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愛してるなど烏滸がましい

iPhoneを閉じたところで真暗な6畳半には灯りが微かに震えて居座り、私が膝を抱えて眠りにつくのを嘲るように見張っている。ずっとちいさな頃から私は、幸せになるのが恐ろしかった。

タイツ嫌い、なんだかつま先が蒸れてそこだけ別の感覚になっちゃって気持ちが悪い。帰宅即脱ぎ捨てたいけれど、太腿にひきつれを見つけてしまったから暫く履いておくことにした。壊れかけた物はどうにも情けなくて、再起不能になる迄使い倒してしまう、多分、私という陶器のお茶碗も同じことだからなんだろう。君が全てを犠牲にして見たかった景色に私は居ましたか?黒光りするレンズに、ひび割れた骨董の螺旋が切り取られていたか私が知ることは無いけれど。

例えば私がこの世界で力一杯踏ん張って、その足で別の世界に立った時注がれてしまったら多分からりと終わる。たった一掬いの悪意が侵食して削り取られることもあるはずなのに、またそうやって私を割れ物扱いするんだね。小さくて良かったことなんて唯の一つも無かったよ。小さなお茶碗、側面には赤い実のついた名前のない踏まれぞこないの緑。稲光する真暗闇をあなたと眺めて、そんなことは当然だと云うふうに濡れた皮膚を摘んだ。私たちの恋はいつだってどしゃぶり、かつての向かい風のような恋愛ごっこを思い出して、私は霧のヴェールに覆われた花嫁のような愛をする。あの時と同じで周りの音はひとつも聞こえないけれど、私たちは何にも立ち向かわず目の前の実像を抱くだけ。

僕たちは、僕たちだけは、ずっとこのままです。って言葉を貰った時、私本当にどこにも行かずにここで愛されていていい様な気がしたよ。でも私は光の中を逝くね、たったひとつ、この街に残された宝物、或いは呪縛。どこにも私の席が無かったぬるい風吹く停車場に、また還ってくる理由に。左様なら、あなたのこと、はしっこだけは確実に愛してたよ。

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