CQCQ
定期的に同じ夢を見る。家に帰ろうとするとその辺りがすでに包囲されている。彼らは水色のジャンパーを着ていて、クリーニング業者を装っている。側には専用のトラック、白々しいロゴ。道中でたくさんの人が殺される。いつも死ぬのは同じ人だ。同じ登校班だった下級生たち。なんとか遠回りして帰ると、既に家の中に誰かが侵入した痕跡がある。家の中には母がいたはず、殺されているかもしれない。音を立てないように息を殺して、再び家を出る。出た瞬間弾かれたように走り出す。警察に電話をかける。なかなか繋がらない。ようやく繋がった電話の先からは老婆の声、火事ですか、救急ですか。今思えばかける先を間違えている。母が誰かに殺されそうです。場所は、場所、考えても考えても住所が出てこない、ここは、何個目の引っ越し先? 住所の断片、3の2の17、違う、1の11の23、違う、それはここじゃなくて、一個前の、ここは、わからない、わからない、〇〇の近くの、足は全力疾走をやめない。私は泣き出す。いや既に泣いていたかしれない。助けてください。助けてください。駆けながら泣き叫ぶ。言葉にならない。足は止めない。涙がとめどなく溢れてくる。老婆が応答する、わかりました、だけれども、こちらは今人手不足で、そちらに伺えるのは1時間先かと... 私は激昂する、全速力で駆けながら泣き叫ぶ、死んじまえ、お前らなんかみんな死んじまえ、役立たず、絶対にお前らなんかに頼らない、死んじまえ、いますぐに死ね、死ね、ああ、嘘です、ごめんなさい、嘘です、嘘ですから今すぐ来てください、お願い助けて、お願い、あなたしか頼れない、お願いなんでもするから、助けに来て、お願いします。いつの間にかショッピングモールにたどり着く。人混みで上手く走れない。ばかみたいに陽気なBGMが大音量で流れている。雑踏の中私の声は通らない。たくさんの人の肩にぶつかりながら泣く、助けてください、誰か助けてください。誰も彼も私とは反対方向へ足早に過ぎてく、みんな背が高い。みんな黒いスーツを着てる。私の声は届かない。振り返るとすぐ近くに水色のジャンパー、追いつかれた、殺される。いつの間にか手元にあったはずのスマホがない。母はおそらくあの部屋で死んでいる。私が住所を答えられなかったばっかりに、きっと警察はうまく辿り着けない。私がこの先どこへ逃げても水色のジャンパーはすぐそこにいる。誰も助けてくれない、助けを呼んでも応えてくれない。もう、助からない。
・・・
そこからいきなり話が飛んで、後日談へとシーンが移り変わる。母は生きていた。喉のところを少しだけ切られた痕が残っていて、母が動くたび傷跡が白く光る。引っ越そうと思うの、母が言う。ここじゃないところへ、一緒に引っ越そう。もう大丈夫だけれど、次はもっといいところに住もう。私は頷く。どうやって逃げたのか、どうして殺されずに済んだのか、何一つわからない。だけど私たちがこの先もずっと、あの水色の団体から逃げられないことだけが分かっている。どこに行っても、何をしていても、何度引っ越しをしても、彼らはそこにいること、それだけが直感で分かっている。目が覚める。夢と現実との境目が曖昧なまま、ぼんやりと天井を眺める。助からない、という感覚だけが残っている。
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