ここはすごい! ブックカフェ&バーの愉悦
突然ですが、昔モテた話を得々として語るオヤジほど気持ち悪い生き物はありませんよね。自分は「いい男」だったとニヤニヤするその頭髪はバーコード。透けた頭蓋骨の向こうに隠し持った欲望がドロッと流れ出てくるよう。何を期待してしゃべっているのか、鼻の下はノビノビ、唇はヌメヌメ……まさにゲテモノですよ、あれは。そう思うでしょ?
昔モテた話をするオヤジの脳内変換
と、ここまで下げておけば、大丈夫でしょう。
昔……モテたんです。
いや、そうじゃなくて、以前、銀座に「BOOK」という名のバーがあってですね、あるかわいい女の子に連れて行ってもらったことがあるんですよ。あっ、当時も今もハゲていませんから、頭蓋骨は透けてませんし、下心もありませんでした。ただ……本気だっただけです、はい……。
「ヒコーキさん! 一緒に行きましょうよ。先輩から教えてもらったお店なんですっ 予行練習しちゃった♡」。。。
かわいい人だったなぁ。バーテンダーもまだ若くて、珍しいシングルモルトを分けてくれたっけ。と、ここまで書いて、はたと気づきました。あれは、モテたことのない哀れな男への「親切心」だったのかも……。
はっ❗️ いかん、いかん。
そうじゃなくて、そのバー、今はもうないんですよ。かわいい彼女も、程なく去ってゆき、どこかで幸せに暮らしていることでしょう。旦那さんとお子さん二人に囲まれて……。
事ほど左様に難しいものなんです、飲食店の経営と恋愛は (^^ゞ。
決定的なのは、男性は女性から選ばれる立場である、ということ。古来から女性は太陽だったのです。飲食店も同様、お客から選ばれる側に立っていますよね。
いったいどれくらいの人から選ばれるか、立地や集客の戦略、販促費や人件費のコントロール、客数と回転率の見込みと実績分析、原価率や利益率の計算、ロス率の計算などが必要になってきます。初めての人が何の修業もなくいきなりやろうとしても、モテたことのない男が女性の扱い方を論じるくらい無理めな話なのかもしれません。
文学旅行が厳選! ブックカフェ&バー
というわけで、女性の扱い方を語る無理さ同様、飲食店の経営を論じることはやめ、代わりにこれまでの取材先から、個性派にして客足好調なブックカフェ&バーをご紹介します。前回記事同様、本と組み合わせることで、それぞれの商材をより有効に訴求する業態です。お客として訪ねれば、その居心地の良さから時間の過ぎるのもあっという間に感じるはず。本と珈琲の、あるいはお酒とのポイエーシスなひとときを、どうぞ。いつものように、画像をクリック(タップ)すると、そのお店を含めた旅(散策)コースへ飛びます。
BAR 十誡
銀座のビル地下1階。扉を開けると、そこは異世界です。こちらのお店、内装へのこだわりも強く、独特の世界観をもっています。ゴシックにして黒魔術的とでも言いましょうか、訪れる人を魅了します。選書センスは、基本からマニアック、ディープな稀覯本まで、まさに博覧強記。同様に、音楽選曲、そしてメニューづくりなど、どれをとってもプロフェッショナル。オーナーは何者? と舌を巻くばかりでした。
どうです? この文豪カクテル、ヘミングウェイですよ。飲みたくなったでしょう。いや、読みたくなったでしょう? 実は、本note記事の表題画像も、BAR 十誡さんのモクテル、宮沢賢治「ケンタウル祭の夜に」です。メニューの中には、現役アーティストとのコラボレーションなどもあって、アートな刺激が広がっていく楽しさを体験できます。
梟書茶房
池袋の話題スポット。テレビメディアでも取り上げられており、客数は多いです。ドリンクだけでなく、本とのセットメニューや、タイトルを隠した状態で販売されるシークレットブックなど、新しい工夫がふんだん。店内のゾーニングもおもしろく、本に関連したビジネスの可能性を追求しているところがすごい!
ね? どうですか? いったい何の本が販売されているか、分かりません。タイトルも、装丁も、隠されているんです。ただ言葉による推薦文だけで判断するんです。購入してはじめて中身が判明するんです。何という斬新さ! 開けてびっくり、本との幸せな出合いを演出しているんです。……るんです。
フォスフォレッセンス
東京・三鷹にある「太宰治文学サロン」から徒歩30分圏内の立地。店主の駄場さんは、同好の男性との「太宰婚」から独立開業までを記した自著をものしています。店内は、太宰治関連の資料がたくさん。貴重な初版本もあって、太宰ファンの聖地とも言われています。とはいえ、敷居はあくまで低く、本好きを自認する方なら、その雰囲気に和むはず。こちら、個人商店の良さが詰まっています。そして、カフェの腕前がピカイチなのです。
↑どうですか、この技。行ってみたくなったでしょ? 店名の「フォスフォレッセンス」は、太宰の掌編タイトルです。言語としての意味は「燐光」ですが、それを太宰は花の名前としました。おそらく、架空の花の。
オリエント・カフェ
こちらオリエント・カフェは、東京・文京区にある東洋文庫ミュージアム内のハイソでおしゃれなお店です。カフェめしとしては少々豪華になりますが、日本一美しい本棚を持つと読書界隈で評判のミュージアムだけに、そのランチは手の込んだ「本型」の器で提供されるんですっ!
ね? ほんとでしょ。にしても、美味そうです。パンがなければお菓子を食べればいい、と言い放ったアントワネットの名を冠するだけのことはありますよね。こちらメニューのプロデュースは小岩井農場。さすがの腕前です。一日10食限定。やっぱり、行くべきでしょう。
芝パークホテル
続いては、前回のnote記事でもご紹介した、1948年創業の歴史あるホテルです。都心・芝公園にある芝パークホテルが大胆な方針を打ち出し、1500冊を揃えるライブラリーホテルにリニューアルしています。書籍に関連するイベントも多く開催されており、本を通じて社会的価値の創造に取り組んでいます。選書を担当する銀座蔦屋書店も、実はすごい本棚を展開しているので、近々取材する予定。期待してお待ちを。今回は、大変身を遂げたアフタヌーンティーの中身をご紹介しましょう。
どうです? 雰囲気満点でしょう? こちらも本型の食器でイングリッシュティーを愉しむというもの。カクテルor乾杯ドリンク1杯付き。さらには……始まる前にホテルスタッフからライブラリーへ案内され、そこでゆっくりお気に入りの本を選び席へ、というまるで執事を伴っているような趣向です。
BUNDAN CAFE&BEER
目黒区にある日本近代文学館内のブックカフェです。言っても文学館ですから、そこはそれ、カフェであっても約2万冊の書籍があります。もちろんどの本も読み放題。でね、こちらの店もまた、インテリアのセンスが侮れないんですよ。どれもアンティークな雰囲気をまとってい、自宅にあればいいなぁと思わせるような小ぶりで温かみのあるものばかり。なのに、何気なく壁に掛けられているヴィジュアルはやっぱり現代美術で、その微妙なズレがたまらなく日本の「今=現代文学」を表してもいるよう。
カフェでは、メニュー名の多くが文学に寄せられています。本編(旅色連載)でご紹介したのは「シェイクスピアのスコーン」ですが、ほかにも芥川龍之介、寺山修司、中島敦などの名前の入ったメニューが。注文時に「あっ、芥川をお願いします」って言えるんですよ!
BOOK & BAR 余白
出版社や印刷会社の多い神楽坂。実は有名なブックカフェ&バーも少なくありません。花街の激戦区にあって、店内の広さ約6坪、カウンターは9席、こぢんまりとした空間なのに、壁一面に広がる特注の本棚には約2,000冊の蔵書が! そんなお店がこちら「余白」さんです。取材後の今、新たに昼の部を「sugeo coffee in 余白」と名付け、スペシャルティコーヒーと自家製スイーツを提供するようになっています。いわゆる二毛作ですね。昼はスペシャルティコーヒー、夜はアイリッシュウィスキー、なんて豪華な組み合わせなんでしょう。
取材時にたくさん画像をいただき、意気に感じて可能な限り多く紹介したいと思い、同じカテゴリーで複数の画像を集合させて加工したんですよ。で、それを旅色編集部に送ったところ「写真はまとめず、一点にしてください」と注意されてしまい、ボツってしまいました。ネットでの見え方や特性をまだ理解できていなかったんです (T_T)
どうです? 美味しそうですよね。やっぱりね、こういうお店でその日の疲れを癒やすことも、大人の日常には必要でしょう。軽い食事とお酒のマリアッジは至福です。根井店主ご夫妻が温かく迎え入れてくれるはず。ご主人は出版社にお勤めだったそうで、そんなところにもシンパシーを感じておりまして。。。
結論──昔モテた話の脳内変換
……と、ここまで、バーカウンターに独り佇み、スペシャルティコーヒーやモクテル、大好きなシングルモルトウイスキーを頂いてきました。いい感じで酔いもまわり、掌上に広げた文庫本もちょうど男女が出会う場面を読み終えて、今、気づいたことがあります。昔モテたと勘違いしている男の、哀れな顛末について。
あれは、モテたのではもちろんなく、またモテたことのない哀れな人への女子の「親切心」でもなかったのです。そうです、残る可能性はただ一つ。あれは「たかり」だったのでは……どうりで高いお店ばかりでした。。。
ああ、世の小悪魔たちよ、あまり無邪気にその能力を発揮しないでください。人を引き寄せる技術は、上記ブックカフェ&バーの店主たちに、どうかまかせておいて。そうでないと、女心の判らない無垢な人を奈落の底へ落とすことになりますから。
おしまい。
鹿子沢ヒコーキ
もしよろしければ、サポートしてください。いただいたサポートは、NPO法人の活動費として使わせていただきます。私たちは、貴方のサポートを必要としています。