジウムの講演部分はこちらからご覧ください▼

My willを探索するガイドとなる2つのニーズ

ワークショップの様子をお伝えする前に、My Willlとそれを探索する2つのニーズについてご紹介します。

産総研デザインスクールでは、技術を社会実装するプロジェクトを進めるために、デザインメソッドだけではなく個人の「My Will」が重要であると考えています。

My Willとは、単なる「自分がこうなりたい」という自己実現欲求ではなく、「社会の一員として、こういう世界を実現していきたい」という超越的自己欲求からくる行動目的のこと。産総研デザインスクールでは社会実装のノウハウと並行して、My Willの開発にも力を入れています。

産総研デザインスクール共同設立者の小島一浩氏はMy Willを発見するガイドとして「インナーニーズ」と「アウターニーズ」を探索することが必要であると指摘しています。

インナーニーズとは自分の内側で沸き起こる衝動や欲求で、感情が揺れる瞬間から見出すことが多いニーズです。一方、アウターニーズとは「社会から求められていること」を指し、社会問題や企業のビジョンなどが該当します。

産総研デザインスクールでは、さまざまな体験を通して2つのニーズをブラッシュアップしつつ、お互いが重なり合うところを探していくことで、My Willを模索していきます。今回はその入り口として2つのニーズを対話を通して発掘するワークショップとなっています。

ワークショップで使用されたワークシート

チェックインとグラウンドルールの共有

ワークショップはナビゲーターを務める小島氏と、株式会社Laere代表の大本綾氏から、場の基盤となるグラウンドルールを発表するところからスタートしました。産総研デザインスクールではIDOART*というフレームワークを使用し、場の全体像を参加者と共有していきます。

今回はWillのあるリーダーとしての第一歩を踏み出すことと、個人のニーズと社会のニーズの接続点を模索することが目的として設定されました。そのほか期待する成果やアジェンダ、それぞれの役割を参加全員で同意します。

そして、参加者全員チェックインを行いました。チェックインとは、参加者が場にコミットするマインドに切り替えるための儀式のようなもの。全員で輪になり、決められたお題で参加者が順番に話し「チェックイン」と言葉にすることで、それぞれがこの場に参加するマインドを整えていきます。今回は「最近、人の話をじっくり聞いたこと」でそれぞれのエピソードを共有していきました。

チェックインは参加者全員がそれぞれの話に耳を傾けることで、参加者の状態や場に対するリクエストも共有できる側面もあります。場の土台作りから参加者とともにつくっていくことが非常に大切なのです。

※I DO ART
ミーティングなどの場をファシリテートするときに使うフレームワーク。Intention(目的)、Desired Outcome(期待する成果)、Agenda(アジェンダ)、Roles & Rules(役割とルール)、Time(時間)の頭文字をとっており、ファシリテーターが目的に沿った場を形成するツールとして活用されている。

インナーニーズとアウターニーズを発掘する

チェックインを終え、ワークショップはニーズを探る段階へと入っていきます。まずはワークシートに自分のインナーニーズとアウターニーズを書いていきます。

最初はインナーニーズの欄に自分の好きなことや得意に感じているものから、最近モヤモヤしていることや挑戦したいことなど、自分視点で感情が揺れる瞬間を思い出せるだけ書き出していきます。その上で、アウターニーズとしてニュースや情報などを見て、自分の外側で起きていて、自分が気になる社会問題や企業の問題意識も記入していきます。

参加者の手元には、ニーズを引き出す手助けをしてくれる「問いのカード」も用意。これはインナーニーズをさまざまな角度から問いかける質問が書かれており、ワーク中に行き詰まった参加者がカードを眺めながら、じっくり自分の想いを深めていくツールとして使用されていました。

対話を通して自分のニーズを深めていく

続いて、ペアワークでそれぞれのニーズを深めていきます。話し手と聞き手に分かれ、最初に話し手が書いたことを相手に共有します。その際、聞き手はできるだけ判断を伴うコメントや自分の話はせず、自分の判断は一旦保留しながら、相手の言葉をそのまま受け止めることに集中します。

その後、聞き手から問いを投げかけ、話し手のニーズを深掘りしていきます。産総研デザインスクールでは「ラーニングフルクエスチョン」という問いかけの方法を使って対話を行います。ラーニングフルクエスチョンとは、相手の話を深掘りしつつ気づきを引き出すような問いかけのこと。聞き手はアドバイスやコメントをするのではなく、相手の価値観や学びを引き出していくことが大切です。

問いかけをする際は、自分の考えや価値観を保留し、シンプルで端的な質問を投げかけることがポイントです。回答範囲ができるだけ広い問いを渡すことで、相手の潜在的ニーズや価値観が引き出されていきます。

ペアワークでは、どういう問いを投げるかじっくり考えこむ参加者や、対話を通してはっと何かに気づく参加者の表情が印象的でした。自分とは考えが異なる他者との対話を通して、参加者は自分では気づかない価値観や想いのヒントを得ているようでした。

学びの共有を行うチェックアウト

ペアワークを終え、最後に参加者全員でチェックアウトを行いました。チェックアウトはチェックイン同様に全員で輪になり、お題に沿って順番に話していきます。今回は「ワークショップを通して気づいたこと・学んだこと」がテーマとなりました。

参加者からは対話を通して改めて考えたい問いを見つけたことや、自分が無意識に持っていたバイアス、自分の新たな一面をシェアする姿が見られました。また、自分の過去の経験を全員にシェアする場面も多く見られ、自然と自分の話をしてもいいという心理的安全性が担保されている空気感で満ちているように感じました。

「今回のワークを通して、My Wiillを見つけるきっかけになっていたら嬉しい」と締め括った小島氏。最後はみんなでお互いの学びにエールを送り合う形で拍手し、ワークショップは終了しました。

ワークショップに参加してくださった皆さんと

読者の方の中には、My Willを明確に見つけることが難しいと感じていらっしゃる方もいるかもしれません。しかしワークショップを通して、My Willはひとりでつくるものではなく、他者や経験を鏡にしながら探索し続けることが重要だと感じます。

明確なMy Willではなくても、まず自分の想いを周りに少し話してみる。そんなシンプルで小さな1歩が「Willのあるリーダー」となる第1歩となるかもしれません。



執筆・撮影:外村祐理子

いいなと思ったら応援しよう!