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アイデアソースは身近に

先日、娘と一緒に、デザイナーの新村則人(しんむらのりと)氏の講演会に参加してきました。無印良品が好きで将来デザイナーになるのを夢見ている我が娘。いろんな経験をして情報を集めて夢を叶えてほしい!会場はデザイン関係者、デザイン学校の教師や学生などでいっぱい。みんな個性的なオシャレさん達でした。

『らしさ+デザイン』

新村氏がデザインの仕事をする中で築いてきた“新村らしさ”と沖縄の伝統工芸を見直す“沖縄らしさ”の2つのテーマで話が進みました。
とても和やかな方で、話し方にもその人柄が表れていました。

新村氏のプロフィールを。
山口県の瀬戸内海に浮かぶ浮島(うかしま)という小さな島の出身。
漁師の家に生まれた8人兄妹の末っ子。
小学4年のとき赴任してきた先生の授業でポスターの魅力にはまる。
大阪のデザイン学校を卒業後、松永真デザイン事務所で腕を磨く。
独立して新村デザイン事務所設立。
数々のデザインの仕事で賞を受賞している。
20年前から無印良品のデザインも手掛けてきたという方。
主な仕事に資生堂、無印良品キャンプ場、日本マクドナルド、エスエス製薬、新村水産、東京オリンピック招致など。

この方のデザインのおもしろさは、彼がプレゼンテーションしていた“新村らしさ”を追求していったその姿勢・視線にある。
彼の“らしさ”とは、島の漁師の家に生まれ育ち、そこで見たり体験したりした記憶がアイデアソースになっていること。

例えば、彼の兄が営んでいる『新村水産』という小さな魚屋。(彼以外の男兄弟は皆漁師になったそう)魚屋の広告?とも思ったが、面白い試みである。宣伝というよりは、コンセプトを伝える広告になっている。
その広告デザインでは、紺色の地に白い方眼線で描かれた浮島の地図があり、その周囲に島で捕れる魚の名前が、捕れる場所に書いてある。この作品で賞に選ばれ“新村らしさ”が花開いた記念すべき仕事になったという。

その後も新村水産の広告デザインを手掛けている。
魚を捕る網に“新村水産”と刺繍?を施し、その網越しにエイやタコを撮影した作品『網』(↑写真)では、父が壊れた網を直していた小さい頃の記憶からアイデアが生まれている。
実際に網を海の中に沈めて魚を撮影して臨場感溢れる作品になっている。
網と直すための糸で作られた制作費0円のこの作品は、国際的なコンクールで賞を受賞した。

また、宙を舞う魚と漁師のポートレートを重ねた『漁師と魚』では、奥行きの狭いアクリル水槽を作りその中に魚を泳がせ、その水槽越しに漁師を撮影するという大胆な発想で制作した。
わざわざ船の上に水槽を載せて撮影しているらしく、運搬も大変そうであった。それでも船の上で撮影するのは、“釣ったタチウオが港に戻る前に死んでしまうから”という、漁師の息子ならではの発想があってのこと。他の魚に比べてタチウオは弱いらしい。

このような仕事は今の時代、パソコンで合成すればすぐにできそうなことだが、あえてそれをせず自分の“らしさ”を追求し、行き着いたのが今のスタイルだという。このアナログな手法が島の方々や自然との有機的な繋がり、温もりや和やかさを感じさせるように思う。

新村水産のページに新村氏の歴代の広告デザインが載っているので、見てもらえば一目瞭然です。⬇︎
http://www.shinmurasuisan.net/advertisement/

また、環境問題を訴える作品も多数ある。
“海の魚は森に育てられている。”
という、キャッチコピーも印象的な作品(写真⤵︎)では、葉っぱに魚の尾がついている状態を撮影したシンプルなもの。
北海道の漁師が山に木を植えているというテレビ番組からアイデアを得たという。木を伐採することが海に影響を与え、魚が捕れなくなってしまう。

“乱獲”がテーマの作品では、一本の釣り糸からたくさんの針が出ている、ちょっとギョッとなる作品。“魚の子供までが獲られている”というキャッチコピーにもハッとなる。

そして、娘が最も聞きたかったであろう、無印良品のデザインの話もしていた。
無印が経営する“無印良品キャンプ場”というキャンプ場が全国に3箇所あるらしい。
その広告のデザイナーを探すときに、海も山も自然が好きな新村氏ならやってくれるんじゃないかということで話が来たという(!)。
島育ち、田舎者(本人が言ってたので)、海山が好き→仕事が来た。
まさに“らしさ”が“らしさ”のまま仕事を生んだのである。沖縄島生まれの娘には朗報だったようだ。
若い頃は島出身ということで都会へのコンプレックスがあったようだが、次第にそのコンプレックスも捉え方次第だとわかったと話していた。

無印良品キャンプ場の広告デザインでは、魚拓ならぬ葉拓で作品を作っていた。
魚拓は魚に墨や絵の具で魚の絵を写し取るが、それを草の葉っぱでやっているのだ。
一度押し花にした草に絵の具を塗り転写する。これもルーツは、小学生のとき毎年夏休みに押し花の宿題が出ていたことに由来するという。

新村氏が一貫して言っていたのは、小さい頃の体験を記憶に留めていたことが“らしさ”のある仕事を生むということである。
きっと彼の中には小さい頃のとりとめのない(でも大切な)記憶が本当にたくさん残っているんだろうと思う。それがデザインのアイデアになるのだ。
僕はこの話はデザインだけでなく、いろいろなことに通じる話ではないかなと思った。
温めて大事にしておけば、使える日が来るのである。

以上が“新村らしさ”のお話でした。

アイデアソースは身近にある。

それを掘り起こせるかどうかが“らしさ”を引き出す鍵になると思いました。
沖縄はアイデアソースの宝庫だとも言っていました。“沖縄らしさ”のお話の方も今後載せたいと思います。

#デザイン
#教育
#新村則人
#らしさ
#無印良品

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