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忘れたくないこと

1年とか2年ぶりぐらいに、大学の友達と会った。同じ学部の友達で、私含めいつも5人で授業を受けたり、そのままファミレスに行ってご飯を食べたりしてた。もうみんな仕事なりなんなりで方々に住んでいるので、今回みんな揃って会えることになったのは本当になかなかない機会だった。

私はここ数ヶ月、人と会うのが本当に億劫になってしまって、今日の約束も行くべきかずっと悩んでいた。ベッドの中でも、歯を磨いている間も、当日特急の中でも、ずっと考えていた。トイレには4回ぐらい行って、その度鏡を見て前髪を整えた。待ち合わせの時刻まで時間を潰すために立ち寄った本屋で、やっぱり帰ろうか、と思ったところでどこいる?とLINEが来て、もう一度前髪を整えた。

久しぶりに会ったみんなは、全然変わってなかった。昨日も会ったみたいな気がした。昨日も一緒に五限を受けて、授業だりいみたいなことを言っては、明日バイト何時?とか聞いてしまいそうな、そんなぐらい私のよく知った日常がそのままそこにあった。

みんなで、大学生の頃の写真とかストーリーを見返して、今目の前のみんなは私の思うままのみんななのに、画面の中の私たちはびっくりするぐらい幼くて、私たちの大学時代がしっかり過去になっていることに驚いた。それで、本当に楽しかったねって話して、戻りたいねって話して、そっか、本当に楽しかったんだって気が付いた。

私は当時入ってた軽音サークルのことばっかりに夢中になって、それ中心に全てがまわってて、他のことなんて全部後回しだった。だからそうやって毎週、おんなじ授業を受けて、コンビニにご飯を買いに行って、学食でだらだら喋ってるあの時間のことを、たぶん無下にしてしまってた。

実はさ、って、去年の辛かったことをちょっと話したら、なんでその時言ってくれればよかったのに!と言われて、確かに、確かに本当にその通りだった。

私の全てだったサークルでうまくやれなくなって、私の全てなくなったみたいな気持ちになって、いや、今思い返しても辛いよ、本当に私の全てだったよ、そうだったけど、私はそれ以外の、きっともっと他にもたくさんあった愛しい時間のことを、全部なかったことにしてしまってた。

話してたらなんか笑けてきて、ちゃんと笑い話になってきてることに安心して、また今日ひとつやり場のなかった思いが成仏していくのを感じた。

帰り道友達が、電車のドアが閉まって、発車して、それで見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれた。みんなそれぞれの事情があって、それを抱えたまま、大きく手を振ってくれた。なんでその時言ってくれればよかったのにって友達の言葉が反芻して、私は多分これまで本当にたくさんの思いを無下にしてしまったのに、そんな優しい言葉、私はこれまでこの人に何ができたんだろう。

涙が出そうになるのを堪えるように吊り革を強く握る。たぶん、今もおんなじことを繰り返してる。今夢中になってるなにかに熱量を注いでいるうち、枯れてゆく何かがある。無下にしてしまった思いがある。私が気づかないうちに、私はなにかをどんどん失ってゆく。私は何に気付けるだろう。何を大事にしたらいいだろう。私に、何ができるだろう。忘れたいこと。忘れたくないこと。忘れてはいけないのに、忘れてしまったことを思い出した。

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